表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/172

2の43の1「ヒナタと剣」


「あっ……!」



 蔦らしきものが、ジョッキーに素早く絡みついた。



 蔦はジョッキーを持ち上げて、コース外に放り投げてしまった。



 コースアウト。落ニャ。つまり失格だ。



「えっ……」



 突然のことに、セイラは呆然とした。



 ジョッキーとその強化呪文を失ったことにより、彼女は減速した。



 後ろのニャ群に呑まれ、レースから脱落した。



(あの、何が……?)



 状況が見えていなかったリリスが、ヒナタに不安を向けた。



「心配するな。


 何も起こってないし、何も起こらねえよ。なあ、1番ニャン気」



 ヒナタは好戦的な笑みを浮かべ、後ろの猫に眼光を向けた。



 ……今回のレースでは、リリスは4番ニャン気。



 セイラは3番ニャン気で、ミストが2番ニャン気だった。



「…………」



 青緑色の猫、ツルマキ=ジュジュが、ヒナタの眼光を受け止めた。



「さあ来い。『ジョッキー殺し』」



(何だか不穏な言葉が!?)



(何でもねえっての)



 リリスの不安げな念を、ヒナタはさらりと流した。



 いま彼の集中力は、後方のジュジュへと注がれている。



 そしてジュジュの意識もまた、ヒナタへと向けられている。



 いまジュジュから意識を逸らすわけにはいかない。



 集中力の欠如は、即座に敗北へとつながる。



 ヒナタは背後から来るプレッシャーから、そう直感していた。



(『樹殺-じゅさつ-』)



 ジュジュが内心で、カース名を唱えた。



 彼女のそばの地面から、鋭く蔦が伸びた。



「風刃」



 ヒナタは超高速で呪文を唱えた。



 風の攻撃魔術が、迫る蔦を切断した。



 ジュジュがかすかな驚きを、その表情に宿した。



「ジョッキーが攻撃魔術を……。


 賢者の天職……?


 けど、攻撃魔術の燃費は、


 私のカースほど優秀ではないはず。


 お互いに技を撃ち続ければ、あなたが先に音を上げる」



「そうかもな。


 だったら、こんなのはどうだ?


 岩刀-ガント-」



 ヒナタは次の呪文を唱えた。



 ヒナタの手に、石の剣が出現した。



 不安定なはずの体勢で、ヒナタは揺るがずに剣を構えた。



 ヒナタから向けられた闘気に、ジュジュは冷静を返した。



「後衛職がふるう剣に、


 私のカースは防ぎきれない」



 ジョッキーは猫を援護するため、後衛職の加護を持っている。



 前衛職が得意とする接近戦は、ジョッキーの得意ではない。



 そのはずだが。



「試してみろよ」



 ヒナタは自信ありげに微笑んだ。



 S字カーブが終わると、前方に右100度のコーナーが見えた。



 それを曲がるとすぐ、左130度の急コーナーに入った。



 コーナーを走り抜けた一行は、最後の直線に入った。



 ジュジュが蔦を生み出し、ヒナタに攻撃をしかけた。



 二度、三度、四度。



 並のジョッキーでは対処できない、超音速の連撃。



 ヒナタの剣が、その全てを切り払った。



「…………!」



 研ぎ澄まされた攻めが、全ていなされた。



 これが後衛職がふるう剣か。



 ジュジュは明瞭な驚きの表情を浮かべた。



「これくらい出来なきゃ、


 オーストニャリアじゃ生き残れないぜ」



(これがSランクジョッキー。


 全てのジョッキーの頂点。


 常識が通用しない怪物。


 それなら……)



 ジュジュは強引に速度を上げた。



 彼女とヒナタの距離が縮まっていく。



(ジョッキーからの直接攻撃は禁止されている。


 距離を詰めれば


 一方的に攻められる私が有利なはず……!)



「この距離なら……!」



 私のカースに反応することはできないだろう。



 ジュジュはそう考え、ヒナタへの攻撃を再開しようとした。だが。



「悪いが、時間切れだ」



 ヒナタがそう言うのと同時。



「『華花絢爛-かかけんらん-』」



 リリスがカース名を唱えていた。



「っ……!?」



 リリスの周囲で、強化呪文の花々が輝いた。



 リリスが急激に加速した。



 ヒナタに伸びていた蔦が、目標に追いつけず空を切った。



「スパートの距離に入った。


 もうおまえじゃあ、俺たちには追いつけねえよ。じゃあな」



 みるみると、両者の距離が離れた。



 リリスが蔦の射程外に出た。



 ジュジュは追いかけようとするが、距離が縮まらない。



 走りの格が違う。



(速い……?


 違う。速すぎる。勝てない。


 このままじゃ……)



 走りや通常のカースでは、もうリリスには追いつけない。



 勝てない。負ける。



 そう悟ったジュジュが、ぼそりと呟いた。



「……開庭」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ