余談: 電子書籍化作家は売れるのか?
2017年の6月20日に『人類は滅びますが、電子の世界で生きていきます』(マイナビ出版/楽ノベ文庫)で電子書籍にはなりますが作家デビューいたしました。
ほぼ半年が経過し、電子書籍という媒体が作家にとってどういう存在なのか……という事について感じる事がありましたので、軽くレポートしてみたいと思います。
まず声を大にして言いたいのは、「売れません」
作品の内容が悪いんだ……という心の囁き声が聞こえてきそうなのですが、こちらも商業作家としてデビューするという機会をいただいた以上、編集部にご迷惑をおかけしながらも改稿に改稿を重ねて作り上げた作品ですので、問題の無いクオリティに仕上がっているとは自負をしております。
ですが、「売れません」
原因は簡単な話なのです。
書籍は毎日数多く出版されます。
皆さんは書店などで新しい本に出会う時、どういった行動を取りますか?
書店に並んでいるのに気がついた、興味のあるタイトルだった、表紙が好みだった、あらすじを読んだら興味を持った、パラパラと中身を見て買うことを決意した……
だいたいこんな所じゃないでしょうか?
ところが電子書籍は、この最初の入り口で躓きます。
「書店に並んでいるのに気がついた」……電子書籍では、まず気がついてもらえません。並んでいませんから。もし死ぬほどお暇でしたら、私の作品を電子書籍ストアで検索をせずに探してみて下さい。半年前の作品であっても、相当時間がかかるはずです。
紙書籍では書店に並ぶというだけでも広告宣伝効果があります。
書店の新刊コーナーに並んでいる本を上から下まで一通り流して見る人って結構いるんじゃないでしょうか? そうすれば気がつく人が書店の顧客の10%がいて、そのうちの1%が購入してくれたら……書店に並ぶだけで1000人に1人の読者が購入すれば、紙の本は電子書籍と比較すればそれなりに売れていきます(利益率とはまた別の話)
これが平積みの本であれば、読者の購買意欲を刺激し、確率が上がります。
採算を度外視して販売数だけ考えれば、1万部を刷るより100万部刷れば、露出が増え売れていきます。
紙書籍は、それ自体が広告媒体として作用するのです。
一方、電子書籍は販売と同時に新刊リストに載ります。ストアによって期間は違いますが、この新刊リストに載る期間だけはポツポツと売れます。本当に短い期間ですが……
しかし、新刊リストから外れ、いわゆるロングテイルの商品群に埋もれた後は黙ってみていては全く売れない状況が待っています。
そもそも、検索性の高い電子書籍ストアで本を探す人は、目当ての本があって訪れている事が多いでしょう。このため新刊コーナーを眺めて目当ての本を探すよりも、タイトルを入れて即時ゲットをするような行動が想定できます。サジェスト機能などで、より検索性を高めているのも読者の動きを考えたら当たり前の話なのです。
ですので電子書籍の場合、無名の作家が書いた作品が新刊リストに載っただけでは購買意欲を刺激する事は少なく、売れるとしてもポツポツ……というのが限界になります(1日に5冊も売れれば、もの凄いラッキー)
電子書籍だけで売っていくのは難しいというのは、出版いただく事に決まった時から覚悟はしておりましたが、それでも想像以上に苦戦しました。
そこで戦略を練り自費で広告を出してみる事にしました。
Twitterの広告に載せました(2回)
その後、ライトノベルニュースオンライン様に広告記事を掲載いただきました(10日間)
現在は12月から始まったTwitterのオートプロモートと、Facebookに広告を出稿しております。
さて、広告を出せば売れるのか? ……ですが、効果がゼロではありませんが、費用対効果で考えた場合は無駄遣いというレベルにしかなりませんでした。実売数の報告をまだ受領していませんが、トータルで10万近く使った自費広告の結果、売上げで1万にも達していないレベルでしか効果がなかったと感じております。印税収入で考えたら笑うしか無いですね。ほぼ捨て金になりました。
これは広告媒体が悪いわけでなく、そもそも販売まで到る確率が1~2%くらいの中、10万程度の広告では大きな効果が見込めないというだけの話になります(極端な話、100万くらいかけて動画広告を作成し100万くらいかけて広告を打てば、相当数の売上げは間違い無く見込めます。大赤字でしょうけどね)
インターネットユーザーの好みは年々、分化していますので読者層を考えターゲットを絞り込んだ効果的な宣伝活動をしない限り、電子書籍だけで販売数を伸ばすのは難しいという事なのでしょう。でも、自分の作品のファンになってくれる人がどこにいるか知っていれば、そもそもこんな苦労はしていないですよね。IT業界に従事しているという職業柄、半分勉強を兼ねた広告投資という面もあって行った活動でしたので捨て金になった事を後悔はしていませんが、これでも同時期にデビューした中では掛けたコストの分マシなようです(50歩100歩の世界ですが)
Web小説や電子書籍を中心に読書されている方(実は私も電子書籍読み)にとっては実感は無いかもしれませんが、やはりまだしばらくは紙書籍が流通の主役であり、電子書籍はあくまでそれを補完する媒体でしかなく、市場が大きくなっているといってもコミックや雑誌が売上げの主流だという事が数字的にも現れてしまっている以上、2017年末の現在時点では標題の「電子書籍化作家は売れるのか?」の答えは、「涙がちょちょ切れるくらい売れない」という結論に到っています。
ちなみに宣伝効果として最大だったのは、作品名が入った名刺を作成し、それを直接知り合いなどに配るというアナログなものでした。
無名作家の作品を購入するというのは「知らないけど気になったので買う」という軽い気持ちが必要ですので、その動機付けを誘導しない限り販売数は伸びない……という事なんでしょうね。
という事で、買って下さいm(_ _)m
(2020年9月5日)
『人類は滅びますが、電子の世界で生きていきます』ですが、上述の通り売れ行きが悪く、今後も出版社が広告を打つということも無いということも理解しているため、2020年6月20日をもって出版契約を合意解除し、各電子書籍ストアからは取下げさせていただきました。
どこかでもう一度チャンスがあるといいのですが……




