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「お姉さま……?」
目を血走らせるニャツキに、リリスが困惑を向けた。
ヒナタはニャツキをフォローするようにこう言った。
「ダメージを受けて気が立ってるんだろ。
ほら、落ち着けよ」
子供をあやすように、ヒナタはニャツキの頭を撫でた。
「にゃ……」
やがてニャツキはとろんとした顔になり、ヒナタに抱きついてきた。
「む……」
ニャツキに抱きつかれたヒナタを見て、リリスは眉をひそめた。
「よしよし。落ち着いたか?」
「…………はい」
「地上に帰ろう。それでしっかりと休め」
「……あの、これ……」
ニャツキは手にした魔石を、ヒナタに差し出してきた。
「おまえのだよ。それは。
そうだよな? クライシ。ニャカメグロ」
「もちろんです!」
リリスが力強く答えた。
「あなたが納得してるなら、それで良いわ」
オモリは何か含みがある言い方で、ヒナタに賛意を見せた。
「ありがとうございます」
ニャツキはイシをリュックにしまった。
「良し。乗れよハヤテ。
三人乗りと行こうぜ」
ヒナタがリリスに跨り、オモリはその後ろに座った。
「それでは失礼します」
ニャツキもリリスに跨った。
安定のため、ニャツキはオモリに抱きつく形になった。
ニャツキには見えない位置で、オモリの顔が赤くなった。
リリスは自発的に走り出し、地上へと向かった。
ヒナタは携帯を取り出し、SNSでニャツキの無事を伝えた。
行きよりもゆっくりとした走りで、リリスはトレーニングタウンに戻った。
途中でヒナタは、ニャツキにこう尋ねた。
「それでハヤテ。
まだヨコヤマに泊まるつもりか?」
「……そうですね。
ねこ聖杯の決着がつくまでは、
自分のことを優先させてください」
「わかった。けど、もう今日みたいなムチャはすんなよ」
「はい」
ニャツキを送るため、リリスはホテルヨコヤマに寄ることになった。
ニャツキをヨコヤマに残し、ヒナタたちは去っていった。
ニャツキはねこホテルに入った。
ねこ王として視線を集めたりしつつ、彼女はエレベーターに乗った。
そして最上階にあるカゲトラのスイートルームに向かった。
リビングに入ると、ソファでカゲトラがゴロゴロしているのが見えた。
「あっ、ニャツキ。心配したよ。あんむ」
彼女はだらけた格好で、ポテチをぱりぱりとかじっていた。
「……ホントに?」
「ホントホント。無事でよかった」
だらけた姿から一転。
美しさすら感じる軽やかさで、カゲトラはソファから立ち上がった。
「それでどうだった? 大魔獣とやったの?」
「それは……」
言葉に詰まったように見えたニャツキが、急に頬を赤らめさせた。
そして何故か、力強くカゲトラに抱きついてきた。
「わっ……! ニャツキ……!?」
「ヒニャタさんかっこいい……好き……」
「落ち着いて! ボクはヒナタさんじゃないよ痛い痛い痛い痛い!」
ニャツキはぎりぎりと力を増した。
カゲトラは照れるどころではなくなり、必死で被害を訴えた。
……。
カゲトラは、なんとかニャツキから解放された。
「まったく……。
危うくねこ聖杯に出られなくなるところだったよ」
カゲトラが向けてくる非難に、ニャツキは薄い苦笑いを返した。
「すいません。つい。さて……」
ニャツキはリュックをローテーブルに置いた。
そして中から魔石を取り出した。
普通とは違う大きな魔石に、カゲトラの興味がひきつけられた。
「大きいね。それって大魔獣のイシ?」
「ええ。あげませんよ」
「そりゃそうだろうけど。いきなり何?」
自分は人の魔石を盗み食いするような猫と思われていたのだろうか。
心外だ。
カゲトラは抗議するような視線をニャツキに向けた。
「……いえ。さっそくいただきたいと思います」
細かい意図を説明することもなく、ニャツキはそそくさと距離を取った。
そしてEXP遮断の魔導器を起動した。
魔導器が障壁を張っている限り、周囲の猫にEXPを吸われる心配はない。
ニャツキは魔石を綺麗にした後、安心してイシにかじりついた。
砕けた魔石からEXPがはなたれ、ニャツキの中に流れ込んでいった。
そして。
「っ……!」
ニャツキの四肢に、ぐっと力がこもった。
その直後、彼女は高く跳びあがった。
「やったーっ! ふぎゃっ!?」
天井にぶつかって、ニャツキは落下した。
そして気にした様子もなく、すぐに元気に起き上がった。
天井はダンジョンマテリアルででも出来ていたのか。
猫の頭突きを食らっても、傷がついた様子もなかった。




