表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

158/172

2の55の1「闇と光」


 ニャツキが困っていると、カゲトラが口を開いた。



「あのさニャツキ」



「何ですか……!」



 悩んでいるのに、気を散らさないで欲しい。



 八つ当たりのような怒りを、ニャツキはカゲトラに向けた。



「タケベさんが行けって言ってるし、そろそろ行くよ」



「っ……!」



 カゲトラは加速した。



 まだゴールは遠い。



 スパートではない。



 ニャツキは今までずっと、ギリギリの走りをしていた。



 だがカゲトラは、まだ余力を残していた。



 ニャツキの限界は、カゲトラの限界ではなかった。



 カゲトラが少しずつ、ニャツキを追い抜いていく。



「にゃ……! にゃっ……!」



 嫌だ。



 置いていかれたくない。



 だが、中盤でこれ以上の速度を出せば、ニャツキの脚は潰れてしまう。



 加速は不可能だ。



「そこがキミの限界?


 キミがヒナタさんが凄い言ってたの、


 あのときは理解できなかったけど……。


 なるほど。今の状況を見ると、


 あながち間違いでもなかったのかもしれないね。


 あの人と勝負しに行ってみるよ。


 ……じゃあね。ニャツキ」



 ニャツキの最強の手札は、鍛え抜かれた最速の脚だ。



 それが覆された。



 最速でないニャツキは、カース攻撃も持たない凡庸な猫だ。



 今の彼女には、信頼できるパートニャーすら存在しない。



 何もない。



 カゲトラは完全にニャツキを抜いた。



 両者の距離が離れていく。



 カーブが終わると、リリスが右110度のコーナーを曲がった。



 右方の柵越しに、ニャツキはヒナタの横顔を見た。



 無邪気な子供のように、楽しそうに笑っていた。



「ヒニャタさん……!」



 重くドス黒い濁った気持ちが、ニャツキの内を支配していった。



「行かせない行かせない行かせない行かせない……!


 ぜったいに行かせませんよ……!


 あなたは他の誰のものでもなく、


 私のパートニャーなのですから……!」



 ニャツキの体から、黒い魔力が湧き上がった。



「ニャツキ……!?」



 闇の気配が、シャルロットの背筋を冷やした。



 ニャツキの背からカースの翼が伸びた。



 純白だった翼は、瞬時に真っ黒に染まった。



 鳥のようだった翼が、コウモリの羽のような形に変化していった。



(ニャツキがねこ進化を……!?


 けど……この禍々しさは……?)



 シャルロットが見守る中、翼はさらに異常な変形を始めた。



 翼は翼であることをやめ、ニャツキの体に巻きつきはじめた。



「ニャツキ……!」



 シャルロットの心配は、何も良い影響をもたらさなかった。



 彼女は傍観者であり、置き物でしかなかった。



 翼は変形を続け、黒い鎧のような形になった。



 ニャツキの顔は、鬼のような面に覆われた。



 地の底でうごめく怨嗟を表現したような、恨めしげな面だ。



 新たな姿で、ニャツキは加速した。



 普通に脚を動かす走りではない。



 外側の鎧に無理やり走らされるようにして、ニャツキは走っていた。



 鎧はぎゅうぎゅうと、ニャツキの体を締め付けていた。



 ニャツキの全身に痛みが走った。



「ぐうっ……!」



「ちょっと……! だいじょうぶなの……!?」



「これしきの痛み……!


 レースに勝てればそれで良いのです!」



 痛い。苦しい。死にたい。



 ……それがどうした?



 鬼面の下で、ニャツキは獰猛に笑った。



 コーナーを抜けたニャツキは、直線を駆けた。



 今の彼女は、今までよりもずっと速い。



 すぐにカゲトラに追いつくことができた。



「ニャツキ……?」



 併走してきたニャツキを見て、カゲトラは目を見開いた。



「その姿は……」



「ふっ……ふふっ……あははははははっ!


 追いつきましたよ! カゲトラさん!」



 カゲトラはしばらくニャツキを見た後、哀れむようにこう言った。



「ねえ、その走り方、楽しい?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ