序章
風に揺られた枝葉が、ざあ、と音を立てた。
自然豊かな丘に作られた公園には、他にも親子連れで遊んでいる様子が見受けられ、時折甲高い歓声も聞こえる。
そんな中、大樹の根元に腰掛けた1人の男の子が、父親に何やらねだっていた。
「おとーさん、これよんで!」
「ん?またこの絵本か?」
幼い息子がリュックサックから取り出したのは、お気に入りの絵本だった。
何度も読み返したのだろうか、汚れこそないが、ページが若干よれている。
「折角外に遊びに来たのに、いいのか?」
「いーの!そとでよむのも、きぶんかんてんになるから」
「かんて…ああ、気分転換な」
膝を陣取った我が子の言い間違いにクスリと笑いつつ、絵本の表紙を捲る。
最初のページには、子供向けにデフォルメされているが、王冠を頭に抱いた灰色のドラゴンのイラストが描かれていた。
むかしのこと
とあるまちに、まりょくをもたないドラゴンのすがたをした
ちいさなせいれいがいました
ちからもよわく、こわがりのちいさなせいれい
けれど、かれにはすてきななかまがたくさんいました
たくさんのこんなんをのりこえ、やがてかれはれいれいのおうさまとなりました
「よわくてちいさいのに、おうさまになれたんだよね!すごい!」
「っはは!そうだな…本当に凄い奴だよ」
「これ、ほんとうにあったはなしなんでしょう?ぼくも、せいれいのおうさまにあってみたい!」
「俺も会いたいなぁ…元気にしてるといいけど」
「ん?」
「何でもないよ。そら、続き読むから大人しく座ってな」
「はぁい」
ーーこれは、精霊と人が共存する、現実とは少しだけ異なる道を歩んだ世界で、何の力も無い灰色の精霊と、そのパートナーとなった少年が紡いだ、唯一無二の物語である。