2の5の1「シマネと観光」
「おっ、神社だな」
「あっ、橋ですね」
「神社だよな?」
「橋ですけど?」
「ただの橋じゃん?」
ヒナタは『何いってんだコイツ?』といった感じの表情を浮かべた。
対するニャツキは、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「甘いですねヒニャタさん。
あの橋はミヤ橋といって、
有名なシマネの観光名所なのですよ」
「有名か……? 聞いたことないが……?
けどアレ、ミヤって名前なのか」
奇遇にも橋の名前は、ヒナタの姉と同じ名前だったようだ。
「おもしろい偶然ですね。
さあヒニャタさん。
世界的超有名観光スポットで記念撮影をしていきましょう」
「そうだな」
橋で写真を撮ることになった。
携帯のカメラを構えながら、ニャツキがこう言った。
「あの鳥居が写るように
撮影するのが通なのですよ」
カメラの位置を調整し、ニャツキは撮影ボタンを押した。
そして写真データを確認した。
「うーん……? いまいち決まらなかったような気がします」
「貸してみ。撮ってやるよ」
ヒナタは奪うように携帯を手に取ると、ニャツキの肩を抱き寄せた。
「みゃ……」
手際よく撮影し、ヒナタは写真を見せてきた。
「どうだ?」
写真には、二人と鳥居のすがたが、はっきりと写っていた。
「ばっちりですね。さすがはヒニャタさんです」
「それで、これからどうするんだ?」
「ついでなので、神社にもお参りしていきましょう」
「ついでかよ」
二人は神社を参拝した。
それから北にある温泉街をぶらついた。
ニャツキはヒナタを、日帰り温泉の家族風呂に誘った。
彼女のボディランゲージは、ここでも失敗に終わった。
温泉から出た二人は、みやげもの売り場に向かった。
おみやげを選ぶと、ヒナタは財布を取り出した。
それを見て、ニャツキが口を開いた。
「おや……」
「どうした?」
「その財布、だいぶ古くなっているようですね」
ヒナタの財布は、本革の良品のように見えた。
だがだいぶ使い込まれているのか、糸などが古ぼけているようだった。
「言われて見ればそうかな?」
「俺様が、新しい財布を買ってさしあげましょう」
「いや、自分で買うし」
「Dランクに昇格したお祝いをさせてください」
「いいって」
「良いから行きますよ」
「強引だなおい。それで財布って、どこで買うんだっけ?」
「……ショッピングモールでしょうか? ミィオンとか」
「えっ? シマネにミィオンってあるのか?」
「ありますけど。
まあ、湖の東側になるので、ちょっと走ることになりますが」
「猫で行くか?」
「いえ。買い物の時に着替えるのがめんどうです。
この程度なら、人の脚でもじゅうぶんですから、行きますよ」
「えっ? 走っていくのか?」
「ジョッキーなら余裕でしょう?」
「目立つが」
「ジョッキーが目立つのを気にしてどうするのですか」
「わかったよ」
二人で湖沿いに走った。
道路交通法の分類上、彼女たちは特級冒険者にあたる。
車両あつかいとなるので、二人は車道を走った。
30分もかからず、湖の東に到着した。
ニャツキの案内で、ミィオンを歩くことになった。
財布うりばにたどり着くと、ニャツキが財布を選んだ。
「これなんか、ヒニャタさんに似合うのではないですかね」
「まあべつに、頑丈ならなんでも良いけど」
「ではこれにしましょう」
ニャツキが財布を買い、ヒナタに手渡した。
「だいじに使ってくださいね。
それではホテルに帰りましょうか」
「わかった」
ねこ服うりばの更衣室を借り、ニャツキはねこ姿になった。
そして空を走り、シガへと移動した。
ホテルヤニャギに入ると、アキコが二人を出迎えた。
「お帰りなさい。二人とも」
「ただいま帰りました」
「した~」
「ミヤちゃんから聞いたけど、
シマネにまで行ってきたんですって?」
「はい。ちょっくら行ってきました」