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それから少しして、ヒナタがこう提案した。
「思ったんだが……。
自分の走りばっかり見てるんじゃなくて、
他の速い猫と見比べてみたらどうだ?」
「それは……。お姉さまに聞いてみます」
「ああ。もうちょっと走ってくか?」
「そうですね」
また二人で走った。
「あれ? おまえちょっと速くなったか?」
「なってませんけど」
走り疲れると、二人はホテルに帰還した。
そしてニャツキの部屋で、彼女と話をすることになった。
「それで他の猫の走りと、
見比べてみようかって話になったんだが、どうだ?」
ヒナタの話を聞いたニャツキは、彼に冷めた視線を向けた。
「……何だ?」
「お二人で、ずっといっしょに練習をなさっていたのですか?」
「そりゃあパートニャーだしな」
ヒナタは嬉しそうに言った。
リリスがすぐに、ヒナタに食ってかかった。
「パートニャーじゃないです!」
「…………」
拗ねたような顔で固まったニャツキに、ヒナタが声をかけた。
「おい、それでどうなんだ? ハヤテ」
「あっ、えっと……?」
「走りの映像を、見比べたらどうかって話だ」
「う~ん……。
ちょっと難しいかもしれませんね」
ニャツキは難色を示した。
「どうしてですか?」
「同じ猫といっても、
それぞれに体型が違いますからね。
最適な走り方も、それぞれに異なってくるわけです。
ただ速い猫をまねするだけでは、
逆効果になるかもしれませんよ」
「だったら……。
体型が同じ猫の走りなら、
参考になる可能性もあるか?」
「そうかもしれませんが、
ちょうど良い猫を探すのも一苦労だと思いますよ。
リリスさん。
走りを完成するのに、急ぐ必要はないのです。
時間はじゅうぶんにあります。
1年2年とかけて、
ゆっくりと速くなっていけば良いのですよ」
その言葉は、リリスの表情を和らげることはなかった。
それどころか、彼女はむしろ思いつめたような表情になった。
「…………」
そんなリリスの様子に気付き、ヒナタがこう言った。
「もう負けたくないんだってよ。こいつも」
「にゃるほど」
「……かってに人のイシを代弁しないでください。キタカゼ=ヒナタ」
硬いままの表情で、リリスはヒナタを睨んできた。
「悪かったよ。さて……」
ヒナタはポケットから、携帯を取り出した。
そして誰かに電話をかけた。
「はい」
携帯のスピーカーから、ノノミヤ=リョクチャの声が響いた。
「ノノミヤさん。ヒナタです。マニャねえの弟の。
ちょっとお願いしたいことがあるんですが」
「ヒナタくん? 何でしょうか? ……あっ」
電話の向こうで、リョクチャが驚いたような声を漏らした。
そしてドタドタとした物音の後、マニャの声が聞こえてきた。
「ヒナタ!? 何かあったの!?」
緊急事態だとでも思ったのか。
マニャは動揺した声でそう尋ねてきた。
ヒナタはそんな姉に、呆れ声を返した。
「いや。ノノミヤさんに用があるんだけど」
「そう……。最近どう? 風邪とかひいてないでしょうね?」
今は世間話をするつもりはないのだが。
そう思ったヒナタは、こう言ってマニャを脅した。
「あのさ、近くにミヤねえも居るんだけど」
「っ……!?」
嘘だったが、効果は覿面のようだ。
すぐに電話向こうの声が、リョクチャのものに変わった。
「もしもし。ノノミヤです」
「はい。あの、歴代のAランクランニャーで、
特定の身長、体重の猫の映像だけ、
手に入れることってできませんかね?」
「できますよ。なにせうちは、ホテルヨコヤマですからね」
「それじゃあ、ホテルヤニャギの方に送ってもらえますか?
必要なら代金は支払わせていただきます」
「いえ。ヒナタくんからお金は取れませんよ。
すぐに用意しますから、明日には届くと思います」
「早いですね。助かります。
ニャカメグロ。おまえの身長体重っていくつだっけ?」
「あなたには言いたくないです」
「ええ……? 体重くらい良いだろ……?」
リリスはリョクチャに直接、個人情報を伝えることになった。
それが終わると、リリスはヒナタに携帯を返した。
「それではお願いします」
「はい。それではまた」
通話を終えたヒナタは、ポケットに携帯をしまった。
するとニャツキが、白い目を向けてきてこう言った。
「……敵に塩を求めたのですか? ヒニャタさん」
「敵じゃないが。身内だが」
「キショイですよ。ヒニャタさん」
「えぇ……?
だいたい、ランニャーのことが最優先だろ?」
「そうですけど、それとこれとは別問題です」
「ソーデスカ」