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 どうして自分だけ。



 ニャツキが苛立ちを見せると、ヒナタがのんきにこう言った。



「いや。おまえが一番ニャン気だったからな。


 優勝候補を狙うのがレースの定石だろう。


 ちょっとおまえのことを調べたら、


 1回はなされたら追いつける相手じゃないってのはわかるだろうしな。


 カースが来ることくらい予測しとけよ」



「うぅ……凡才の涙ぐましい足掻きということですか……。


 どうせ俺様には勝てないんだから、


 かってに下位争いをやっていて欲しいのですが……。


 というかヒニャタさん、


 こうなると読めていたのなら、


 魔術で防御できなかったのですか?」



 ニャツキに責められたヒナタは、皮肉めいた笑みを浮かべた。



「できたけど。一人で勝てるんだろ? 大船ちゃん」



「勝てますけど!


 雄大なタイタニャックも、氷竜の一撃で沈んだのですよ!?


 ジョッキーとして最低限の仕事はしてください!」



「ったく……わがままなやつめ」


 

「行きますよ!」



 気を取り直し、ニャツキは加速した。



 最初の直線を終え、右120度の急コーナーを曲がった。



 その先には、左70度の折り返しがあった。



 次に右に20度のコーナーを曲がると、その後は長い直線になっていた。



 ニャツキはぐんぐんと順位を上げ、雷使いの猫を追い抜いた。



 再度の攻撃をしかけようと、黄色い猫が体を輝かせた。



 ピッカッチュアーと気合を込め、猫は雷を落とした。



「傘土-サンド-」



 カースの発動に合わせて、ヒナタが呪文を唱えた。



 土の傘が、雷を地面に受け流した。



 雷の余波を受け、近くを走っていた猫が、小さく悲鳴を上げた。



「おっと悪い」



 ヒナタはそう言うと、黄色い猫に眼光を向けた。



「おまえのカースは俺がぜんぶ防ぐ!


 無駄な削りあいはよそうぜ!」



「みゃ……」



 堂々たるヒナタの態度に、猫は気圧された様子を見せた。



(ヒニャタさんかっこいい……)



 内心で恍惚として、ニャツキはさらに速度を上げた。



 今回のレースにおいて、雷の猫はいちばん速い猫ではない。



 もっと速い猫を、倒さねばならない。



 右120度のコーナーを曲がり、S字カーブを抜けた。



 そして150度のヘアピンカーブの後、急角度のスプーンカーブを曲がった。



 すると直線に出た。



 ニャツキはさらに順位を上げた。



 左100度のコーナーを曲がり、大型S字カーブに入った。



 そのカーブの途中で、ニャツキは先頭の猫に並んだ。



 既に残りの距離は、全体の3割くらいになっていた。



「ようやく来たね。ハヤテ=ニャツキ」



 先頭の猫、マサゴ=ラインが口を開いた。



「俺様を知っているのですか?」



「レースの対戦相手を調べることくらい、当たり前でしょ」



「なるほど。走りが遅い猫には、


 そういう努力が必要なのですね」



「煽って走りを乱そうとしても無駄だよ。もうキミに勝ち目はない」



「ふむ。それはどうして?」



「なぜなら……ニャホン競ニャ最長の直線がある


 カサマツのコースこそが、


 私の力を最大限に発揮させてくれるからだよ!」



 S字カーブの終わりに、右110度のコーナーがあった。



 コーナーを抜けると、長い長い直線に出た。



 その瞬間、ラインはカース名を唱えた。



「『不折不曲-フセツフキョク-』ッ!」



 ラインの全身が、茶色い輝きに包まれた。



 ラインは強く加速した。



「これは……!?」



 ニャツキの驚きの声が、ラインの耳に届いた。



 それに振り返ることなく、ラインは地面を蹴った。



 やった。



 一番ニャン気の猫を、ハヤテ=ニャツキを突き放した。



 たとえ姿は見ずとも、ラインはそう確信した。



(直線に限り、私は誰よりも速くなる。


 このカースを活かせるカサマツのコースなら、


 私はぜったいに負けない!)



「いやぁ……恐ろしい速さですね」



 ……すぐ後ろから、猫の声が聞こえてきた。



「どうしてついてきてるの!?」



 前を向いたまま、ラインはそう叫んだ。



「走ってですけど」



「手段は聞いてないけど!?


 平然とついてこないでくれるかな!?」



「いえ。けっこう俺様も必死ですよ。


 今のあなたの走りは、


 キタカゼ=マニャにも負けないのではないですかね。


 なかなか追い抜けません。困りましたね」



 ニャツキはのんびりとした声音でそう言った。



 だがよく注意して聞けば、声に若干の緊張が含まれているとわかったはずだ。



 そんなことに気付く余裕は、ラインにはなかった。



(困ってるのはこっちだよ……!)



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