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ヒナタはテレビをつけた後、バッグから携帯を取り出した。
部屋に移動したニャツキは、人の姿に戻った。
裸になったニャツキは、まずは下着を身につけた。
いつも身につけているスポーティなやつとは違う、少しお高い下着だ。
そしてふだんのスマートな服とは違う、フリフリのドレスに着替えた。
(天が我に与えたもうた、
千載一遇の好機。
ふだんは見せない俺様の魅力で
ヒニャタさんを悩殺して、
他の猫なんか見えなくしてさしあげますよ)
ククッと黒い笑みを漏らし、ニャツキはリビングに戻った。
ヒナタはミヤへの連絡を終えたらしく、ぼんやりとテレビを見ていた。
ニャツキはすまし顔で、ヒナタの隣に腰をおろした。
ヒナタがニャツキに視線を向けた。
「どうした?」
「何がですか?」
白々しく、ニャツキは尋ね返した。
「その格好、いつもとノリが違うが」
「自宅ですからね」
「そういうもんか」
「はい。可愛いでしょう?」
自分では色っぽいつもりの表情を、ニャツキはヒナタに向けた。
「そうだな」
ヒナタの返答は簡潔だった。
もっと思春期の少年みたいに、はわわと動揺してほしかったものだが。
少し残念だが、否定的な反応ではなかったので、まあ良いかと思うことにした。
「ありがとうございます。映画でも見ますか?」
「任せる」
ニャツキがリモコンを操作すると、サブスクライブの動画サービスが表示された。
ヒナタが任せると言ったので、ニャツキは好きな恋愛映画を選択した。
映画開始から何分か経つと、ヒナタがこう言った。
「恋愛モノか?」
「お嫌いですか?」
「アクションモノの方が好きかな。
コミャンドーとか」
「俺様はこういう映画の方が好きなのですが、
わかりました。アクション映画に変えましょう」
ニャツキがリモコンに手を伸ばすと、ヒナタがそれを制止した。
「いや。たまにはふだん見ないジャンルを見てみるのも良いかな」
「わかりました」
ニャツキは姿勢を正し、映画鑑賞を再開した。
それからニャツキはちょっとずつ、ヒナタとの距離をつめていった。
かなり距離が詰まったころ、ヒナタはそわそわと、落ち着かない様子を見せた。
(にゃふふ、挙動不審になってきましたね。
俺様のような美しい猫に迫られたとなれば、
無理もないことですが)
「……なあ、ハヤテ」
「ふふっ。いったいどうしたというのですか?」
ヒナタの内心を見透かしたような笑みで、ニャツキはそう尋ねた。
「猫をスカウトしたい……」
「そっちですか!?
シマネにランニャーは居ませんよ! 我慢してください!」
「……わかった」
(俺様という猫が居るというのに、
どうしてこうも貪欲なのですか。この男は。
ハーレム王でも目指しているのではないでしょうね?)
ニャツキに叱られたので、ヒナタはしかたなく映画鑑賞を続けた。
だが彼は映画の内容に、身が入らない様子だった。
スカウト云々を脇に置いても、彼はあまりこの映画が好きではないのかもしれない。
(こんなにすばらしい映画なのに……。
ヒニャタさんには芸術的感性というものが
欠けているのではないですか……?)
自分とヒナタはベストパートニャーのはずなのに、趣味が合わないなんて。
ニャツキはそのことにしょんぼりしてしまった。
やがて映画が終わった。
その頃には、すっかり日が暮れていた。
「ハラ減ったな。何か食いに行こうぜ」
「俺様が作りますよ」
「できるのか? 料理」
「ママから手ほどきを受けています。任せてください」
「おまえって、競ニャ一筋みたいなやつかと思ってたけど、
意外とそうでもないよな」
「猫ですから」
「うん? だいぶハラ減ってるから、なるべく早く頼む」
「でしたら、食前酒でもいかがですか?」
今こそ父のとっておきを出す時か。
ニャツキは戦機を感じ、ヒナタにそう尋ねた。
彼女は酒にはあまり詳しくない。
前世で死ぬ前に、安酒をヤケ飲みした。
酔うための酒で、とくに美味いとも思わなかった。
そんなネガティブな思い出しかない。
だが、とっておきの酒というからには、きっと美味いに違いない。
ヒナタのガードもきっと下がるはずだ。
ニャバンチュールだ。
そう期待していたのだが。
「いや。酒はあんまり飲まないことにしてるんだ」
「えっ……」
あっさりと切り札に光の封○剣をくらい、ニャツキは愕然とした。
父の秘蔵の酒は、裏側表示で除外。
4ターン目のスタンバイフェイズまで、手札に戻すことができない。
「何だよその顔は」
「……どうしてお酒を飲まれないのですか?」
なんとか表情を戻し、ニャツキはそう尋ねた。
「健康のためだが」