2の58の2
その包みからは、高級感が感じられた。
気圧されているわけにもいかず、ヒナタは包みを開けた。
包みの中には小箱が入っていた。
小箱を開けると、中には小瓶が見えた。
瓶の中は、ポーションのような液体で満たされていた。
「これは?」
瓶を持ち、ヒナタは横目でマニャを見た。
「エリクサーよ」
「っ……エリクサーって……あの……!?」
万病を癒やすという伝説の回復薬か。
「ええ」
「いったいいくらしたんだ……?」
世界有数の金持ちが、こぞって奪い合うような薬だ。
国民的アイドルのマニャでも、手に入れるのは簡単ではないはずだが。
「500億。
ちょっと手痛い出費だったけど、まあなんとかなったわ。
なにせ私は、キタカゼ=マニャだもの」
さらりと言ったマニャの顔には、負の感情は見られなかった。
大金を支払ったことを、特になんとも思っていないらしい。
「それを飲んで。ヒナタ」
「大げさだぜマニャねえ。
俺の心臓はほとんど治ってるんだ。
そんな大金をかけるようなもんじゃない」
「嘘ね。レースでたまに苦しそうにしてるでしょう。
あなたの心臓は、治ってなんかいない」
なるべく平然と走るようにしていたはずだが。
姉であるマニャには、ヒナタの不調はお見通しだったらしい。
「弟のレースを、いちいち見ないでくれよ。恥ずかしい。
たしかに完治はしてないけど、
べつに死ぬほどじゃないさ」
「私がそれを、あなたにあげると決めたの。
あなたがどう思おうと関係ないわ」
「そうですか。
……このエリクサーってやつは、何にでも効くんだよな?」
「そのはずよ。そうでないと困るわ」
「魔力回路の損傷にも効くのか?」
「そう思うけど?」
「俺にくれるんだよな? コレ」
「そう言ってるでしょう?」
「それじゃ、ありがたく貰っとくよ」
ヒナタは車のドアを開けた。
そして外に出ると、病院に向かって駆けていった。
「ちょっと! どこに行くの!? ここで飲んでいきなさい!」
マニャは慌ててヒナタを追いかけた。
そのとき。
(どうしてここに……?)
車から下りたマニャを、ミヤが目撃していた。
……。
ニャツキの病室。
リリスは一人でベッドのそばに立っていた。
「…………」
彼女はじっと黙って、ベッドのニャツキを見守っていた。すると。
「んぅ……」
猫のままで、ニャツキが目を開いた。
「お姉さま……!」
「リリスさん……? ここは……?」
ニャツキはぼんやりと周囲を見た。
そしてゆっくりと、自身が置かれた状況を咀嚼していった。
「病院……? 俺様は……負けたのですか……」
「…………」
「お見舞いに来てくださったのはあなただけですか?
ヒニャタさんは……。
来るわけがありませんか。
彼は私ではなく、あなたのパートニャーですからね。
は……ははっ……は……」
ニャツキは泣きそうに笑った。
「お姉さま。あの……」
「さて、退院の手続きをしないといけませんね」
リリスの言葉を遮るように、ニャツキは体を輝かせた。
ニャツキは猫の状態から、人の姿へと変身した。
体が縮んだ彼女は、ぶかぶかのねこ服に包まれることになった。
「着替えは……」
ニャツキはベッドから立ち上がろうとした。
だがうまく行かず、リリスとは反対側の床に滑り落ちた。
「っ……?」
「お姉さま……!」
ニャツキは呆然と、自らの脚を見た。
「脚が……? えっ……えっ……?
どうして……どうなっているのですか……?
私の脚……どうして動かないの……?」
猫は頑丈だ。
ちょっとクラッシュしたくらいどうということはない。
そのはずなのに、どうして……?
想定外の状況が、ニャツキの心を揺さぶった。
「……だいじょうぶです。きっと治りますから」
リリスの月並みな言葉は、ニャツキの神経を逆撫でした。
「何がだいじょうぶだよ……」
悲しげだったニャツキの顔が、みるみると憎悪に染まった。
「お姉さま……?」
「同年代のくせに……何がお姉さまだよ……
ふざけやがって……!」
ニャツキは脚を引きずって、リリスに這い寄っていった。




