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「落ち着け。カースの力だ」



「言われてみればそうですね」



 現れた人影が、マニャよりも前に立った。



 人影の正体は、黒髪のネコマタだった。



 艶やかな黒髪は、彼女の腰まで伸びていた。



 身長は、ニャツキより少しだけ高い。



 黒猫は悪意のない人懐っこい笑みで、ヒナタたちに話しかけた。



「こんにちは。ボクはカイ=カゲトラ。


 ホテルヨコヤマでお世話になってるんだ。よろしくね」



「ハヤテ=ニャツキです」



「俺はキタカゼ=ヒナタだ。


 前にねこセンター前で会ったが、覚えてないか?」



「あっ! ナンパの人!」



「……スカウトだ」



 三人の挨拶が終わると、マニャが口を開いた。



「カゲトラは逸材よ。


 私の後継者に育てようと思っているの」



「後継……引退を考えてるのか? マニャねえ」



「ええ。私も長く勝ちすぎたわ。


 そろそろ次の世代に椅子を譲るべきだと思うの。


 カゲトラは天才だから、


 私が意図しなくてもそうなってしまうでしょうけど」



「たしかに才能は感じるが、


 ずいぶんとあっさりしてるな。負け嫌いのマニャねえが」



「猫は長寿だけど、


 ファイティングねこスピリットは無限ではないの」



「そういうもんか。さて……引き抜きの話だったな」



「引き抜きもなにも、あなたフリーでしょう?」



「待ちなさい」



 ニャツキが口を開いた。



「ヒニャタさんは、この俺様の専属ジョッキーです。


 フリーなどではありませんよ」



「そうなの?」



「身に覚えがないが」



「……とにかく! そんなどこの牛の骨ともしれない猫が、


 俺様より優れているはずがありません!


 勝負をしましょう!


 白黒はっきりつけてさしあげますよ!」



 びしりと、ニャツキはカゲトラを指さした。



「私たちには、そんな勝負を受ける理由は……」



 マニャが冷淡に答えようとしたところで、カゲトラがこう言った。



「良いよ。やろう」



「ちょっとカゲトラ」



「決まりですね。それでは移動しましょうか。


 決戦のバトル・フィールドへ」



 ニャツキが強引に話を畳みに来ると、マニャはヒナタのイシを確認した。



「ヒナタ。あなたはそれで良いのね?」



「ん。まあ良いんじゃねえの?」



 ヒナタはのんびりとした反応を見せた。



「わかったわ。行きましょうか。


 リョクチャ。ジョッキーを手配して。誰でも良いわ」



「誰でも? タケベさんじゃなくても良いんですか?」



 タケベとは、マニャが懇意にしているジョッキーの名だ。



 フルネームはタケベ=フミヤ。



 彼はマニャの鞍に乗り、近年のSランクレースを総なめにしてきている。



 カゲトラを勝たせるのであれば、彼に鞍を任せるのが一番のはずだが。



「ヒナタ本人が、そこまで乗り気じゃないみたいだから」



「わかりました」



 一行は、地下の大型練習場の使用許可を取った。



 ニャツキとカゲトラ、そしてヒナタが、レース服に着替えた。



 その少し後、リョクチャに呼び出されたジョッキーが、一行の前に姿を見せた。



 ジョッキーは20代前半くらいの女性だった。



 彼女はヒナタに声をかけてきた。



「キミがマニャさんの弟くん?


 私はフクヤマ=ノリコ。よろしくね」



「はい。よろしくお願いします」



「そんなに畏まらなくても良いよ。


 たぶん同い年くらいでしょ?」



「それじゃあ……よろしく。フクヤマ」



「うん。負けないよ。ヒナタくん」



 ノリコが手を差し出してきた。



 二人は握手を交わすと、それぞれの猫に向かった。



 ジョッキーを鞍に乗せ、ニャツキとカゲトラはスタート地点に立った。



 リョクチャがコース脇で、マニャにこう尋ねた。



「カゲトラちゃんが勝ちますよね」



「……どうかしらね」



 マニャは硬い顔で、ニャツキのほうを見ていた。



「楽勝でぶっちぎってやりましょう」



 ニャツキが勝気な笑みを浮かべた。



「油断するなよ。ハヤテ」



「ヒニャタさん?」



「俺は前にこう言ったよな。


 俺がスカウトしてきた猫のなかで、


 おまえが三番目に才能があるって」



「知りません。覚えてません」



「覚えとけよ。


 それで……俺が二番目だと思ったのがあいつだ」



 ヒナタの言葉に、ニャツキは冷めた声音を返した。



「あなたは優れたジョッキーですが、


 猫を見る目はないようですね」



「そうかよ」



 ヒナタとノリコが、強化呪文を唱えた。



 練習用コースには、出走ゲートは存在しない。



 代わりにリョクチャが、ねこホイッスルを鳴らした。



 二人の猫が、素早いスタートダッシュを見せた。



 最初ニャツキは、カゲトラと併走し、彼女を観察した。



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