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「ああ。オンボロに見えて、
案外じょうぶだな。このホテルも」
「ごめんね。オンボロホテルで」
いつの間にかアキコが居て、俯いてそう言った。
「えっ」
失言に固まったヒナタに、リリスがからかいの矛先を向けた。
「あーあ。泣ーかした」
「…………ゴメンナサイ」
気まずくヒナタが謝ったとき、彼の携帯が鳴った。
「ヒナタさん」
スピーカーから聞こえてきたのは、カゲトラの声だった。
「カイか。そっちは無事か?」
「うん。ボクは問題ないけど……」
「ハヤテに何かあったのか?」
「まだ何とも言えないけど、
ニャツキは今、ダンジョンに居るはずなんだ。
それで、さっきの地震は……」
「ダンジョンクエイクか?」
「そうみたい。
ダンジョンが活性化して、大魔獣が生まれた可能性がある」
ダンジョンは、普通の魔獣より強力な大魔獣を生み出すことがある。
そのときに起きるダンジョンの揺れが、ダンジョンクエイクだ。
つまり今、ダンジョンには生まれたての大魔獣が居るということになる。
「あいつの脚なら、
大魔獣と出くわしても逃げ切れるだろう」
表面上は心配をせずに、ヒナタはそう言った。
するとカゲトラは、心配そうな声音を返してきた。
「……もしニャツキが、大魔獣に向かっていったら?」
「いや……一人でダンジョンに潜ってるんだろ?
それで大魔獣と戦うなんて、そんなムチャは……」
凶悪な大魔獣には、大人数で立ち向かうのが定石だ。
普通に考えれば、一人で戦いを挑むことはありえない。
だがニャツキという猫に、常識を当てはめても良いものだろうか。
そんな考えが、ヒナタの言葉尻を濁らせた。
「ニャツキはねこレベルを上げたがってた。
大魔獣を倒せば、
莫大なEXPが手に入る。
万が一ってこともあるかもしれない……」
「……わかった。
ダンジョンの位置を教えてくれ。俺が様子を見に行く」
「ボクも行くよ」
「ダンジョン探索の経験はあるのか?」
「無いけど……」
「それじゃあダメだ。
おまえはハヤテと連絡が繋がらないかチェックしてくれ」
「……うん」
ヒナタは電話を切り、アキコに声をかけた。
「俺はハヤテの無事を確かめに、
ダンジョンに行ってきます」
「一人で行くの?
プロの冒険者の人たちに任せたほうが……」
「時間に余裕があるならそうしますけど、
ハヤテの現状がわかりませんから」
事態を見守っていては、手遅れになるかもしれない。
そう考えたヒナタに躊躇はなかった。
「私も行きます!」
リリスが声を上げた。
「バイクで移動するより、
猫のほうが速いでしょう?」
「……わかった」
二人は迅速に装備を整え、ホテルの駐車場に向かった。
「さあ、乗ってください」
ヒナタはリリスに跨った。
そのときクライシ=オモリが、ヒナタの後ろに腰を下ろした。
「私も行くわ」
「やめとけ」
「議論する時間がもったいないと思わない?」
「……行くぞ」
「ヒナタさん! どうかお気をつけて!」
見送りに来たコジロウが、大声でそう言った。
彼女の後ろには、サクラたちの姿も見えた。
「ああ。風壁、応援花、氷路」
ヒナタの呪文によって、空中に氷の道ができた。
ヒナタに命じられるまでもなく、リリスは地面を蹴って駆けた。
「華花絢爛!」
出し惜しみなく、リリスはカースを発動した。
余韻を残す間もなく、リリスの姿がコジロウたちの視界から消えた。
「速い……」
……。
大型ダンジョン深層の、とある大広間。
ニャツキの前に、地竜の姿があった。
体長20メートルを超える巨体は、並の魔獣のものではない。
大魔獣に違いないだろう。
大魔獣がはなつ威圧感は、常人なら腰を抜かすほどのものだ。
だがニャツキは、一片の怖気もなく、地竜へと向かっていった。
「はああああああぁぁぁっ!」
ニャツキのロングソードが、地竜の表面を裂いた。
即座に来た反撃を、ニャツキは俊敏にかわした。
(行ける……!
たとえ大魔獣であろうが、
宇宙最速の俺様の敵ではありません……!)




