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2の14の1「リリスと鬱憤」


「わかっています。それでも、


 できる限りのことは、自分でやりたいのです」



「自分のことは自分でやるべき。


 それがおまえの信念なのか?


 けどおまえは、他人のことをアレコレとやってるよな。


 筋が通らないんじゃねえか?」



「信念などという大層なものではありません。


 性分の問題です。


 それと、俺様はトレーニャーです。


 トレーニャーがランニャーのめんどうを見ることは、


 職分の内です。


 俺様の中では筋は通っているつもりですが」



「おまえはライセンスがないからって、


 トレーニャー報酬を受け取ってないだろう。


 プロでもないのに身を削りすぎじゃねえのか?」



「プロフェッショナルですよ。俺様は。


 ライセンスを持っているだけの有象無象よりも」



「実力はそうかもな。


 けどおまえには、


 ランニャーとしてやらなきゃいけない事も多いだろう。


 トレーニャーとランニャー、


 どっちがおまえの本分のつもりなんだ?」



「両方です。


 俺様という最強のランニャーが、


 俺様こそが最高のトレーニャーだと証明する。


 そうでなくてはならないのです」



「どうして二足のワラジにこだわる?


 片方でてっぺんを取れるだけでも


 凄いことだと思うがな」



「それは……話しても理解できませんよ」



 ニャツキは前世の無念を晴らすため、最強ニャを育てなくてはならない。



 だがニャツキには、他人を信用することができない。



 だから彼女は、自分自身をパートニャーとする必要があった。



 ニャツキの考えを理解させるには、前世のことを話さなくてはならない。



 それはニャツキにとっては、とても恐ろしいことだ。



 正体を話すことで、家族が自分を見る目が変わってしまうのではないか。



 そう考えただけで、ぞっと体が冷える。



 だから彼女は、言葉を濁すことしかできなかった。



「置き物に話すことじゃないってか」



「そういうわけではないですけど……」



「とにかく周りから見て、


 おまえがぼんやりしてるのは事実だ。


 しっかりしろよ。大将」



「……わかってますよ。ふん」



 ニャツキはツンとそっぽを向いた。




 ……。




 ねこダウンフォースの訓練のため、リリスは練習用コースを駆けていた。



 彼女の近くをねこカメラが飛翔し、走りの様子を撮影していた。



 何周か走ると、リリスは脚を止めた。



 そして肉球でねこカメラを操作すると、自身の姿をモニターに表示させた。



 数分間モニターを見つめた後、彼女はこう呟いた。



「ダメだ……ぜんぜん良くなってない……」



 彼女はカメラを撮影モードに戻し、走りを再開した。



 コースを駆ける彼女の喉から、弱気な声が漏れた。



「私はダメだ……」



 夕方まで練習を続けたリリスは、ションボリとホテルに帰還した。



 そして暗い顔で夕食をとることになった。



「だいじょうぶですか? リリスさん」



 向かいの席で、ニャツキがリリスを気遣う様子を見せた。



「……何がですか?」



「いつもより、元気がないように思えたのですが」



「平気です。


 それよりお姉さまの方こそ、きちんと休んでいるんですか?」



「ええ。俺様はセルフマネジメントの鬼ですから。


 ……ほんとうに、何も問題はないのですね?」



「はい」



 じーっと、ニャツキはリリスを見た。



「にゃ、にゃんですか?」



 ニャツキに凝視され、リリスは居心地の悪さを見せた。



「どこか悪いところはないか、観察しているのですが」



「じっと見られると、落ち着いて食事できません……!」




 ……。




 翌日。



 ウェイトトレーニングを終えたリリスは、練習コースに向かうことにした。



 荷物を持ってロビーに向かうと、そこでニャツキと出くわした。



「行ってらっしゃい。リリスさん」



 そう言ったニャツキは、ねこ状態で荷物を背負っていた。



「はい。お姉さまは……またダンジョンですか?」



「はい。練習に向かう前に、


 何か聞いておくことなどはありますか?」



「いえ。怪我にお気をつけて」



(お姉さまはお忙しい身。


 なるべくお手をわずらわせないようにしないと)



 ニャツキに甘えたい気持ちを、リリスはぐっと飲み込んだ。



 そしていつものように、一人でコースに移動した。



 昨日と同じように。



 一昨日と同じように。



 ねこカメラを起動して、リリスはコースを駆けた。



 何周かコースを走ると、映像を見て走りをチェックした。



 そしてまた走った。



 そしてまた映像を見た。



 この繰り返しだった。


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