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後日、ナツキの葬儀が開かれた。
姿を見せたのはナツキの家族とアキコ、ナツキに世話になった数人の猫だけ。
寂しい葬儀だと言えた。
ミヤから少し遅れて、マニャが式場に姿を見せた。
陰鬱な顔のミヤに、マニャが近付いてきた。
「ミヤ……」
ミヤはぎろりとマニャを睨みつけた。
「あんなことをしておいて……どうしてここに顔を出せるの……?
バケモノ……次に近寄ったら殺すから……
二度と私の前に現れないで……!」
「っ……ごめんなさい……。
これをトレーニャーさんの家族に……」
マニャは分厚い封筒を、ミヤに差し出してきた。
ミヤは震える手で封筒を受け取った。
「用は済んだ……? さっさと消えてよ……人殺し……」
「うん……ごめんね……ごめんなさい……」
マニャはよろよろと、式場から去っていった。
……。
今。
当時と変わらぬ目で、ミヤはマニャを睨みつけていた。
「ヒナタのドナーが見つかったって聞いたのは、
手術より何日も前のことだった。
けど、ドナーになったナツキが襲われたのは、
ねこ竜杯の日、手術の当日だった。
なのにどうしてナツキが運ばれて来たの……?
ねえ……! 答えてよっ!」
「そんなの……知らない……私は……何も……」
ミヤから逃げるように、マニャの視線がレンへと向かった。
「レンが……トレーニャーさんを裏切れば……
ドナーを紹介してくれるって……。
トレーニャーさんが落ちぶれても……
ミヤなら幸せにできるって思ってたのに……。
トレーニャーさんを殺したのは……私のファンじゃなかったの……?」
マニャの疑問に、レンは真顔で答えた。
「……ミカガミ=ナツキは、
たった一人でダンジョンの深層に潜る怪物だった。
ただの競ニャオタクごときに、
彼を殺せるわけがないだろう?」
「ヒッ……」
マニャは悲鳴を漏らし、レンから距離を取ろうとした。
「仕方がなかったんだ。ヒナタくんを救うには、あれしか方法がなかった」
レンは前に出て、マニャとの距離を埋めようとした。
マニャは震える声でレンを拒絶した。
「嫌……! 近寄らないで……!」
「きみを愛しているんだ」
「ふざけないで……!
トレーニャーさんを殺した人を、
私が愛せるわけがないでしょう……!?」
「俺がああしなければ、
ヒナタくんは死んでいたかもしれないんだぞ」
「それでも……もう無理よ……」
「マニャ……」
「おまえが……」
二人とは別の声が聞こえた。
病室が邪悪な気配で満ちた。
みんなが一斉にニャツキを見た。
ニャツキが全身から、おぞましい魔力を立ち上らせているのが見えた。
「おまえがボクを殺したのか」
ニャツキの背から、黒い呪いの翼が伸びた。
翼は自在に形を変え、レンに巻きついていった。
「ぐっ……あっ……!」
全身を強く締め上げられ、レンは苦悶の声を漏らした。
ニャツキの凶行は、それだけでは終わらなかった。
さらにもう一本の翼が伸び、ヒナタへと襲いかかった。
「ぐうっ……!?」
レンと同様に、ヒナタの体も締め上げられた。
「えっ……!?」
凶行の当事者であるニャツキ自身が、驚きの声を漏らした。
「ニャツキ……! 何をするの……!?」
ミヤがニャツキに疑問を向けた。
「やめて……! ヒナタを傷つけないで……!」
マニャがニャツキに懇願した。
「私だってやりたくてやってるわけじゃ……どうして……」
現状を把握しようと、ニャツキはヒナタに意識を向けた。
ヒナタの胸のところに、何かがある。
そう気付いたニャツキは、そこへ意識を集中した。
するとヒナタの胸から、黒い力を感じ取ることができた。
知らない力ではない。
彼を苛むこの黒い何かは……。
「これは……私のカース……?
私は……ミカガミ=ナツキはずっと……
心臓を奪った相手を呪っていたというのですか……?」
ニャツキは知らないことだが、ヒナタはずっと心臓病に苦しんでいた。
手術の後に続いた原因不明の病、それは本当は病気ではなかった。
怨嗟に満ちた呪いだった。




