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アロマンティスト×ギャル 7


 弘原海(わだつみ)の助言を受けて、龍成は三野宮(さんのみや)と話をすることを決めた。女の子は、恋愛においては何をしでかすか分からない。その恐怖心が龍成を突き動かした。


 話のネタはある。長谷場(はせば)が茜に告白したという噂だ。先輩から告白された幼馴染のことが心配だという体裁で、サッカー部マネージャーの三野宮に、サッカー部キャプテンである長谷場がどんな先輩なのか、あわよくばどう思っているのかを聞けばいいのだ。


 完璧な計画だった。今日の僕は冴えているな足高龍成(あだかりゅうせい)


 そうして翌日の休み時間。三野宮のいるクラスへと龍成は顔を出し、



「は? 誰?」



 まるで汚物でも見るかのような目で、当の三野宮にガンを付けられた。


「こいつアレじゃない? 椿姫(つばき)のこと好きなんじゃない?」


「はー鏡見て出直せって。役不足って言葉しってるー?」


 三野宮の取り巻きからの口撃。この場合は役不足ではなく役者不足では?と龍成は頭の中では思うものの、賢明なことに口に出すことは無かった。


 そして三野宮からは、


「は? そーゆーのマジ迷惑なんだけど。出てってくんない? マジで」


 おかしい。これが本当にあの三野宮なのだろうか。龍成の初めて(初告白)を奪った時の顔を真っ赤にした実にかわいらしい三野宮はどこに行ったのだろうか。もしかして別の学校の双子の姉妹と入れ替わっていたりする?


「ぎゃはは! 振られちゃったね~。ほら帰れ帰れ」


「次来るときはイケメンに生まれ変わって出直してこ~い」



 かーえーれ、かーえーれ



 女性恐怖症になりそうな言葉を投げられる。取り巻きたちによる帰れコール。そして龍成は、教室から締め出された。


「えぇぇ~~~?」


 女は怖いと弘原海は言った。いや、確かに物凄く怖かったけどさ。怖さのベクトルが違わない?


 話、違わない?


   ●


 その日も、その翌日も、土日を挟んで月曜になっても、龍成は三野宮への接触を試み、その全てを拒否された。


 これはもう触らない方が良いのではないか。流石に龍成はそう考え始め、今日はもう帰るかと昇降口へと向かう。


 茜の無言の抗議は相変わらず続いているが、その視線の質が段々と、「アンタ三野宮に何やってんだ」というものに変わってきたように龍成は思う。


 あれから新たな恋愛相談室は開催されておらず、今日も呼び出しは無かったので、このまま帰っていいだろう。宿直室に顔を出せば、かえでが官能小説でも読みながら時間を潰しているのだろうが。そう思いながら靴箱を開け、



 ラブレター。



 息が漏れる。このタイミングで来るのは完全な想定外だった。正直勘弁してほしい。さっさと顔を出してさっさと断ってさっさと帰ろう。そう思って何の警戒も無しに、周りに人がいるにも関わらず、龍成はその場でラブレターを開封する。



 今日の放課後、人がいなくなったら私の教室に来い 三野宮



 ラブレターではない、と龍成は思う。これは、そう、どちらかというと、果たし状のような……。


 どちらにせよ、予定は変更になった。ローファーに履き替え校舎を出る。向かう先は図書館の、その裏にある隠れ家へ。一人の少女が官能小説を読んでいるであろう宿直室へ。人が来ないことをいいことに変なことをしてないといいなぁと思いながら。龍成はそこで時間を潰そうと、そう思った。


   ●


 遠き山に日が落ちる。


 人気のない校舎だと、ここまでチャイムの音は反響するのか。そう思いながら廊下を歩く。


 三野宮が所属する教室、そのドアは閉められていた。人がまだ残っているのかは分からない。少なくとも、話声は全く聞こえなかった。


 扉を開ける。


 教室の中には、三野宮が一人だけ残っていた。


 その状況に、龍成は少しだけ安堵する。取り巻きと一緒に複数人からの暴行、あるいは三野宮の名前を騙った取り巻きたちによる独断。そのどちらの可能性も無くなったからだ。


「チッ。遅い。ウチを待たせるとかいい度胸してんじゃん」


「それはごめん。でもいつまで待てば人がいなくなるか、分からなかったから、さっ!?」


 言い訳の途中、三野宮がツカツカと近づいてきて、龍成は胸ぐらを掴まれた。


「んで何? 何度もしつこく話しかけてきて。ウチを脅そうっての? んなことしたって本気に取られる訳ないでしょ。大体アンタのことなんて本当はなんとも思ってないんだし」


「違う違うなんのこと!? 僕はちょっと聞きたいことがあっただけで」



「―――アンタ、何してんの?」



 久しぶりに、その声を聞いたと龍成は思う。


 開け放たれたままの教室のドア。何故かそこに茜が立っている。



 龍成は思う。これ、絶対に厄介なことになるに違いない、と。



 茜が教室の中に入ってくる。龍成の胸ぐらを掴む三野宮の腕を握り、龍成から引き剥がし、


「何してんのかって聞いてんのよ。髪脱色するついでに脳みそも抜けた?」


「あぁ? んだテメェ、関係ないやつはすっこんでろよ」


「ならすっこまなくていいわね。こっちはそのか・ん・け・い・しゃ・な・ん・だ・か・ら!」


 まるでぶっちゅりキスでもしてそうな超至近距離でにらみ合う。


 龍成は慌てるしかない。なんでこの二人いきなり喧嘩になってんの。とにかく止めるしかない。どちらかが先に手を出せば、それはもう宣戦布告無しの終末戦争勃発だ。身体を張ってでも防がなければ。


「ちょ、待って。二人とも落ち着いて、ねぇ!?」



「「アンタは黙ってろ!!!」」



 ええぇ~~~……。


「前々からテメェのことは気に入らないと思ってたんだ!」


「上等よ私だってアンタのことは気に入ってないわよ!!」


 そして、


「「勝負だ!!!」」


 二人が同時に教室から出ていった。龍成は誰もいなくなった教室を見渡し、二人が出ていった開けっ放しのドアを見て、どういうことなのと考えていると、


「オイ何やってんだとっとと来い!」


「リュウがいないと話になんないでしょ!」


 そのドアから再び二人が顔を見せ、龍成をせっついた。



 実は仲いいんじゃないの、君たち?



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