~過去~3年前の能学
これからするのは少し前の話。
私と雄介の過去…
そこには忘れてはならない1人の存在が有った。
3年前、あの交通事故の次の日
「おまえも意地っ張りだよなー」
私は雄介に昨日起きた交通事故の話をしていた。
そう言われるのはわかっていた。
自分でもそう思っていた。 だってあんな現場を見て、未来を変えなかったことを全く後悔しない…
そんなの有るわけない。
でも、それでも私は意地でも、死んでしまった男の子の助ける気は無かった。
それが予知能力保持者としての私の結論だった。
なんでだろう…
なぜ私はそこまで…
自分でもふと、疑問に思うことがある。
「にしても…」
雄介が窓から校庭を眺めながら、そう言いかける。
重たいような寂しいような、でも喜びの感情が全くないわけではない複雑な感情が放つ空気…
雄介がそんな空気を出す理由は、何となくわかっている。
「想像してなかった?」
私は雄介に優しくそう聞いた。
自分がこんな優しい声を出せることに少し驚いた。
「わっかんねぇ」
雄介は頭を掻きながら呟くように答えて、それ以上文章を繋げることは無かった。
校内・校庭から飛び交う声に私たちは静かに耳を傾けた…
「そっちの看板曲がってるー!」
「先輩、これはどこに置けばいいですか?」
「なあ、ステージ発表の順番ってどうなってんだ?」
この当時の能学は盛り上がっていた。
公開文化祭を控えていたからだ。
それまでも文化祭は有ったが、一般に公開されることは無く、内々で行ってきた。
そういった理由も含めて、この盛り上がりを見せるまで長い時間がかかった。
しかも、全校生徒のほとんどが一丸となって文化祭の準備をしている。
グループの垣根を越えて…
それがどんなにすごいことか…
能学は長いこと荒れていた。
能学には心に傷を負った生徒がたくさんいる。
化け物扱いで
親に捨てられた子
虐待された子
近所の子やクラスメイトに避けられた子
いじめられた子
同じような悩みを抱えた子たちがここにはたくさんいる
でも、考え方まで一緒なわけではない。
過去を乗り越えて
中には忘れたことにして
能力者が社会で生きていけるように活動する子たち
過去を忘れられず、自分を傷つけてきた人たちを恨む子たち
誰も信じられず、何もない静かな日々を過ごしたいと考える子たち
細かいことは考えず、楽しく生きられるのならどんな生活でも構わないと思う子たち
考え方はその子によって異なっていた
そのためか、生徒同士、そして生徒と能力を持たない先生たちとのいざこざは創設当時からあったらしい…
しかし、個々の争いが大きくなりすぎ収拾がつかなくなった。
毎日のように能力や拳を使った争いが起き、大怪我をする生徒・先生たちも少なくなかった。
そのため生徒たちで故意に2つのグループを作ることにした。
一つめは『表グループ』
能力者が一般社会で“能力者と名乗って”生きることを目指しているグループ。
生徒会メンバーを中心に生徒の半分以上がこのグループにいる。
もちろんリーダーは生徒会長の若林夏希先輩。
まあ、本当に“能力者と名乗って一般社会で生きたい”かは謎だが…
特に幼い子達は、自然とこのグループに入ってしまっており、成長してから自分で疑問を持ち始める子も少なくない。
しかし、私やおにぃのように一般社会で能力者ということを隠している生徒のほとんどもこのグループにおり、いつかは自分が能力者であることを堂々と名乗りたいと、以前に話していた。
「もしかしたら表グループにいないのは私だけかも知れない」
そんな風に思ったこともある。
どのグループも正確な人数は把握していない。生徒数が多いし、入学・転校してきた、卒業してしまったなど入れ替わりが激しいしので全てを把握するのは困難なのだ。また、何となくこのグループにいるけど活動に興味がない子や、他のグループのスパイのような子もいるため、更に把握するのが困難になっている。
もう一つは『裏グループ』
社会で能力者と名乗らなずひっそりと暮らしたい、又は今の社会を能力者優位の社会にしたい、能力者だけの社会を作りたい、そんな思いを持った全体の約3割の生徒が集まるグループ。
リーダーは雄介。
ここのメンバーを簡単に言うと不良。
授業もまともに受けないし、気にくわないことが有ればすぐに自分の能力を使って怖がらせる。
厄介なのは攻撃に使える能力者が揃っているという点。
毎回止めに入らなきゃならないこっちの身にもなってもらいたい…
『表』と『裏』
最初からこんなグループ名では無かったという噂が有る。
しかし、いつしかみんなが表と裏で呼ぶようになり、元々の名前を覚えている生徒なんて、長年いる生徒でもいないだろう…
私も知らない。
少しでもこの2つのグループの意見が一致したり、仲良くできていれば、もしかしたら元々の名前で呼んでいたかもしれない。
それほど、お互いの意見が合うことが無く、能力や拳で衝突すること以外、交わることが無かったのだ。
それでも、この2つのグループに別れてから、争いは確実に減っていた。
元から意見が合わないことがわかっているぶん、無駄な争いは、頭のいい連中が揃っている表グループが起きないよう工夫していたし、争いが起きても両方のリーダーが出て来て、それぞれのグループメンバーをなだめれば、そこで終了。大怪我には至らない。
しかし、裏グループと先生の争いや、どちらかのリーダーが止める気のない争い、又はリーダーが争いの当事者になっている場合は、やはり大怪我になることも少なくない。
そうなると私の出番。
雄介が当事者の場合は私が止めれるし、雄介が関係していなくても、私がどちらの味方でも敵でもなく、また雄介が私には逆らわない、そういう存在であることを皆が知っているため、わたしが仲裁すれば、まず裏グループが手を止め、それに気づいた夏希先輩が表グループを止め、争いは終わる。
そうやって表と裏は微妙な関係を続けてきたのだ。
そんな中、表と裏、どちらにも属さない生徒は私以外にもいる。
約2割の生徒は一人でいるかまたは両方のグループに関わっているか…
しかしこの2割のメンバーはお互い交わろうとはしなかったためグループとしては存在していなかった。
でも、それも今までの話。
ここ最近中間グループができ始めた。10までの数字の間を取って『5(ご)グループ』とか『fiveグループ』とか言われてる。
いくら幼い子たちがいるとはいえ、ネーミングセンスが無いと私は思う。
このグループができ始めてきている理由…
それは1人の転校生の存在が大きい。