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すぐにミストが、ニャツキの隣に並んだ。
「わたくしの勝ちですわ!」
ミストが先頭に立った。
ニャツキは追いすがろうとしたが、魔力切れで脚が伸びない。
奇策でスピードを上げても、残ったスタミナに絶望的な差があった。
敗北の二文字が、ニャツキの脳裏をよぎった。
(負ける……?
俺様とヒニャタさんが……? どうして……?)
ニャツキにとって、ヒナタは最高のジョッキーだ。
ヒナタが敗因になるということは、ぜったいにありえない。
ならば……。
(……俺様のせい?
俺様のせいで…………ヒニャタさんが負ける…………?)
「ありえない」
自分はヒナタのベストパートニャーだ。
世界最高のジョッキーにふさわしい猫は、世界最強でなくてはならない。
頂点が合わさったとき、そこに敗北など生じるはずがない。
絶対に、ありえない。
盲信に満ちたニャツキの瞳で、闇が輝いた。
その直後。ぐんと。
ミストの脚が、何かに引っ張られた。
「っ!?」
突然の感覚に、ミストは混乱した。
転倒しそうになるのをこらえ、脚を引く何かを、なんとか振り払った。
そのときジョッキーが、大声で念を送ってきた。
(ミスト! 来るよ!)
「あっ……」
隣にニャツキの姿があった。
ニャツキはミストに迫った。
重いねこタックルが、ミストにぶちかまされた。
「ぐうっ……!」
不意を打たれ、ミストの体勢が大きく崩れた。
(スタミナ切れの状態で、
このレベルのねこタックルを……!?)
驚くミストに対し、ニャツキはさらに闘志を燃やした。
(負けない……。
俺様たちが負けるわけがない……!)
(なんというファイティングねこスピリット……!)
「うみゃあああああぁぁぁぁっ!」
再度、ニャツキのタックルがはなたれた。
「っ……あああっ……!」
ミストの体勢が、再び大きく崩れた。
……好機。
(殺す)
もはや余裕も美学も矜持もない。
自分とヒナタの勝利のため、隣を走る猫を踏み潰す。
ニャツキは殺意を漲らせて、とどめの体当たりをしかけようとした。
そのとき。
(やめろハヤテ)
「にゃ……?」
ヒナタの念話と、強い操猫命令が手綱を伝わった。
ヒナタの声を聞いたことで、ニャツキの殺意は霧散してしまった。
(っ……しまった……!)
ニャツキはハッとなり焦った。
隣でミストが体勢を立て直すのが見えた。
強敵をしとめる千載一遇の機会が、失われてしまった。
ニャツキはそう思ったのだが……。
「終わった」
「えっ?」
「もうゴールしたんだ。俺たちは」
そう言われ、ニャツキは振り返った。
後方に、小さくゴール板が見えた。
「あっ……」
それからニャツキは、巨大モニターのほうを見た。
そこにレースの結果が表示されていった。
1位のところに、ニャツキの名前が見えた。
「勝った……?」
「ああ。手でも振ってやろうぜ」
「みゃ」
ニャツキは上半身を持ち上げると、観客席に軽く前足を振った。
……。
それからニャツキたちは、ウィニャーズサークルに向かった。
Aランクレースの勝者として、インタビューを受けるためだ。
インタビュアーのマイクが、ニャツキへと向けられた。
「地方スタートからの、
無敗のAランクレース優勝。
それもネクストマニャのいっかくと言われる
テンジョウイン=ミストさんを下しての大金星。
おめでとうございます。
ぜひ快進撃の秘訣を教えてください」
「ウェイトトレーニングです」
ニャツキが堂々と言うと、インタビュアーが固まった。
「……はい?」
「超天才トレーニャー、
ミカガミ=ナツキが考案した
魔導ウェイトによる高負荷トレーニングによって、
俺様は速くなることができたのです」
「あはは。なかなかユーモラスな新人さんですね」
ニャツキは真剣だったが、冗談として流されてしまったらしい。
インタビュアーは、むっとするニャツキからマイクを逸らした。
そして鞍上のヒナタへとマイクを向けた。
「それでは次は、
ジョッキーのキタカゼ=ヒナタさんにお話をうかがいましょう。
キタカゼさんは、
なんとあの、キタカゼ=マニャさんの弟ということですが、
フリーのジョッキーとして活躍されているらしいですね。
ホテルヨコヤマのジョッキーになるという話は
なかったのでしょうか?」




