表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

105/172

2の28の2


「あら。スタミナ切れですの?」



 やっとニャツキに追いつけたことで、ミストは笑みを浮かべた。



「おまえの自慢のカースは、


 前のほうにしか撃てないんじゃないかと思ってな」



「残念ですわね」



 その言葉と共に、ミストは頭上にヤドリギを出現させた。



 枝は回転し、先端が側面を向いた。



 すなわち、ニャツキの方向へと。



「わたくしのカースは完全無欠。


 側面にも後方にも対応できますわ」



「ヒニャタさん!?」



 ヒナタの作戦が外れたというのか。



 ニャツキは不安の声を上げた。



 一方ヒナタは、ニヤリと悪ぶった笑みを浮かべた。



「そいつは困った……なァ!」



 ヒナタは素早く操猫命令を下した。



「にゃっ!?」



 ニャツキの屈強な体が、ミストにぶち当たった。



 ミストはふらついたが、なんとか体勢を立て直した。



「耐えたか。


 1年足らずでAランクねこになるだけのことはある」



 ニャツキのねこタックルは、格下を一撃でコースアウトにする力がある。



 それに耐えたということは、ミストもひとかどの才能ということだろう。



 ヒナタは素直な賞賛の表情を浮かべた。



「乱暴な殿方ですわね……!?」



 ミストに睨まれると、ヒナタは表情を、戦闘用のモノに切り替えた。



「カースで撃ちまくってくるやつが、


 ねこタックルに文句つけてんじゃねえよ」



「優雅さに欠けますわ!」



「一方的に相手を撃つのは優雅なのかよ!」



「狐狩りは貴人のたしなみですわ!


 野蛮なタックルと一緒にしないでください!」



「ああそう! もっと荒っぽくしてやるよ!」



 ニャツキはミストに、さらなるタックルを仕掛けた。



「っ……!」



 さきほどのねこタックルの重さを、ミストは思い起こした。



 あれを何発も食らえば、立っていられる保証はない。



 ミストはたまらず後ろに下がった。



 そして後続の猫の影に隠れた。



(逃げたか。追うぞ)



(追ってどうするつもりですか!?)



(クラッシュさせるに決まってるだろ)



(そこまでしなくても良いでしょう!?)



 ヒナタの作戦は、ニャツキには過激なものに聞こえたようだ。



 ヒナタとニャツキでは、モノの見え方が違う。



 テンジョウイン=ミストをここで潰す。



 潰さなくてはならない。



 それがレースに勝つための最適解だ。



 ヒナタのジョッキーとしての嗅覚は、強く強くそう告げていた。



 ニャツキに信頼されているという自信があれば、ヒナタは作戦を続行しただろう。



 だが実際はそうではないし、これはニャツキのレースだ。



 そう考えたヒナタは、ニャツキに戦術の手綱を返した。



(そうか。それじゃあ今のうちに逃げるぞ)



(はい!)



 ヒナタの心中など知らず、ニャツキは軽やかに加速した。



 S字カーブの先のヘアピンカーブを曲がり、ニャツキは直線に出た。



 トップのニャツキと2位以降の距離が、どんどんと離れていく。



「もうちょっと優雅に解決できなかったのですか?」



 走りでの勝負を好むニャツキは、さきほどの作戦に不満を漏らした。



「もうちょっと縦スクロールシューティングで遊ぶか?」



 ヒナタは操猫命令を送り、ニャツキを下げようとした。



「それはちょっと」



 ニャツキは操猫を拒否した。



 それを見て、ヒナタは手綱に魔力を通すのを止めた。



 ヒナタの出番は終わり、全ての選択権はニャツキへと戻った。



 一応のジョッキーの仕事として、ヒナタは後ろへと振り返った。



(これだけ距離ができれば、


 カースでの狙撃は難しいはずだが……)



「ん……?」



「どうしました?」



「猫の悲鳴が聞こえたような」



「……テンジョウインさんは、


 挽回の一手を打ってくると思いますか?」



「さてな。


 この状況で打てる手は、限られてるはずだが」



「そうですね」



 左30度のコーナーの先に、左50度のコーナーが見えた。




 ……。




 一方、後方のニャ群。



(このわたくしが……フィジカルで手も足も出ないなんて……。


 認めなくてはなりませんわね。


 ハヤテ=ニャツキさんはいくつかの点において、


 わたくしよりも優れた競争ニャであると。


 ですが……勝つのはわたくしです……!)



 ニャツキに差を見せつけられても、ミストが折れることはなかった。



 むしろ闘志を漲らせて、彼女はカースを発動させた。



「みゃぁ!?」



 ヤドリギを受け、猫が悲鳴を上げた。



 その一撃だけでは済まない。



 さらなるヤドリギが、別の猫に突き刺さった。



 休まずに、ミストはカースを発動させた。



 そうして周囲の猫たちを、次々に餌食にしていった。



 やがて10頭の猫に、ヤドリギが植えつけられた形になった。



(これで10本。頃合ですわね。


 我がカースの深遠を、お見せいたしますわ)




「開庭! 『常世枯らし-とこよがらし-』!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ