2の15の1「リリスとヒナタの提案」
「ますますって、べつにダメじゃないだろう。おまえは」
ヒナタは本心からそう言ったが、リリスは落ち込んだままだ。
「ダメですよ。
私がダメだから……シャルロットさんにも見捨てられたんです」
パートニャーが鞍から降りた。
初めての体験が、リリスを動揺させているようだ。
実態以上に、彼女をネガティブにさせてしまっている。
「それは違う。
あいつが鞍を降りると決めたのは、
地属性の呪文の習得が
うまくいかなかったからだ。
俺の方が、
おまえのカースと噛み合ってるって判断したからだ。
誰もおまえのことを、
ダメな猫だなんて思ってない」
「けど……やっぱりダメですよ。
お姉さまは私の数倍はたらいても、
弱音の一つも吐かないのに。
私はこれっぽっちの練習で、
嫌になってしまうだなんて」
自信がないから、闇雲な練習に走る。
練習がうまく行かないから、さらに自信がなくなる。
彼女はそんな悪循環に陥っているようだった。
「ハヤテはあいつなりに、楽しんでやってるんだと思うぞ。
何もかもつらいことばっかりだったら、
いくらなんでも続かねえだろ。
おまえももうちょっと、楽しんでやってみろよ」
「ちっともうまくいかないことを、
どうやって楽しめば良いんですかね」
「それも含めて、ハヤテに相談してみたらどうだ?
あいつは自称、宇宙最高のトレーニャーだからな。
解決策を出してくれるかもしれんぞ」
「……はい」
リリスは微かに頷いた。
「今日はもう止めとくか?」
「いえ。もうちょっとだけ頑張ってみます。
騎乗をお願いします」
「良いぜ」
ヒナタはリリスの手綱を取り、彼女を走らせた。
そして少し走ると、また映像をチェックすることになった。
「…………」
渋い渋い顔で、リリスはモニターを睨みつけた。
その横で、ヒナタが口を開いた。
「なあ」
「何ですか?」
リリスは疲れた顔で、ちらりとヒナタを見た。
「すごい頻度で映像チェックしてるけど、
これっておもしろいか?」
「つまんないですけど?」
リリスの表情が、少しだけむっとなった。
いつものように噛み付く元気は、彼女にはないようだった。
「いっかいコレやめて、
感覚に任せて走ってみねえか?」
「けど、定期的に映像をチェックするのが良いって、
お姉さまが言ってましたけど」
「その回数を増やしすぎて、
神経質になってるんじゃねえかって話だ」
「それは……」
本人にも自覚はあったのか。
リリスは言葉を濁らせ、顔を俯かせた。
「楽しく走ろうぜ」
「わかりました」
それからしばらくの間、二人はただ走り続けた。
ちょっと疲労感が溜まるくらい走ると、リリスは脚を止めた。
「ふぅ……」
「どうだ? 何か掴めたか?」
「いえ。さっぱり」
「それじゃ、休憩するか」
「はい」
また映像を見ることになった。
今までと違い、リリスは楽な姿勢でくつろいでモニターを見た。
「あっ」
何かに気付いたのか、リリスが声を漏らした。
「どうした?」
「いえ。特に何も」
じゃあ今の声は何なんだよ?
ヒナタは怪しむようにリリスを見た。
「…………」
「…………」
リリスは何も言わない。
二人の間に、微妙な沈黙が漂った。