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 ヒナタには昨日のニャツキは、とても余裕があるように見えた。



 思いつめて家出をするような猫の姿には見えなかった。



 とはいえヒナタには、乙女心を知り尽くしている自信はない。



 もっと深い所に悩みがあるのだと言われれば、納得するしかないのだが。



「わかりませんけど、お姉さまが心配ですね。


 いったいどこへ行ってしまわれたのでしょうか……?」



「ん~」



 とりあえず、ヒナタは携帯を取り出した。



 そしてカゲトラの番号に電話をかけた。



「はい?」



 すぐに電話がつながって、カゲトラの声が聞こえてきた。



「カイ。そっちにハヤテのやつが来てないか?」



「ヒナタさん? 来てるけど」



「……そうか。


 悪いがちょっとめんどうを見てやって欲しい。


 それと、何かあったら連絡して欲しい」



「わかった。それじゃ」



 ヒナタは通話を終え、携帯をポケットにしまってこう言った。



「ハヤテはカイのところに居る」



「どうしてわかったんですか?」



 あっという間に正解を見つけたヒナタに、リリスが疑問を向けた。



「あいつのトレーニングには、


 魔導ウェイトが必要なはずだ。


 あんなレアグッズを持ってるやつを、


 カイの他には知らなかったんでな」



「なるほど。かしこいわね。ヒナタくん」



 よしよしと、アキコはヒナタの頭を撫でた。



 されるがままになったヒナタを、リリスが睨んだ。



「む……何をデレデレしているんですか」



「してないが?」



「どうですかね。


 それでどうしましょうか?」



「あいつがムチャをやってるなら


 文句の一つも言ってやるところだが、


 元気にやってるんだったら、


 俺に言うことはねえよ」



 黙って消えたのは問題だが、ニャツキは悪事を働いているわけではない。



 ただ速くなろうとしているだけだ。



 アスリートとして当然の感情を妨げる権利は、自分にはない。



 ヒナタはそう思っていた。



「……寂しくないんですか?」



 リリスは表情を苦くして、そう尋ねてきた。



「そんな繊細じゃねえよ。俺は」



 実際は、うるさいのが居なくなれば、少しは寂しいかもしれない。



 だが、相手の行動に干渉するほどのことだとは、ヒナタは思わなかった。



「悪かったですね。繊細で」



 深く寂しさを感じているらしいリリスが、むっとした顔を見せた。



 それを微笑ましく感じたヒナタは、表情を緩めてこう言った。



「会いたいなら会いに行けば良いだろ。


 居場所はわかってるんだから」



「ホテルヨコヤマって、


 ふらっと訪ねていくのは


 ちょっとハードル高くないですか?」



「ホテルヨコヤマは、ただのねこホテルだ。


 俺たちが住んでるホテルヤニャギだってねこホテルだ。


 そこになんの違いもありゃしねぇだろうが」



「違いますよ。迫力が」



「ごめんね。迫力がないホテルで」



 アキコの苦笑を見て、リリスはぎくりとした様子を見せた。



「いえ……べつにホテルヤニャギが悪いというわけではなく……」



「あーあ。泣ーかした」



「泣かしてないです。


 とにかく、一人だと緊張するので、


 あなたもいっしょに来てください」



「あいよ」




 ……。




 リットートレーニングタウンで最大の高層建築。



 それがホテルヨコヤマだ。



 豪壮たるホテルの最上階。



 カゲトラに割り当てられたスイートルーム。



 その広々としたリビングで、カゲトラはヒナタとの通話を終えた。



 そしてソファに居るニャツキにこう言った。



「電話、ヒナタさんからだったよ」



 ニャツキのネコミミが、ぴくりと動いた。



「彼は何と?」



「ニャツキのことが心配だったみたい。嬉しい?」



 ニャツキはふりふりと尻尾を動かした後、すまし顔でこう言った。



「今はその程度のことで


 喜んでいる場合ではありません。


 時間を無駄にできません。


 さあ、トレーニングを開始しますよ。


 ジムはどこにあるのですか」



「こっちだよ」



 二人はリビングから出て廊下を歩いた。



「それにしても広いお部屋ですね」



「うん。元はマニャさんのための、


 特別スイートだったんだ。


 けど、マニャさんの拠点はミホのほうで、


 リットーにはほとんど来ることがなかったから、


 めったに使われることはなかったみたい。


 もったいないから、ボクが貰うことにしたんだ」



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