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「…………!」
奥義の気配を受けて、ヒナタは身構えた。
(ガーデンだと……!?
データにはなかったぞ……!)
今までツルマキ=ジュジュは、公式レースでガーデンを見せたことがない。
未知の攻撃が来る。
ヒナタはジョッキーとして、それに対処しなくてはならない。
猫を勝たせなくてはならない。
緊張し、脅威の到来を待った。だが。
「……やっぱりやめた」
そう言って、ジュジュは脱力した。
「む……?」
ヒナタは目を細めた。
いくら待っても、ジュジュからの攻撃はなかった。
(温存か……? Sランクレースのための)
何も起きないまま、リリスとジュジュの距離がはなれていった。
(よし……このまま……)
「ぐうっ……!?」
勝ちを確信したとき、ヒナタの胸に激痛が走った。
(レース中に来やがったか……)
(キタカゼ=ヒナタ……?)
(何でもない。そのまま行け)
(……はい!)
圧倒的な速度で、リリスは独走した。
後続に20ニャ身以上の差をつけ、トップでゴールを抜けた。
ジュジュは後続に追い抜かれることなく、2着のままゴールした。
遥か遠くのリリスに視線を向け、ジュジュはこう考えた。
(2着なら、ねこ聖杯には出られそう。
けど、キタカゼさんは強かった。
さすがはSランクジョッキー。
それに、あんなに速い猫が隠れてたなんて。
二人に勝てるくらいでないと、
きっとねこ聖にはなれない)
後続の猫が、続々とゴールしていった。
カースが機能しなかったミストは、7着となった。
最後に失格になったセイラが、しょんぼりとゴールを抜けた。
勝者となったリリスは、ウィニャーズサークルでニャツキへの愛を叫んだ。
レースを終えた一行は、装鞍所に戻っていった。
そこでしょんぼりとしていたセイラに、ヒナタが声をかけた。
「惜しかったな」
レース前より元気がない様子で、セイラが答えた。
「何が惜しいものか。失格だぞ?
私をバカにしに来たのか?」
「違うって。結果は残念だったが、
腹に響く良いタックルだったぜ。
また勝負しよう」
「……あなたたちは、ねこ聖杯に出るんだろう?」
「どうかな。出られそうではあるが」
「私はこのレースで多くのポイントを失ってしまった。
ねこ聖杯には出られそうにない」
「だったら、その次だ」
「え……?」
「ねこ竜杯で待ってる。上がってこいよ」
「っ……望むところだ!
次こそはあなたを成敗してみせる!」
熱を帯びた表情で、セイラは声を張った。
「その意気だ」
ヒナタは笑みで答えると、セイラから遠ざかっていった。
そして携帯を取り出すと、シャルロットの番号に電話をかけた。
……。
ねこ聖杯の出走登録期間になった。
当然にニャツキたちは、出走申請を行った。
そして出走ニャが発表される日を待った。
七月。
ある日の食堂。
アキコがいくつもの封筒を手にして、ニャツキたちの前に現れた。
「来てたわよ」
猫たちが封筒を受け取り、中身を確認していった。
「……ダメか」
サクラがそう言って、封筒をテーブルにほうった。
「残念でしたね。
俺様は……当然に出走ですね。
ねこ王ですから」
ニャツキは周囲に見えるように、出走通知をテーブルに置いた。
そして向かいのリリスを見た。
「……………………」
リリスは硬い顔で固まっていた。
最近の戦績は良い。
前回よりも手応えはある。
可能性を感じる。
だからこそ緊張し、動けなくなっているらしい。
「開けてやろうか」
「…………」
前回とは違い、リリスはヒナタに封筒を託した。
そしてネコミミをぺたんと畳み、ヒトミミを押さえてテーブルに伏せた。
ヒナタは封筒を開け、中の書類に目を通した。
「合格だ」
ヒナタがそう言うと、ニャツキの表情が明るくなった。
リリスは姿勢を低くしたままだ。
ちょっと耳をふさいだくらいでは、近くに居る人の声は聞こえるはずだが。
意識までをもヒナタから逸らし、逃避しているのかもしれない。
仕方なく、ヒナタはリリスの肩に手をかけた。
「おい。起きろよ。合格だぞ」