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(3位? 本当に……?)



 ヒナタの励ましの言葉に、リリスはまた疑念を抱いてしまった。



 ヒナタには、リリスを騙す理由などないのに。



 レースで興奮した頭では、その程度のことすら理解できない。



 積み重なった疑惑が、リリスの視線を上げさせた。



 すると。



(嘘つき……!)



 リリスの念がヒナタを責めた。



 リリスの前に、4頭の猫が見えた。



 ヒナタは3位だと言ったが、実際は5位ではないか。



(バカ! 頭を上げるんじゃねえ!)



 走りを乱したリリスを、ヒナタが叱りつけた。



(だって……だって……!


 3位だって言ったのに……!)



 リリスは感情的になり、さらにヒナタを責めようとした。その直後。



「みゃあぁぁ……」



「えっ……?」



 4頭のうちの2頭が、急減速を見せた。



 みるみると後退し、後ろの群れに沈んでいった。



(二人は最初に脱落した猫だ。


 もう居ない猫だ。


 序盤に脚を使うとああなる。


 俺たちは三位だ。わかったら、走りに集中しろ)



(っ……すいません……!)



 ヒナタはずっと正しいことを言っていたのか。



 それなのに無駄に疑って、走りを乱して。



 自分は何をやっていたのだろうか。



 リリスは正気に戻り、しゅんと頭を下げた。



 ヘアピンカーブを曲がると、直線に入った。



 そこでリリスは、2位の猫を追い抜いた。



 直線の先は、左100度のコーナーとなっていた。



 その直後、右30度のゆるいコーナーを曲がり、最後の直線に入った。



 ……10ニャ身ほど先を、トップの猫が走っている。



(行くぞ! ラストスパートだ!)



(はい!)



「『華花絢爛-かかけんらん-』!」



 リリスは声を張り上げて、カース名を響かせた。



 力を全開にし、リリスはトップランニャーを追った。



 リリスの周囲で強化呪文の花びらが、綺羅星の如く輝いた。



 9ニャ身。



 8ニャ身。



 7ニャ身。



 6ニャ身。



 5ニャ身。



 リリスとトップの差が、4ニャ身差にまで縮まった。



(良し……! 追いつける……!)



 リリスの速度とゴールまでの距離から、ヒナタはそう判断した。



 …………だが。



(えっ……?)



 ヒナタの予想に反し、リリスは失速した。



 あと少しだというのに、先頭との差が縮まらない。



(脚が限界……? そんなはずは……。


 気合が乗り切らなかったのか?


 いや……これは……)



 ヒナタは敗因を悟った。



 先頭の猫がゴールを駆け抜けた。



 6ニャ身の差で、リリスが2着でゴールを抜けた。



 後続の猫たちが、次々にゴールインしていった。



 最初に暴走した猫たちは、最下位に終わった。



 レースを終えたリリスは、徐々にペースを落とした。



 そして肉声でこう言った。



「あの……すいませんでした」



「何がだよ?」



「最後、もうちょっとのところで追いつけませんでした」



「アホかよ。おまえは」



 鞍の上で、ヒナタは苦い笑い声を漏らした。



 彼の疲れた顔は、リリスの位置からは見えなかった。



「っ……!? そんな言い方はないでしょう!?


 いくら私の走りがふがいなかったからって……」



「違う」



 声音を改めて、ヒナタは言葉を断ち切った。



「そういう話じゃないんだ。アレは」



「だったらどういう話だっていうんですか……!?」







「アレは俺の魔力切れだ」







「えっ……」



 スパートで魔力を燃え上がらせたヒナタが、スタミナ切れを起こした。



 最後のリリスの減速は、それが原因だった。



 ヒナタの計算によると、彼の魔力はゴールまではもつはずだった。



 結局のところ、その判断は誤りだった。



 彼は無様にも、魔力を枯渇させることになった。



 おかげで強化呪文の力が弱まり、リリスは勝つことができなかった。



 体調不良がスタミナに影響したのだろう。



 ヒナタはそう判断していた。



 本調子であれば、最後まで走りきれただろうが……。



(体調を崩したせいで魔力がもたなかった……なんて、


 言い訳にもなりゃしねえ。


 俺がまともなジョッキーなら、


 勝たなきゃいけないレースだった。


 俺がヘボジョッキーだったせいで、速い猫を負かした)


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