少女の敗北
懲りずにヤンデレ系です。
よろしくお願いします。もう一つの『依存少女』は四話分の下書きが吹っ飛んだ為、モチベーションが行方不明になりました。続きを書く気はあるので、長い目で見てください。
「うわぁぁぁあ!!!」
砕ける、砕ける、砕ける。
ガラスが、トロフィーが、心が。
やり場のない怒りをひたすらにぶつける。爪が折れた手やガラスを踏んだ脚からは血が出ていたが、それよりも燃えるような怒りが頭を支配していた。
今日、私はあるゲームで負けた。
たかがゲーム、されどゲーム。
けれど、今の私にとっては全てだ。
「・・・録画見なきゃ」
部屋がめちゃくちゃになった代わりに、心はある程度整理された。
画面がバキバキに割れたスマホを操作する。
私にそのゲームを教えてくれた人は、負けた試合も勝った試合も一回以上は見直すようにと言った。
彼曰く、
「敗北にも勝利にも理由がある。知っておけば色々と得だよ。例えば、運で負けたような勝負をいつまでも引きずるのは、精神的にも良くないだろ?」
らしい。
まあ、私はどんな勝負でも負ければ一週間は最低な気分になるけど。
「チッ、反応悪いなぁ」
ボロボロのスマホに苦戦しながらも何とか操作を終えると、私がボロボロにした壁を隠すようにスクリーンが降ろされる。
そして、私の試合映像が映された。
「・・・最悪」
見れば見るほど、酷い試合だ。
考えず、惰性で動いてる部分が多いし、攻め方がワンパターンだからカウンターを食らう。
「ただいま・・・って、またか」
気がつくと、家主が帰ってきていた。
夜羽ユウ、私の保護者。
男のくせに腰まで黒髪を伸ばした、女顔の少年。
そいつは、私にボロボロにされた部屋を気にも留めず救急箱を持って近づいてくる。
「ああ、もう。試合見ながら傷口を抉らないで・・・取り敢えず、応急処置するから手見せて」
「・・・やめて」
「早くしないと化膿するから」
「やめてって言ってるじゃん!」
伸ばしてきたユウの手を振り払う。
ああ、ムカつく。負けた時は優しくして欲しくない、惨めな気分になるから。
特に、この男だけにはそうして欲しくなかった。
「保護者ぶらないでよ・・・社会不適合者だよ?私も、貴方も」
「・・・サナ」
「やろうよ、早く」
私が『ユナイト』を見せると、諦めたようにユウも小さな板状のそれを取り出す。
「リンク」
『ユナイト』の基本コマンドが起動する。
私の身体が電子へと変化していき、『ユナイト』を通じてもう一つの世界へと別の形になってコンバートされる。
白で埋め尽くされた視界が戻った時、そこは薄暗いマンションの一室では無く、一面のすすきの穂と夜月の美しい幻想的なフィールドだった。
「行くよ」
目の前には黒衣の侍、そして、私の手には二本の剣がある。
ここは電子の世界、私を虜にした、私にとってのもう一つの現実。
「ハァ!」
そして、侍の刀と私の剣が仮想の火花を散らした。