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「あれって……」
人影の手前で、ヒナタはバイクを停車させた。
ヒナタはそのままバイクから降りた。
ニャツキもそれに続いた。そして。
「え……!?」
「久しぶりね。ヒナタ」
「キタカゼ=マニャ……!?」
そこに立っていたのは、ニャツキの宿敵であるキタカゼ=マニャだった。
その隣には、秘書のリョクチャの姿も見えた。
突然の再会に、ニャツキはただ驚愕した。
固まったニャツキに、マニャは侮蔑の視線を向けた。
そしてすぐに視線を外すと、ヒナタに笑みを向けてきた。
「会いたかったわ。ヒナタ」
マニャはヒナタに歩み寄ると、彼をぎゅっと抱き締めた。
「にゃ……!?」
ニャツキが声を漏らした。
ヒナタは居心地わるそうに、マニャにこう言った。
「やめろよ。人が見てるだろ」
「良いじゃない。きょうだいなんだから。ねえ?」
マニャはべたべたとした態度のまま、ヒナタの頬へキスをしようとした。
「にゃっ!」
ニャツキはとっさに手を伸ばし、マニャの唇を遮った。
マニャの蔑むような視線が、ジャマな手へと向けられた。
「あら……何かしら? このドブ臭い手は」
「人のパートニャーに、
ドブ臭い口を近付けないでいただけますかね」
マニャはヒナタから離れ、ニャツキを睨みつけた。
「死にたいの?」
ニャツキも一歩も退かず、マニャを睨み返した。
「返り討ちにしてさしあげますよ」
ばちばちと、にらみ合う形になった。
二人の強い敵意が、高まっていくようにみえた。
やがて敵意は破裂して、お互いに害をなしたかもしれない。
だが、そうなるまえに。
「……何をしているの?」
女性の声が聞こえた。
マニャはぎょっとして声のほうを見た。
そこにミヤの姿があった。
彼女の手には、ヒナタの古びた財布が見えた。
「ミヤ……?」
愕然と立ちすくむマニャに、ミヤが近付いていった。
「何をしているのかって聞いてるんだけど」
ミヤは無表情で、マニャの頭に手を伸ばした。
「ヒッ……!?」
無抵抗のまま、マニャは髪を掴まれた。
ミヤは力任せに、マニャを地面に引きずり倒した。
「ミヤねえ!? 何やってんだよ!?」
二人の仲がこじれていることは知っている。
だがこれが、久々に再会した姉にすることか。
ヒナタはミヤに怒りを向けたが、彼女に反省する気配はなかった。
「ヒナタは黙ってて」
ミヤはしゃがんだ状態で、マニャの髪を引っ張り上げた。
そして自身の顔をミヤの顔に近付けて、こう尋ねた。
「……ねえ、どうして守れないの?
私の前に姿を見せないでって、言ったのに。
たったそれだけなのに、
そんな簡単な約束を、どうして守れないの?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
好き放題にされても、マニャは敵意を見せなかった。
彼女はただ、涙声で震え続けた。
「謝れとは言ってない」
ミヤはマニャの髪から手を離した。
そして自身は立ち上がると、マニャの頭の上で靴底を振り上げた。
「ミヤねえ!」
見ていられない。
そう思ったヒナタが、ミヤに掴みかかろうとした。
「マニャさん!」
ヒナタより一足はやく、リョクチャがミヤにタックルをしかけた。
だがタックルを受けたミヤは、ぴくりとも動かなかった。
(っ……ビクともしない……!?)
力ではこの猫にかなわない。
そう判断したリョクチャは、口先の抗議をミヤに向けた。
「あなた……!
三冠ニャの大事な体に、何をしようっていうんですか……!」
するとミヤは、興醒め顔になった。
彼女は振り上げていた足をおろし、マニャに背を向けてこう言った。
「良かったね。脚が速いっていうだけで、
クズでも庇ってもらえるなんて。
……遅い猫だったくせに。
天国のナツキに感謝するんだね」
(天国のナツキはここに居ますけど……)
ニャツキが内心でツッコミを入れた。
「ミヤねえ……。昔は仲よかったのに、
どうしてこんなになっちまったんだよ……?」
ヒナタがつらそうに尋ねると、ミヤは振り向かずにこう答えた。
「ごめん。ヒナタには話せない」