2の13の1「シャルロットと大事な話」
ニャツキはレースを終えたリリスと、装鞍所で合流した。
「すいません……お姉さま……」
リリスにとっては、今まででいちばん悪い順位だった。
入着ではあるが、さすがにがっくりしているらしい。
(まあ、2着で喜ばれるよりはやりがいがあります)
内心でそう思いながら、ニャツキはリリスをフォローした。
「謝るようなことではありませんよ」
「ですが……」
「あなたの走りは、まだまだこれからです。
調整のためのレースだったと思って、
前向きに気持ちを切り替えましょう」
「お姉さま……」
リリスはニャツキに崇敬の視線を向けた。
(まあ俺様だったら、
こんなランクの低いレースで負けていたら、
恥ずかしくて憤死していたでしょうけど。
しかし……今のリリスさんの脚であれば、
1着を取れてもおかしくはないと思ったのですが、
最後のスパートが伸びませんでしたね。
どうにもリリスさんは、
走りにムラがあるタイプのランニャーのようです)
帰り支度を整えた一行は、ホテルの車に集合した。
そしてミヤの運転で、ホテルヤニャギに帰還した。
ニャツキがホテルに入ると、同行したシャルロットも後ろに続いてきた。
ホテルのロビーには、清掃中のムサシの姿があった。
彼女はニャツキたちに気付くと、掃除を中断して歩み寄ってきた。
「惜しかったっスね。まあ次があるっスよ」
ムサシは既にネットを介して、レースの結果を知っていた。
それでリリスに労いの言葉をかけた。
リリスはレースのことを引きずってはいないらしい。
ムサシに柔らかい笑みを返した。
「はい。ありがとうございます」
次にシャルロットが口を開いた。
「リリス。ニャツキ。
ちょっと大事な話があるんだけど」
「わかりました。俺様の部屋で良いですか?」
「ええ。それと、ヒナタも呼んでくれる?」
「むっ、あの男を……?」
朗らかだったリリスの眉根が、きゅっと狭められた。
「ムサシさん。ヒニャタさんは?」
「いつもの所だと思うっスよ」
「……はぁ」
ニャツキは携帯を取り出して、ヒナタの番号にかけた。
すぐに電話はつながった。
「もしもしにゃん」
「何だよ? いま忙しいんだが?」
「嘘ですね。とっととホテルまで戻ってきてください」
「嘘じゃないが?」
「俺様の部屋。10分以内」
ニャツキは問答無用で電話を切った。
そしてリリスたちとともに、ニャツキの部屋へと向かった。
そこでしばらく待つと、部屋のドアがノックされた。
ニャツキはソファから立ち上がり、ドアのほうへ向かった。
ドアを開けると想像どおり、そこにはヒナタの姿があった。
彼はむすっとした顔でこう言った。
「来てやったぞ」
「招待してやりましたよ。
絶世の美女の部屋です。
感謝して入ってください。にゃっ!?」
ヒナタの指が、ニャツキのおでこをつついた。
ニャツキがぐらりと後ろに下がると、ヒナタは室内に入った。
ソファにリリスたちの姿を見ると、彼は向かいのソファに座った。
「負けたのか?」
ヒナタはリリスではなく、シャルロットにそう尋ねた。
「む……。悪かったですね」
リリスは不機嫌そうに、ぷいと顔を横に向けた。
次にシャルロットがこう言った。
「ええ。今回のレースは、あまり良い結果とは言えなかったわ。
だから……。
前に話したとおり、
私はリリスから降りようと思ってるの」
「えっ……!?」
驚いたリリスが、首をぐるんと回転させた。
シャルロットも首を回した。
二人の視線が重なった。
いつもの快活さからは遠い真剣な声が、シャルロットの喉から響いた。
「リリス。このまま私があなたに乗ることは、
お互いのためにならないわ」
リリスは曇った顔で、震え声を漏らした。
「っ……そうですよね……。
私のような遅い猫に乗っていては……
シャルロットさんの経歴に傷がついてしまいますよね……」