表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/172

2の52の1「みんなとねこ聖杯当日」


「ふぇ?」



「俺はあなたを喜ばせたいわけじゃない。


 あなたたちに会場で応援してもらったほうが、


 こいつは勝てる。


 これは勝つための努力であって、


 善意でやるわけじゃない。


 娘さんのキャリアために、母親として努力してください。


 できませんか?」



「それは……んぅ……重いよぉ? 私……」



「力仕事は得意です。任せてください」




 ……。




 レース二日前の夜。



「ぐ……! うぅ……が……っ!」



 ヒナタがベッドの上で、胸を押さえて苦しんでいた。



 彼の症状は以前より悪化していた。



 部屋に居るのはヒナタ一人だ。



 心配してくれる者は誰もいない。



 孤独な苦しみに、ヒナタは苛まれ続けていた。



(ああ……良かった……)



 つらいはずのヒナタの顔に、なぜか笑みが紛れた。



(重い症状が出たのがレースの日じゃなくて……ほんとに良かった……)




 ……。




 ねこ聖杯の当日。



 キョートの山岳部に浮かぶキョートねこフロート。



 競ニャ場の控え室で、シャルロットがニャツキに声をかけた。



「今日はよろしくね。ニャツキ」



「はい。よろしくお願いします」



 ニャツキはシャルロットに、わだかまりなく答えた。



 そしてすぐに興味がなくなった様子で、控え室を見回した。



(ヒニャタさん……それにリリスさんも。


 いったいどこへ行ってしまったのでしょうか?)



 大事なレース前だ。



 余裕を持って入場し、待機しておくのが普通だろう。



 だというのに控え室には、ヒナタもリリスも見当たらなかった。



 選手の中には、個室で集中力を高める者も居る。



 だがニャツキが知る限り、ヒナタたちはそういうタイプでもないはずだが……?




 ……。




 ねこフロートにある通り。



 ヒナタがリニャの巨体を抱きかかえ、駆けていた。



「すごいねぇ。力持ちだねぇ」



 のんびりとした声で、リニャが感心を見せた。



 猫の体重は、100キログラムを軽く超える。



 普通の人間であれば、米農家でも難儀する重さだ。



 特級冒険者であるヒナタにとっては、この程度は重荷のうちに入らない。



「ジョッキーですから」



 車両扱いのヒナタは、リニャを抱えたまま車道を駆けていった。



 その後をリリスが追う。



 リリスは猫化しており、既に装鞍を終えていた。



 リリスの鞍の上には、ナオヤが腰をおろしていた。



 一行は法定速度を守り、道を進んでいった。



 ヒナタたちは、やがて競ニャ場に入った。



 Sランクレースのため、競ニャ場には多くの人が集まっている。



 ねこを抱えたヒナタに、注目の視線が向けられた。



「キタヒナさん?」



「なんで猫を運んでるんだろ」



「ふつくしい……」



「後ろに居るの、リリスちゃんじゃない? かわい~」



「あの! サインください!」



 Sランクジョッキーであるヒナタは、既に業界の有名人だ。



 ヒナタのパートニャーであるリリスも、相当に知名度は高まっている。



 興奮したファンに対処しつつ、一行は客席のほうへ向かった。



「この指定席に座……るのは難しそうですね」



 リニャを抱えたまま、ヒナタは悩みを見せた。



 人間用の狭い椅子に、猫の巨体はおさまりきらないのだった。



「どうしましょうか……」



 リリスも困惑を見せた。



 リニャはのんびりとこう言った。



「ん~とねぇ。テーブルの上にでも、


 置いといてもらえれば良いよぉ」



 指定席の前には、テーブルが設置されていた。



 それほど大きくもない簡素なものだ。



 ナオヤの席のテーブルと合わせれば、座席よりはスペースがある。



 だがやはり、猫の巨体を乗せるには心許ないように思われるのだが……。



「……どう思う? ニャカメグロ」



「お母さんは寝相が良いので、なんとかなると思います。……たぶん」



「やっちゃってください。キタカゼさん」



 ナオヤまでがそう言ったので、ヒナタは覚悟を固めた。



「じゃあやるけど……」



 ヒナタは客席テーブルの上に、おそるおそるとリニャを配置した。



 溢れんばかりの巨体は、何故かテーブルの上で安定してしまった。



「……なんとか収まったかな。


 それじゃ、レースを楽しんでいってください。


 ナオヤくんも」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ