2の56の1「ねこ聖杯と決着」
「嘘つけ。なんにもないのに猫が光るわけないだろ」
「嘘じゃないってば」
「嘘つきにはデコピンだ!」
暴力を楽しむのに良い口実だと思ったのか。
いちばん背が高い男子が、ヒナタに掴みかかった。
「わっ……!」
ヒナタはデコピンの刑に処された。
調子に乗った子供たちが、次々にデコピンを食らわせてきた。
気が済んだ子供たちは、ヒナタを置いて遊び場に散っていった。
ヒナタは赤くなったひたいを押さえ、涙目で呟いた。
「嘘じゃないのに……」
ヒナタは家に帰った。
それからしばらくすると、学校からミヤが帰ってきた。
「ミヤねえ!」
ミヤの気配を感じると、ヒナタは玄関に駆けていった。
いつもより勢いのある出迎えに、ミヤは首をかしげた。
「ヒナタ? どうしたの?」
「あの光るやつ、もう一回できないかな?」
「……どうかな? 難しいかもしれない」
「やろうよ」
「ヒナタ?」
「あいつら、俺を嘘つきって言ったんだ。
だから練習して見せてやりたい。
俺は本当のことを言ってたんだぞって」
「練習するのは良いけど、できなかったらごめんね」
「がんばろうよ」
「前の所で走る?」
「うん。行こう」
ミヤに跨って、ヒナタは森に向かった。
前に見つけた花畑に、何か原因があったのかもしれない。
そう考えた二人は、花畑を走り回ってみることにした。
だが、二人の期待どおりにはならなかった。
何の予兆も掴めず、ミヤは脚を止めた。
むすっとした難しい顔で、ヒナタが呟いた。
「……光らない」
「うん。難しいね」
「前と何が違うんだろ?」
「ひょっとすると、光ろうと思ってると光らないのかも……」
「えっなんで? そんなのずるいよ」
「なんとなく思っただけだから」
「そう? もっとがんばってみよう」
「うん」
もっともっと走れば、光を掴むことができるかもしれない。
ヒナタはそう考えて、ミヤを長く走らせた。
だがやはり、まったく光る様子はなかった。
「ヒナタ。そろそろ帰らないと、また叱られるよ」
「もうちょっとだけ……う……!?」
ヒナタは突然に胸を押さえた。
そしてミヤの上に倒れこんだ。
「ヒナタ……!?」
ミヤは慌てて人里に戻った。
そしてヒナタを近場の病院に運び込んだ。
ヒナタは病院で検査を受けた。
すると心臓に異常が見つかり、入院して経過を見ることになった。
……。
「本当に光ったんだって」
「うんうん。凄いね」
病院で出会った年上の少女が、温かい目でそう言った。
「嘘じゃないってば」
「嘘だなんて言ってないよ。
来週さ……手術があるんだ。
ちょっと難しいやつだって聞いてるけど、
もし上手く行ったら、
その光る走りってのを見せてよ。ご褒美にさ」
「見せてって言われても……。
やろうと思って出来るもんじゃないんだってば」
「そこをなんとか、がんばってよ」
「……わかったよ。
がんばるから、おまえもがんばれよ。
手術なんかに負けるんじゃねえぞ」
「うん。がんばる」
少女は儚く笑った。
……。
少女の手術の日から数日後。
病室に見舞いに訪れたミヤに、ヒナタが声をかけた。
「ミヤねえ」
「うん」
「心臓が治ったら、ジョッキーになりたいな。
走り続けてたら、
あの景色がまた見られるかもしれないから」
「だったら……私はランニャーになろうかな」
……その2年後。
ヒナタは心臓の手術を受けることになった。
手術の後しばらくは、つらいリハビリ生活が続いた。
彼は努力を続け、ついにはオーストニャリアでジョッキーになることができた。
……。
今。
ヒナタは再び光りの道を駆けていた。
「えっ? これって?」
超常の事態に、リリスが疑問符を浮かべた。
するとすぐに光は消えた。
二人は元のレース場に戻った。




