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 その包みからは、高級感が感じられた。



 気圧されているわけにもいかず、ヒナタは包みを開けた。



 包みの中には小箱が入っていた。



 小箱を開けると、中には小瓶が見えた。



 瓶の中は、ポーションのような液体で満たされていた。



「これは?」



 瓶を持ち、ヒナタは横目でマニャを見た。



「エリクサーよ」



「っ……エリクサーって……あの……!?」



 万病を癒やすという伝説の回復薬か。



「ええ」



「いったいいくらしたんだ……?」



 世界有数の金持ちが、こぞって奪い合うような薬だ。



 国民的アイドルのマニャでも、手に入れるのは簡単ではないはずだが。



「500億。


 ちょっと手痛い出費だったけど、まあなんとかなったわ。


 なにせ私は、キタカゼ=マニャだもの」



 さらりと言ったマニャの顔には、負の感情は見られなかった。



 大金を支払ったことを、特になんとも思っていないらしい。



「それを飲んで。ヒナタ」



「大げさだぜマニャねえ。


 俺の心臓はほとんど治ってるんだ。


 そんな大金をかけるようなもんじゃない」



「嘘ね。レースでたまに苦しそうにしてるでしょう。


 あなたの心臓は、治ってなんかいない」



 なるべく平然と走るようにしていたはずだが。



 姉であるマニャには、ヒナタの不調はお見通しだったらしい。



「弟のレースを、いちいち見ないでくれよ。恥ずかしい。


 たしかに完治はしてないけど、


 べつに死ぬほどじゃないさ」



「私がそれを、あなたにあげると決めたの。


 あなたがどう思おうと関係ないわ」



「そうですか。


 ……このエリクサーってやつは、何にでも効くんだよな?」



「そのはずよ。そうでないと困るわ」



「魔力回路の損傷にも効くのか?」



「そう思うけど?」



「俺にくれるんだよな? コレ」



「そう言ってるでしょう?」



「それじゃ、ありがたく貰っとくよ」



 ヒナタは車のドアを開けた。



 そして外に出ると、病院に向かって駆けていった。



「ちょっと! どこに行くの!? ここで飲んでいきなさい!」



 マニャは慌ててヒナタを追いかけた。



 そのとき。



(どうしてここに……?)



 車から下りたマニャを、ミヤが目撃していた。




 ……。




 ニャツキの病室。



 リリスは一人でベッドのそばに立っていた。



「…………」



 彼女はじっと黙って、ベッドのニャツキを見守っていた。すると。



「んぅ……」



 猫のままで、ニャツキが目を開いた。



「お姉さま……!」



「リリスさん……? ここは……?」



 ニャツキはぼんやりと周囲を見た。



 そしてゆっくりと、自身が置かれた状況を咀嚼していった。



「病院……? 俺様は……負けたのですか……」



「…………」



「お見舞いに来てくださったのはあなただけですか?


 ヒニャタさんは……。


 来るわけがありませんか。


 彼は私ではなく、あなたのパートニャーですからね。


 は……ははっ……は……」



 ニャツキは泣きそうに笑った。



「お姉さま。あの……」



「さて、退院の手続きをしないといけませんね」



 リリスの言葉を遮るように、ニャツキは体を輝かせた。



 ニャツキは猫の状態から、人の姿へと変身した。



 体が縮んだ彼女は、ぶかぶかのねこ服に包まれることになった。



「着替えは……」



 ニャツキはベッドから立ち上がろうとした。



 だがうまく行かず、リリスとは反対側の床に滑り落ちた。



「っ……?」



「お姉さま……!」



 ニャツキは呆然と、自らの脚を見た。



「脚が……? えっ……えっ……?


 どうして……どうなっているのですか……?


 私の脚……どうして動かないの……?」



 猫は頑丈だ。



 ちょっとクラッシュしたくらいどうということはない。



 そのはずなのに、どうして……?



 想定外の状況が、ニャツキの心を揺さぶった。



「……だいじょうぶです。きっと治りますから」



 リリスの月並みな言葉は、ニャツキの神経を逆撫でした。



「何がだいじょうぶだよ……」



 悲しげだったニャツキの顔が、みるみると憎悪に染まった。



「お姉さま……?」



「同年代のくせに……何がお姉さまだよ……


 ふざけやがって……!」



 ニャツキは脚を引きずって、リリスに這い寄っていった。



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