2の4の1「ニャツキとヒナタのベッドイン」
「自分の部屋で寝ないのか?」
「ひとりで寂しく寝るよりも、ふたり一緒のほうが楽しいでしょう?」
これが修学旅行か何かなら、ヒナタもその意見に賛成だったが。
「長旅の後だ。ゆっくり寝たほうが良い気もするがな」
今日の昼に、レースを走っている。
今は休養すべきタイミングではなかろうか。
そんなヒナタの意見に、ニャツキはツンと反対した。
「俺様はそんなにヤワではありません」
「それじゃあ騒がしく寝るか」
「そうしましょう」
ヒナタは向かって右側の布団に入った。
ニャツキは布団には向かわず、部屋の出口に体を向けた。
「ん? トイレか?」
「デリカシー」
「悪かったよ。お嬢さん」
ニャツキは客間から出た。
そして夫婦の寝室へと入り、中にある戸棚を開けた。
(まったくヒニャタさんは……。
俺様が色仕掛けに慣れていないとはいえ、
まさかあそこまでつれないとは。
思った以上の堅物のようですね。
このママゆずりの肉体で
ヒニャタさんを俺様の虜にするという計画は、
上手く進んでいるとは言えません。
……とはいえ、万が一の備えは必要ですよね。
理想のジョッキーを捕まえるための作戦で、
走れなくなるようなことになっては、
本末転倒ですから。
ママの言葉がたしかならば、ここに……)
ニャツキは戸棚から、箱を取り出した。
縦7センチ、横3センチほどの紙箱だった。
(あった……ってカラではないですか……!?)
空っぽの紙箱を、ニャツキは放り捨てた。
戸棚には、同じような箱がいくつもあった。
その数は、10や20ではすまない。
ニャツキはそれらの箱をチェックしていった。
(これもカラ……あれもカラ……。
うぅ……どうしてパパとママが使った空き箱を
漁らねばならないのですか……)
惨めな気持ちになりつつ、ニャツキは箱を調べていった。
やがて彼女は、中身入りの箱を発見した。
(あった……!
これさえあれば、ヒニャタさんが理性をなくしても安心安全ですね。
……一箱で足りるものでしょうか?
まあ、たぶんなんとかなるでしょう。
ついでにママのシュミーズを借りていきましょうか。
親の肌着というのは、ちょっと嫌な感じですが、
今のパジャマは子供っぽいですからね。
ヒニャタさんには、
服の持ち主がママだなんてわからないでしょう)
ニャツキは母のシュミーズに着替えた。
そして姿見で、格好を確認した。
夜の女といった感じの自分に、ニャツキは頬を熱くした。
(うぅ……透けています……。
ですがこれで準備万端! いざ!
……その前に、お手洗いを済ませておきましょう)
小用を済ませ、ニャツキは客間の前に立った。
そしてドキドキとドアを開け、中へと入っていった。
向かって右の布団が、盛り上がっているのが見えた。
ヒナタはおとなしくしているらしい。
おそるおそると、ニャツキはヒナタに近付いていった。
そして左の布団に膝をつき、ヒナタの顔を覗き込んだ。
「っ……ヒニャタさん……」
「すぅ……すぅ……」
ヒナタからは、規則正しい寝息が返ってきた。
「こいつ寝てやがりますか!?
なんという寝つきの良さ……!?
ちょっとヒニャタさん……!
俺様ですよ……!? セクシーな俺様がここに居ますよ……!?」
ニャツキはぎこちなくセクシーポーズをとってみせた。
彼女が騒がしくしても、ヒナタが目覚める様子はなかった。
焦れたニャツキは、強引に布団を引き剥がした。
すると。
「……寒い」
寝ぼけた調子のヒナタの手が、ニャツキを掴んだ。
ニャツキの体が、ヒナタに抱き寄せられた。
「にゃっ」
「ぬくい……」
ヒナタは満足げに、ニャツキを強く抱き締めた。
「にゃぁぁ……」
ニャツキは真っ赤になり、動けなくなってしまった。
ずっとその体勢のまま、やがて夜が明けた。
「ん……」
朝の気配が、客間に入り込んできた。
それを感じ取ったのか、ヒナタが目を開いた。
「んん……?」