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(何ですかこの妙な感じは……。
リリスさんのレースが……何だと言うのですか……?)
ニャツキは足早にベッドに向かった。
ベッドの上にはタブレットPCが転がっている。
彼女はそれを手に取り、リリスのレースを検索した。
動画を再生すると、リリスたちのゲートインの様子が映し出された。
「ヒニャタさんが……俺様いがいの猫に……」
リリスに乗っているヒナタを見て、ニャツキはションボリした。
(見るの……止めましょうかね……)
動画を停止するため、ニャツキは画面をタップしようとした。
そのまま指が画面に触れれば、動画は止まるはずだった。
だが何故か、彼女の指は直前で止まってしまった。
そのまま動画は進み、レース開始のカウントダウンが始まった。
カウントがゼロになり、レースが開始された。
ニャツキは嫌な気持ちを振り切って、動画の内容に集中した。
するとリリスの対戦相手に、強豪が何人も居ることに気付いた。
その中には、テンジョウイン=ミストの姿もあった。
(中々の顔ぶれですね。
ヒニャタさんはどうやって、
ミストさんのカースを攻略したのでしょうか?)
レースの詳細は知らないが、リリスが勝ったということは聞いている。
つまり恐るべき力を持つミストが、敗れ去ったということだ。
いったいどうやったのか。
ランニャーとしてもトレーニャーとしても、興味は尽きなかった。
レースを見守っていると、セイラにミストが落とされた。
その後のミストは、前の猫に苦戦しているようだった。
(なあんだ。
ヒニャタさんがミストさんを倒したわけではなかったのですね。
それに……対処法さえわかっていれば、
ミストさんのカースはそこまで絶対的なものでもないようですね。
対応するジョッキーの集中力は削がれるでしょうから、
いまだに強いカースではあるのでしょうが)
蓋を開けてみれば、大したオチでもなかった。
ニャツキは興醒め顔を見せた。
そして冷えた目で、動画の続きを眺めた。
画面の中で、リリスがセイラのタックルを受けた。
レース展開に動きが見えたことで、ニャツキの好奇心が少し回復した。
(ヤコウ=セイラさん。
彼女もそれなりの猫ですね。
まあ俺様のフィジカルなら、
リリスさんのように簡単にタックルを許したりはしませんけど)
まだリリスは甘い。
自分が居る領域には辿り付けていない。
それを見たニャツキの中で、安堵の気持ちが広がった。
画面の中で、セイラが再びタックルをしかけた。
そのときリリスが、カウンタータックルを成功させた。
(おお。さすがヒニャタさんです。かっこいい……)
リリスの独断ではなく、ヒナタの操猫によるものだろう。
そう見抜いたニャツキの頬が、少し赤くなった。
セイラに隙ができたのを見て、ツルマキ=ジュジュが動いた。
ジョッキーを奪われて、セイラは脱落。
ジュジュとヒナタの戦いが始まった。
剣でカースに対処するヒナタに、ニャツキは見惚れた。
(っ……! ヒニャタさんは剣も使えるのですか……!?
なんというかっこよさ……!
しかし俺様はジュジュさんのような攻撃はしませんから、
特に気にするようなことでもないでしょうね。
さて、今のところは
ただヒニャタさんがかっこいいだけのレースですが……っ!?)
リリスの周囲で、強化呪文の花びらが輝いた。
それに呼応するように、リリスが目覚ましい加速を見せた。
ぐんぐんと、後ろのジュジュを引き離していく。
ニャ群から抜きん出たリリスが、ダントツのゴールを決めた。
「速い……」
ふだんの走りからは想像がつかないほど、リリスのスパートは速かった。
ニャツキはぶるりと震え、つばを強く飲み込んだ。
(これが……ヒニャタさんに妙に自信があった理由ですか……。
たしかに……恐ろしい速さでした……。
ですが……ふだんのスピードは俺様のほうが上……。
最後の直線までに
じゅうぶんに突き放しておけば……
いくらスパートが速くても追いつけないはず……。
俺様がギリギリ勝てます……よね?
たぶん……)
ニャツキはリリスの走破タイムを確認した。
以前マニャが出したコースレコードと大差はない。
これくらいのタイムなら、自分だって……。
『レベルアップしたみたいです』
「っ……!
俺様も……レベルを上げないと……もっと……」
今までにない焦りが、ニャツキの心をざわめかせた。




