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(……すいません。


 指示に戸惑ってしまって……)



(レース中に止まれって言われたら驚くか。


 ……まあ良いさ)



(怒らないんですか?)



(まさか。これからだろ。俺たちは。さあ、行くぞ)



 劣勢だというのに、ヒナタは負の感情を見せなかった。



 リリスが操猫に従わないのは、自分が信頼を損なってきたせいだ。



 そういう気持ちがあるので、無駄にリリスを責めようとは思わない。



 そして何より、彼はまだ勝ち筋があると信じていた。



(……はい)



 真剣な顔つきになり、リリスは加速した。



(コースは残り少ない。追いつければ良いけど……)



 距離を取られたことで、ウミャハラからの攻撃はなくなった。



 リリスは走りに全てを集中した。



 前を見る必要すらない。



 ただヒナタを信じて走った。



 直線を駆け、右80度のコーナーを曲がった。



 その先の短い直線が終わると、左のヘアピンカープがあった。



 カーブを曲がるとすぐ、右70度のコーナーに入った。



 そして短い直線が終わると、コースの締めである大カーブに入った。



「追いつきました……!」



 カーブを駆けるリリスは、すぐ前方に、ウミャハラたちの姿を捉えた。



「にゃぁぁぁぁぁ……」



 悲しそうな猫がまた一人、渦に飲まれて消えていく。



 リリスはそれを障害物程度に判断し、追い抜いていった。



 ウミャハラの視界に、リリスの姿が現れた。



「追いついてきた……!?」



 あれほどのロスがあったのに、もう追いついてきたのか。



 ウミャハラは驚きながら、リリスにカース攻撃をしかけた。



 リリスは渦を飛び越えた。



 ウミャハラはまた、即座に次の渦を出現させた。



 手札はもう割れている。



 今回のリリスは、着地の体勢を考えて跳躍を行っていた。



 着地してすぐに次の跳躍を行えるように。



 体勢さえ整っていれば、あの程度の渦は恐ろしいものではない。



 リリスは涼やかに、二つ目の渦を飛び越えた。



 さらに三つ目の渦。



 これも読んでいた。



 先ほどと同様に、リリスは跳躍を終えた。



 そして敵のカースが途切れるなり加速した。



「くうっ……」



 ウミャハラが、苦しそうな顔を見せた。



 彼女の走りが減速した。



(魔力切れだな)



 ウミャハラが弱っているサインを、ヒナタは見逃さなかった。



 彼はリリスをさらに加速させた。



 リリスはウミャハラと並び、そして追い抜いた。



 もうすぐ大カーブが終わる。



 最後の直線は短い。



 ゴールが近い。



「行かせない……!」



(今までより大きな渦を……!)



 ウミャハラは力を振り絞り、大渦を生み出そうとした。



 ヒナタは強くこう念じた。



(突っ切れ!)



(『華花絢爛-かかけんらん-』)



 ヒナタの念に応じ、リリスがカースを発動させた。



 周囲を舞っていた花びらが、強く輝いた。



 リリスの走りが次元を上げた。



 大渦は大技である分、発生が僅かに重かった。



 さらにウミャハラの疲労が、技のキレを衰えさせていた。



 渦が広がりきる前に、リリスはその攻撃範囲を走り抜けた。



「速い……!」



 大渦を、全てを置き去りにして、そのままリリスはゴールを抜けた。



「Eランクにこんな猫が残ってたなんて……」



 大技によって力尽きたウミャハラを、他の猫が追い抜いていった。



 それから少し遅れて、ウミャハラは4着でゴールを抜けた。



「あっ……あれっ……?」



 レースを終えたリリスは、挙動不審に周囲を見回した。



「どうした?」



「ひょっとして、1位ですか? 私」



 集中したせいか、レース終盤のリリスには、順位が眼中になかったらしい。



 戸惑うリリスを見たヒナタが、慈しむようにこう言った。



「ひょっとしなくてもそうだよ」



「1位!」



「ああ」



「やった! やりましたね! キタカゼ=ヒナタ!」



 リリスがテンションを上げると、ヒナタも嬉しそうに声の調子を上げた。



「やったな」



「はい! ……って、


 ちょっと良い仕事をしたくらいで、


 調子に乗らないでくださいよ。


 これからもビシビシ厳しく採点させていただきますからね」



「ああ。望むところだ。


 それで? 今日の俺の得点は?」



「それは……まぁまぁ点です」



「なるほど。手厳しいな」



 勝者はうきうきとした足取りで、コースから去っていった。



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