2の3の1「ニャツキとヒナタのおふろ」
「……意外と健康オタクですよね。ヒニャタさんって。
サプリとか飲んでますし」
ヒナタが毎日ナゾの薬を服用していることは、ニャツキも熟知している。
それ自体は、アスリートならばおかしくはないと思っていた。
だがまさか、ここまでの健康大好き小僧だったとは。
「体が資本だろ。この仕事は」
「そうですけど、たまには良いのではないですかね?」
「いいってば。それより早くメシ」
「……わかりました」
本人が健康を気遣っているのに、無理に飲ませるのはニャン道に悖る。
ニャツキはそう考えて、あっさりと引き下がった。
キッチンに向かった彼女はジャーを開け、次に冷蔵庫を開けた。
ジャーはカラで、冷蔵庫にはそれなりの食材があった。
「お米は炊いてないようですが、
生そばがありますね。
手早くということでしたので、
これを茹でてしまいましょう」
「その格好で料理すんのか?」
「あっ、着替えてきますね」
結局いつものような服装に着替え、ニャツキはキッチンに戻った。
そして具材を用意すると、生そばを茹で始めた。
すぐにそばが入ったドンブリが、ダイニングテーブルに置かれた。
「こちらへどうぞ」
「そばにハム?」
「これで麺をくるんで食べると、意外とイケるんですよ」
「ふ~ん?」
二人でハム入りのそばを食すことになった。
「ジャンクなそばだな」
「いけませんか? ジャンクは」
「いや。悪くない」
ヒナタのほうが先に、そばを食べ終わった。
「ちょっと量が足りんな」
「それでは、軽く炒め物でも作りましょうか」
ニャツキはそばを食べ終えると、肉と野菜をさっと炒めた。
「美味い」
シンプルな料理は、ヒナタの舌に合ったらしかった。
「ありがとうございます」
夕食が終わった。
二人はリビングで、ダラダラと時間を潰した。
「あの……」
「ん~?」
「そろそろお風呂でも入れましょうか?」
「ああ。頼む」
ニャツキは浴室に向かい、湯張りの準備をした。
それから15分ほどたつと、湯張り完了の機械音声が聞こえてきた。
「お先にどうぞ」
「ありがと」
ヒナタは素直に風呂に向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入った。
ヒナタは自宅では、とっとと湯船につかる派だ。
そうして体が温まった状態で、ゆっくりと頭などを洗う。
だがここは、他人の家の風呂だ。
ヒナタは礼儀として、さいしょに体を洗うことに決めた。
彼がシャワーの温度を確かめていると、ドアが開く音が聞こえた。
「ん?」
ヒナタは体をこわばらせ、ドアのほうを見た。
「あの……お背中を流させていただきます」
タオルで前を隠したニャツキが、中を覗きこんできていた。
「……何を企んでやがる?」
「べつに、何も企んでなどいませんけど?
ランニャーとしてジョッキーをねぎらってあげようと、
それだけの話なのですけど?」
「そうか。それじゃあ頼む」
「えっあっさり」
「何を驚いてんだよ?
やっぱり何か企んでいやがったのか?」
「っ……いえ、その、失礼します」
ニャツキはボディソープを手にし、ヒナタの後ろに回った。
そして背中を泡立てていった。
そのとき、心の中のミイナが、ニャツキにこう囁きかけた。
(今よニャツキ。自分の胸をあわあわにして、
ヒナタくんの背中を洗ってあげなさい)
(ママ……!? やってみます……!)




