2の12の1「Cランクレースと決着」
ラインは焦っていた。
後ろを走るニャツキにも、表情ほどの余裕はなかった。
カースを発動したラインは、とにかく速い。
ニャツキの全力でも、引き離されないようにするのが精一杯だった。
とてもCランクに居て良いようなスピードの猫ではない。
逆にこれでCランク止まりということは、何か弱点がある猫なのだろうが。
……今のニャツキに突ける弱点でなければ、存在しないのといっしょだ。
(ヒニャタさん。なんとかなりませんかね?)
(ならんけど)
(そうですか。……意外とピンチかもしれませんね。俺様。
まあ、俺様はコーナリングも超一流ですから、
勝ち目はあるとは思うのですがね)
この直線の先には、最終コーナーがある。
今の二人のスピードでは、コーナーを減速せずに曲がるのは難しい。
スピードをどれだけ残したまま、コーナーを曲がりきれるか。
それには単純なパワーだけではなく、走りの練度が試されることになる。
コーナーで差をつけてやる。
向こうが少しでも隙を見せれば、すぐに抜き去ってやる。
ニャツキはそう決断し、走りに意識を集中した。
意識を研ぎ澄ませたニャツキに対し、ラインは焦りに支配されていた。
(引き離せない……!
このままだと……このままだと私は……!)
直線の終わりに近付いてきた。
二人は右100度のラストコーナーに突入する。
(もうダメ……! カース解除……!)
ラインから、カースの輝きが消え失せた。
するとラインのスピードが、急激に陰りを見せた。
「おや……」
ニャツキは拍子抜けした顔を見せ、減速したラインを抜き去った。
コーナーを抜けると、すぐにゴールがあった。
ニャツキは1着でゴールを抜けた。
遅れてラインが2着でゴールインした。
そのとき3位の猫との間には、かなりの差ができていた。
雷使いの猫は、4着という結果に終わった。
(良いレースでしたね)
ラインは手強い猫だった。
強敵に無事に勝利できたことで、ニャツキは満足顔を浮かべた。
この勝利により、ニャツキはBランクに昇格することになった。
……。
(得意のカサマツで負けた……)
装鞍所に戻ったラインは、しょんぼり顔を浮かべていた。
得意のコースで完敗したという事実が、メンタルに突き刺さったらしい。
茶色いラインががっくりとしなびると、猫ではなくたぬきのようにも見えた。
そんなションボリラインに、ニャツキが声をかけた。
「あなた。そこのあなた」
「……何? 私をバカにしに来たの?」
「とんでもない。
俺様は、あなたの才能に見惚れたのです。
あなたが持つカースは、
直線でしか効果を発揮できないようですが、
それを欠点とさせないほどの爆発力があります。
正しいトレーニングをして
地力を鍛えれば、
打倒キタカゼ=マニャも夢ではありませんよ」
「っ……ありがと」
ライバルからの賛辞を受け、ラインの表情が少し明るくなった。
「ラインさん。
もしよろしければ、俺様のホテルに移籍しませんか?」
「一流ホテルからのスカウト……!?
まさか……あなたが居るホテルって……」
あのホテルヨコヤマ……!?
「ホテルヤニャギです」
「えっ? ホテルヤニャギって……
あのミカガミ=ナツキが働いてたっていう……」
「お詳しいですね。そのとおりです。
ラインさん。ぜひホテルヤニャギに……」
「うがーっ!」
「うみゃーっ!?」
ニャツキはラインにかじりつかれた。
ほうほうのていで逃げ出したニャツキは、ヒナタに擦り寄っていった。
「うぅ……酷い目にあいました……。
人が親切でスカウトしてあげたというのに……」
対岸の火事を楽しむ笑みで、ヒナタはこう言った。
「おまえってヤツは、ねこたらしかと思ってたが、
そういうこともあるんだな」
「べつに俺様は、ねこじゃらしではありませんけど」
「あの……」
黄色い猫が、二人に話しかけてきた。
レースでニャツキに雷をはなってきた猫だ。
ニャツキが彼女に答えた。
「何でしょうか?」
「ううん。キミじゃなくて、その……」
猫はちらりとヒナタを見た。
そして恥ずかしそうに俯いた。