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越前の形見  作者: 麻呂
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永禄の約束

 庭の根雪を片目に見つつ、一乗谷館の主は晴れやかな顔で歩みを進めていた。

――春を前に良い駒が届いたわ

 桶狭間の合戦から丁度5年後の永禄8年5月19日、京では三好家と足利将軍家の際どい政治バランスが遂に崩れ、三好義重(後に義継に改名)が三人衆と呼ばれる三好長逸、三好政康、岩成友通らと共に二条御所を攻め、白昼堂々将軍を殺すというクーデター(永禄の変)が発生していた。

 20日には若狭の武田義統から越前に書状が届き、朝倉義景は義輝の死をクーデター翌日に知ることとなる。

――いずれは東も抑えられようか

 越前の西は若狭武田家であるが、当主武田義統は父を追放したものの国内統制を上手くできておらず、逸見氏・粟屋氏の反乱を鎮められずにいた。義景はこの鎮圧に力を貸し、若狭に対する影響力を強めていたのである。

 義統は殺された義輝の妹を妻にしていたため、足利将軍家との縁が深く、京の情報も早く届く。この政変情報も即座に義景に送ることで、朝倉家の信頼を失わぬよう心掛けていたのであろう。



左衛門督さえもんのかみ殿の屋敷は、見事よの」

 興奮を隠しきれない表情の若い僧が、南北に細長い庭池を見ながら周囲に言う。雪の中とは言え滝による流水の御陰か、その池の壮大さは素人目にも分かる。ましてや彼が過ごしていた興福寺一条院は名刹であり、建築に関する目は人並み以上のものであった。

 僧の名は覚慶。先に述べた政変に巻き込まれ、興福寺に幽閉されていた足利義輝の弟である。三好一党の思惑のまま進めば命は無かったであろうが、朝倉家の支援を受けた旧幕臣らにより助け出され、この頃は近江に身を移していたのである。

「こうして身があるのも、全て左衛門督殿の御陰よの」

 自身の背後に強大な朝倉家がいることに改めて安堵しつつ、覚慶は案内されるままに館の奥に向かった。

 通された部屋も書院造の見事なものであり、非公式会談とは言え義景の過分な配慮が隅々に見受けられる。

――この朝倉家が居るのなれば

 覚慶の期待は否が応にも広がった。



「管領代殿」

 と、覚慶は呼ぶ。まだ候補の一人であり、将軍では無い彼が勝手に叙任できる訳ではないが、義景はその実力から「管領代」と呼ばれており、覚慶としては幕臣たる立場を理解してもらおうと必死だったのであろう。

 ところが当の義景はこの悲運の僧を利用し、将来の保険を掛けたつもりであった。やがて近畿に攻め入る際の大義名分にもなり、また、一向一揆鎮圧後の重し程度に考えていたのである。速やかな対応を求めている覚慶と、将来の「実」を求めていた義景の釦は、最初から微妙に掛け違っていたのかもしれない。

「シテ、都入りは」

「覚慶殿もご存知の通り、一向宗が、な」

 北陸における一向一揆の手強さは有名な話である。この一向一揆が収まらない限り、北陸を治める者は他所に進軍するのは困難であった。

「されば、いつ頃」

 失礼な問いであろう。非公式とは言え会談の場を設けてくれた命の恩人に、次は自分の為に何時兵を出してくれるのかと。だが、残念なことに彼はそのような「常識」を教えられておらず、他者を気にするような生まれでは無かったのである。

「…まだ数年は掛かりましょうな」

 義景はそう言うと、背後に控える双方の近習に合図し、会談が終わったことを伝えた。

――公にせず、吉であったか

 この若い将軍候補者は、現実を知らなすぎる。既に各地の大名に書状を送っているようだが、京周辺の勢力を見れば、この朝倉家以外に後ろ盾となる大名は居ないのである。その朝倉家に対しては下人のように振る舞い、その不興を買わぬようにするのが生きる道であろうに、これは焦りか若さか、それとも地か。

――いずれにせよ

 遠からず覚慶は越前に来るであろう。京の状況次第では将軍にさせず「前将軍の弟」として飼い殺しても良い。

 義景の構想は朝倉家として至極当然なものであったが、彼が助けた若僧は、彼の想像を遥かに超える行動力で朝倉家の外交を狂わせていく。




 永禄10年、還俗し足利義秋と名乗った覚慶らの仲介により、朝倉氏と本願寺の間に和議が結ばれる。

 その証として、義景の娘三位殿が、本願寺顕如の長男教如に嫁ぐことが約された。

戦国の資料不足の人々に惹かれてしまい、また筆を取ってしまいました。

三位殿は極端に言えば「義景の娘」「教如の最初の妻」くらいしかハッキリしませんが、ただその壮絶な生涯に惹かれてしまったまでです。

長く書ける様な内容ではないので、短い連載になろうかと思います。


興味のある方、少しでもお付き合い頂ければ幸いです。

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