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「私は考えさせて欲しいと言ったんだ!
それでどうしたら断ったということになる!?」
「ニャホンだとさ、
前向きに検討させて欲しいとかいうのは、
お決まりの断り文句だろ……!?」
「私は帰国子女だ!
ニャホンのお決まりなど知るか!」
「そいつは……そいつは……
すいませんでしたああああああぁぁぁぁぁっ!」
言い訳のタネが尽きたのか。
ヒナタは毒針で刺されたような顔で、セイラへの謝罪を叫んだ。
何に付き合わされているのだろうかと、セイラのジョッキーが苦笑した。
「謝っても倒すぞ! 少しは気が晴れたがな!」
「……悪いが、返り討ちにするぞ」
たとえ私生活で非があっても、ここは真剣勝負の場だ。
ヒナタには、負けてやろうなどという気持ちは微塵もない。
彼は気持ちを研ぎ澄まし、貫くようにセイラを見た。
「っ……!」
ヒナタの眼光に押されたのか。
セイラはヒナタから目を逸らしてしまった。
次のカーブからは、しばらく難しい局面が続く。
ヒナタはセイラに最低限の意識を残し、コーナリングに集中した。
一行はヘアピンカーブを曲がり、左80度のコーナーを曲がった。
次に短い直線を走り、左90度のコーナーを曲がった。
次に左70度のコーナー。
その次に右90度のコーナー、続いて左85度のコーナー。
右100度のコーナーを曲がり右の急カーブを曲がると、長いS字カーブがあった。
緩やかで走りやすく、攻撃をしかけやすい地帯だ。
「天閃ッ!」
セイラがカース名を唱えた。
彼女のそばに、輝く球体が浮かび上がった。
ヒナタは即座にリリスに指示を送った。
二人は目を閉じて、閃光に備えた。
そのとき。
「はああっ!」
閃光と同時に、セイラがタックルをしかけてきた。
それを予測していたヒナタが、リリスに声をかけた。
(来るぞ! 耐えろよ! ニャカメグロ!)
(はいっ!)
力強いタックルが、リリスの体を揺るがした。
クラッシュしそうな衝撃に耐え、リリスはなんとか持ちこたえた。
耐えられるとは思っていなかったのか。
タックルに耐えたリリスに、セイラが感嘆の表情を向けた。
「強い猫だ。
だが、いつまで耐えられるかな!
天閃!」
一度でダメなら二度目をお見舞いするだけだ。
セイラはそう考え、さらにカースを発動した。
それを黙って見ているヒナタではない。
「満開!」
彼が呪文を唱えると、リリスの周囲を大量の花びらが舞った。
これらの花びらによって、セイラのカースを防ごうという狙いなのか。
「甘い!」
セイラのカースによって、周囲が輝きに包まれた。
すると……。
「ぐああああああぁぁぁぁぁっ!?」
花びらの奥から、男の悲鳴が聞こえてきた。
ヒナタの声で間違いはないだろう。
セイラのカースの直撃を受けてしまったのか。
「その程度の術では、
私のカースは防げない。
その様子だと、モロに食らったようだな。
……心配しなくて良い。
回復呪文を使えば、視力は回復する。
だいじょうぶだ。
だが、このレースは勝たせてもらう!」
セイラはタックルの前兆を見せた。
このまま花びらに突っ込み、リリスにタックルをしかけるようだ。
そのとき。
(行け。ニャカメグロ)
(はい!)
花びらの中から、リリスが飛び出した。
「っ!?」
逆にリリスのタックルが、セイラを打つ形になった。
「にょわっ!?」
リリスのフィジカルは、セイラに負けてはいなかった。
不意打ちを食らい、セイラの体が宙に浮いた。
とはいえ、致命的ではない。
すぐに体勢を立て直し、セイラはリリスを追った。
(絶妙なタックルだった。
猫ひとりでできるものとは思えない。これは……!?)
ヒナタがニヤリと振り返った。
「悪いな」
セイラに向けられた瞳には、はっきりとした力が宿っている。
とてもダメージを受けているようには見えなかった。
「あの悲鳴は……私を油断させるためのブラフか……!」
「そういうことだ」
「相変わらず、結婚詐欺師のような男だな! あなたは!」
「ただの駆け引きだろ。人聞きが悪いな。
何にせよ、俺たちの勝ちだ」
「まだ……!」
まだ負けてはいない。
セイラは闘志を燃え上がらせ、前に出ようとした。
そのとき。
「隙あり」
後ろから、何かがセイラのジョッキーに伸びた。




