2の30の1「リリスとDランクレース」
「マニャねえからの誘いはありましたよ。
ただ、なるべく自分の力でやりたかったので、
断らせてもらいました」
「なるほど。ご立派です。
今までの成績は入着ばかりで、
そのほとんどが優勝と、
目覚ましい活躍ぶりですね」
「猫に恵まれました。
とにかく乗っている猫が速いので、
自分自身はそこまでのジョッキーでもないと思っています。
もっと腕を磨いて、
猫にふさわしいジョッキーになれるよう、
がんばりたいと思っています」
「すばらしい向上心ですね。
それではあらためて、優勝おめでとうございます」
インタビュアーがそう締めくくると、周囲から拍手が送られた。
勝者の役目を終えると、二人は装鞍所に向かった。
そこで人姿のミストが、ニャツキを待っていた。
「ランキングどおりの結果になってしまいましたわね。
けど、次は負けませんから!」
「……はい」
ニャツキは弱く返事をした。
ミストはすぐにどこかへと去っていった。
ヒナタが口を開いた。
「オマエにしてはおとなしいな」
「はい? 何がですか?」
「ああいう宣戦布告には、
強気に言い返すもんだと思ってたが」
「俺様は……」
(彼女のカースは強力無比でした。
今回は俺様の勝利で終わりましたが、
次に戦うことになったら……)
どうすればミストのカースを討ち破れるのか。
ニャツキは答えを見出すことができなかった。
「……ヒニャタさん。
もしヒニャタさんに手綱を預けたら、
どうやってミストさんを攻略しますか?」
……もしヒナタが、答えを出すことができなかったら?
ニャツキの声音には、そんな恐れがこめられていた。
「ん? 今回みせただろ?
早めにねこタックルをしかけて、
落ニャかコースアウトさせる。
そうしたら、強力なカースも使いようがないからな」
「えぇ……?」
ニャツキは引いた声音を隠さなかった。
「なんだよ?」
「相手を蹴落として勝つなんて、
野蛮な格下がやる走りです。
宇宙最強の王者の走りではないですよ」
「今回のレース、ねこタックルで勝ったくせに」
レースの終盤、ニャツキはがむしゃらだった。
何をしてでも勝つ。
そんな気持ちが迸った結果が、あのねこタックルだった。
そして勝った。
だがそれは、ニャツキの理想からは大きく隔たっていた。
「あれは……一生の不覚です。
あんな勝ち方は、二度としたくはありません。
優雅さに欠けます」
「そうは言うがな、
相手のほうからカース攻撃をしかけてきてたんだ。
こっちだけマジメに走りますなんて、
バカらしい話だと思わねぇか?」
「ふつうの猫は、
カースをさばき続けていれば、
かってに自滅するものです」
「普通じゃない猫も居る」
「……けど、ねこタックルだなんて……。
もっとスマートな勝ち方はないのですか?」
「作戦ならあるが」
「本当ですか!?」
ニャツキの大きな瞳が、きらきらと輝いた。
彼女の勢いのある問いに、ヒナタは平坦ぎみに答えた。
「まあ、一応な」
「…………みゃふふ」
ニャツキは悪巧みでもしているような笑みを漏らした。
「ハヤテ?」
「ミストさん、人をさんざん脅かしておいて、
おそるるに足りないではないですか。
だというのに、身のほど知らずに雪辱予告とは。
何か言い返してやれば良かったです」
急に元気になったニャツキを見て、ヒナタは困惑した。
(何だコイツ? まあ、元気になったのなら良いが……)
そのとき。
「う……?」
急に痛みに襲われ、ヒナタは胸を押さえた。
「ヒニャタさん? 何か言いましたか?」
「いや……なんでもない」
……。
後日、地下の大型練習場。
いつもとは違うゴーグルで、リリスがコースを走っていた。
コースを一周はしり終えると、リリスが脚を止めた。
「良い感じだな? 相棒」
まあまあの走りができたリリスに、ヒナタが鞍上から声をかけた。
「相棒ではないですけど。
ここまでやったんですから、次は勝ちたいですね」
「ああ。勝とう」




