2の16の1「リリスと動画」
リョクチャへの依頼の翌日。
ホテルヨコヤマの名義で、ヒナタ宛てに小箱が届いた。
昼過ぎに荷物を受け取ったアキコが、夕食時に荷物を手渡してきた。
夕食後の食堂で、ヒナタは箱を開封した。
すると中から、外付けのSSDが出てきた。
「小さいんですね」
文庫本より小さい小箱を見て、リリスがそう言った。
「技術の進歩ってやつだな。
これ一個に、むかしの猫の映像も入ってるのか。
膨大なデータをこんな短時間でまとめてくれるなんて、
さすがはホテルヨコヤマってところか」
「あんなもの、でかいだけの砂上の楼閣ですよ。
ところでそのSSD、臭くないですか?
ファブっておいたほうがよろしいのでは?」
ニャツキは鼻をつまみ、空気を追い払うような仕草をした。
「はいはい。
ヤニャギさん。ホテルのパソコンを借りますね」
「ええ。どうぞ」
ホテルの備品のノートPCに、ヒナタはSSDを繋いだ。
そしてフォルダ内の動画データをチェックしていった。
「けっこうな数だな。
とりあえず、頭から見てみるか」
ヒナタは動画ファイルをダブルクリックした。
すると動画プレイヤーが立ち上がり、レースの映像が再生された。
数分動画を見て、次の動画に移った。
とりあえず10本の動画を見終わると、ヒナタがリリスに話しかけた。
「ニャカメグロ。
どの猫の体型が自分に似てるかわかるか?」
「そんなこと言われましても……」
リリスが困っていると、ニャツキが口を開いた。
「リリスさんの映像も取り込んで、
並べて再生してみれば良いのでは?」
「なるほど」
リリスの映像であれば、ねこカメラで山ほど撮影してある。
ヒナタはカメラ内の映像の一つを、ノートPCへと移動させた。
そして資料と並べて再生していった。
だが三人とも、ピンと来た様子はなかった。
「気長にやるしかないか」
ヒナタはノートPCを閉じた。
「キタカゼ=ヒナタ?」
「だいぶ時間がかかりそうだ。
俺が見つけとくから、
おまえらは普段の練習でもしてろよ」
「やはり暇人……」
「うるせえ」
「お姉さま。そろそろ次のレースに登録しても良いでしょうか?」
「……そうですね」
ニャツキはなぜか歯切れの悪さを見せた。
その理由がわからずに、リリスは疑問符を浮かべた。
「お姉さま?」
リリスの疑問符の意味がわからなかったのか。
ニャツキはきょとんとした顔をリリスに向けた。
「何でしょうか?」
少し違和感があっただけだ。
深く追求するようなことでもない。
リリスはそう思い、話を切り上げた。
「いえ。何でも」
「俺様も、そろそろ次のレースを決めましょうかね。
いっしょに行きましょう」
「はい。ぜひ」
翌朝。
リリスはニャツキといっしょに、ねこセンターへと出かけていった。
ヒナタは自室にこもった。
ノートPCを使い、淡々と動画をチェックしていった。
……その一週間後。
朝食時の食堂で、ヒナタがリリスにこう言った。
「ニャカメグロ。メシが終わったら、ちょっと良いか?」
「何でしょうか?」
「前に送ってもらった映像、
おまえに体型が似てる猫を、5人にまで絞ってみた」
「えっ早いですね」
「早いか? 一週間もかかっちまったが」
「それじゃあ、遅かったですね」
「悪うござんした。
で、一緒に見て、確認してくれるか?」
「わかりました」
朝食を終えると、ヒナタは自室に向かった。
リリスもその後ろに続いた。
ヒナタは部屋の鍵を開け、中に入って行った。
そしてリリスを外に残し、ドアを閉めようとした。
リリスがドアの板をがしりと掴んだ。
「あの、入れませんけど、嫌がらせですか?」
「いや。PCはロビーに持ってくから、
そこで待ってろよ」
「…………そうですか」
「あと、ドアの間に手を入れんな。
危ないだろうがよ」
「猫だからだいじょうぶですけど」
「とにかく、そこで待ってろ」