表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/172

2の14の2


 日が暮れるまで、同じ事をひたすらに繰り返した。



 走りを終えたリリスは、最後の映像チェックを行った。



「ぜんぜん良くなってない……」



 自分の走りは、昨日と何も変わっていない。



 今日もまた、一日が徒労に終わった。



 そんな暗い気持ちで、リリスはホテルに帰った。



(ウェイトトレーニングのほうが、よっぽど楽だったな……)



 次の日も、次の日も、リリスは同じことを繰り返した。



 ウェイトトレーニングのおかげで、彼女の筋力は少しずつ上昇していた。



 なのに走りのほうは、いっこうに良くはならなかった。



 心に疲労が蓄積し、思わずこう呟いた。



「走るのが……楽しくない……」



 そのとき。



「鞍に乗っててやろうか」



 暇そうに、ヒナタが姿を現した。



 ……自分はこんなにも苦労しているのに。



 楽しそうだ。幸せそうだ。



 どうして私は苦しんでいるのに、この男はそうじゃないの?



 妬みの色に染まったドロリとした視線が、ヒナタを突き刺しにかかった。



「……あなたは良いですね。暇そうで」



「べつに暇じゃねえよ」



「だったら私なんかに構わず、


 忙しいお仕事にでも邁進されてはいかがですか?」



「そうしたいところだが、


 オマエがあんまりにもつまらなさそうに走るもんだからよ。


 次のレースは、俺とおまえで走るんだ。


 そんな顔で走られたら、


 俺の気も滅入るってもんだ」



「それは悪かったですね。


 けど……こういう努力は一人でやり遂げるものでしょう?


 あなたの手を借りたからといって、


 どうなるものでもないと思いますけど」



「二人のほうが楽しいだろ?」



「あなたと走っても、私は楽しくありません」



「遠慮すんなよ。困った時はお互い様だろ」



 ヒナタは強引に、リリスに鞍を取り付けてきた。



 リリスは呆れてため息をついた。



「まったく……強引な人」



 陰気なリリスの声に、ヒナタは陽気にこう返した。



「嬉しいんだ。パートニャーができて」



 そこには曇りのない微笑があった。



「パートニャーじゃないです。


 ……ふがいない所を見せたら、すぐに鞍をおりてもらいますよ」



「ああ。頑張るよ」



 ヒナタは鞍に跨り、魔導手綱を手に取った。



「さあ、張り切っていこう」



「乗っかってるだけのくせに」



 リリスはヒナタに呆れ声を向けた。



 だがその声は、先ほどまでと比べると、少し明るかった。



 二人でコースを何周か走った。



 そしていつものように、カメラの映像をチェックすることになった。



「…………」



 渋い顔で、リリスはモニターを睨みつけた。



 横からのんきな声で、ヒナタがこう尋ねてきた。



「前となんか変わったか?」



「ぐ……」



「ぐ?」



「ぐにゃーっ!」



 リリスは大きく前脚を上げ、ヒナタを押し倒そうとしてきた。



「うおわっ!?」



 ヒナタはリリスを受け止めた。



 彼女がぐいぐい押してくるので、根負けして地面に倒れた。



 リリスはヒナタをふみふみし、胸の内を吐き出した。



「つまんないつまんないつまんないつまんない! 


 クソつまんないんですよこの練習!!


 1ピコもおもしろくないんですよーっ!!!」



「ふっ……ははっ」



「何ですかその笑いは」



 こっちは真剣で、笑い事ではないのだが。



 リリスはむっとして、ねこ特有の大きな瞳を、ヒナタの顔に近付けた。



「言えたじゃねえか。つれえわって」



「言えたらなんなんですか」



「ちょっと根を詰めすぎなんじゃねえか?


 朝から暮れまでやってないで、


 別の練習を増やしてみたらどうだ?」



「変な練習を混ぜても、効果ないですよ。


 もしこれより良い練習があるのなら、


 お姉さまが黙っている理由がありません。


 この練習が今の私にとっては、


 いちばん良い練習なんです」



「効率を言えばそうなのかもしれんが。


 おまえはハヤテのやつに、


 気持ちの相談はしてないんだろ?


 俺にやったみたいにぜんぶ吐き出してみせたら、


 あいつだって別の練習法を教えてくれるんじゃないか?」



「お姉さまにそんなこと言ったら、


 私はますますダメな猫じゃないですか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ