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そのときヒナタがフォローを入れた。
「ニャカメグロ。ニャヴァールが言ってるのは、
そういうことじゃない」
「あなたに何がわかるんですか……!」
リリスは悔しそうな顔で、ソファから立ち上がった。
そしてじわりと涙を滲ませると、早足で部屋から出て行った。
「あっ、リリスさん……」
ニャツキはリリスを追って廊下に出た。
だが、走り去ってしまったのか、そこにリリスの姿はなかった。
(見失ってしまいましたか……)
それからすぐ、ヒナタも部屋から出てきた。
「ニャカメグロを探すんだよな? 俺も手伝うよ」
「ありがとうございます。
それでは手分けして探すとしましょう」
ニャツキはホテル内を駆け回ったが、リリスは見つからなかった。
(ホテルには居ないのかもしれませんね。
すると……やはりあそこでしょうか……?)
……。
「みゃ! みゃ! みゃ!」
練習用の小型コースに、リリスの姿があった。
彼女は怒っているような表情で、ひたすらにコースを周回していた。
このままほうっておけば、いつまでもいつまでも走り続けるのかもしれない。
今のリリスからは、そんな気迫が感じられた。
「みゃっ?」
リリスは目を見開き、突然に脚を止めた。
土しかない地面に、鮮やかな花が咲き誇るのが見えたからだ。
「よっ」
ヒナタが手を上げて、リリスに軽い挨拶をした。
花は彼の仕業らしい。
リリスは重苦しくヒナタを睨んだ。
「……何ですか? 安い慰めなら要りませんけど。
お姉さまならともかく、
あなたに慰めてもらいたいとは思いません」
「そんなんじゃない。もっと大事な話だ」
「…………?」
「俺はニャヴァールから、おまえの鞍を託された」
「…………誰が? 誰から? 何を?」
「俺が、ニャヴァールから、おまえの鞍を」
「どこで? どうして?」
「ホテルで。理由なら、
俺の魔術とおまえのスキルが、相性が良いからだが」
「え……ええ……ええぇ……
ええええええええええええええええぇぇぇぇっ!?」
リリスの大声が、コース中に響き渡った。
「よろしく頼むぜ。相棒」
ヒナタはニッと笑った。
少し離れたところから、ニャツキの双眸が二人に向けられていた。
「ヒニャタさんが……俺様いがいの猫に……?」
……。
夕食どきになった。
「…………」
ニャツキはぼんやりとした表情で、もくもくと口を動かしていた。
「それでですね、お姉さま。……お姉さま?」
向かいで話をしていたリリスが、ふしぎそうな表情を見せた。
「えっ? はい。何でしたっけ?」
「ひょっとしてお姉さま、疲れていらっしゃるのではないですか?」
「疲れ? そんな自覚はありませんが」
「お姉さまは、働きすぎだと思います。
気付かないうちに、疲れが溜まってきているのでは?」
「俺様はべつに無理をしているつもりはないのですが」
「ボス」
コジロウが立ち上がり、ニャツキのほうへ近付いてきた。
ムサシも彼女の隣に立った。
コジロウは、ニャツキにこう提案してきた。
「次の魔石あつめ、私たちにも手伝わせてもらえませんか?」
「いけませんよ。
ランニャーがダンジョンに潜るようなことをしては」
「私たちは謹慎中で、レースの予定もありませんから」
「ですが……」
「お願いします。足手まといにはなりませんから」
コジロウは深く頭を下げた。
それを見て、ムサシも頭を下げた。
それでもニャツキが折れることはなかった。
「ダメです。どんな理由があっても、
ランニャーを危険な目に遭わせることなどできません」
「ボス」
「しつこいですよ。この話はおしまい。食事に戻ってください」
「……わかりました」
ニャツキのトレーニャーとしての信念を、覆すのは難しい。
そう判断したコジロウたちは、元の席へと戻っていった。
ニャツキの隣で、ヒナタが口を開いた。
「あいつらはダメで、おまえは良いのか?
おまえだってランニャーだろうに」
「あの子たちは、まだ16歳です。
もし何かあれば、ご両親に申し訳が立ちません」
「おまえも16だろ?」
(法的にはそうですけど……)
「俺様は俺様のことは……自分でやると決めているのです」
「一人で何もかもはできないと思うがな。競ニャは」