~過去~決意
中学生になった。
私は一般の学校を休むことが増えていた。
能力学園の中が常に騒がしくなっていたからだ。
「お前は、なんもわかってねぇーんだよ!
今まで通りか、能力者の社会にするか。
それがオレらがオレららしく生きれる道なんだ!」
雄介の怒鳴り声が廊下に響き渡る。
「隠して生きるなんて無理!
いつか必ずバレる日が来る。
それに、能力者の社会を作ってなんになるの?
今度は能力を持たない人たちを差別する気?
そしたら結局争いが起こる!」
麗衣香さんも怒鳴る。
はあ~
まーた、やってるよ。
「はい、はい。
とりあえず落ち着いて。」
最近、何度この言葉口にしただろう…
私は朝一で生徒会室に顔を出し、変わったことが無いかを確認して自分のクラスに顔を出す。一般の学校にいかない分、ここで勉強に遅れないようにしていた。
合間合間で雄介のところに顔を出し、放課後は麗衣香さんに能力を教える。
そんな毎日を過ごしていた。
雄介の部屋。
「毎回、自分の意見を押し付けやがって…!」
イライラがおさまらない雄介。
「裏のリーダーがなに言ってんの?」
私は紅茶を入れながら雄介をなだめた。
中学生になってちょっと大人ぶりたくなった私はコーヒーをまず試した。
苦かった。
カフェオレとかにすれば良くない?
と友だちに言われたが、そのまま飲む事が大人っぽく思えていたこの頃の私には、聞き入れられる意見では無かった。
次に紅茶を試した。
美味しかった。
ハマった。
「お前も止めるなよ!
お前が止めに来ると、言いたいこと言えなくなるだろうが!」
八つ当たりだ。
でも、雄介のそんなところが可愛かった。
「なんでさ、雄介は麗衣香さんの話を聞かないの?
本当に能力者の社会を目指してるの?」
「そうはっきり言われるとわかんねぇけど…。
オレはもう昔みたいな生活は嫌だ。戻りたくないし、オレも将来の夢を持っていいって言うなら持ってみたい。
バレないように暮らすか、能力者の社会にすれば、それが叶う。
でも…
オレみたいな危険能力者が何もしないで大人しくしてることで、他の能力者がいろんな未来を見れるなら、オレはそれでも構わない。
そうも、思ってる…」
雄介は私が入れた紅茶を熱そうにすすりながら答えた。
意外とちゃんと考えてる。
雄介らしくないけど、雄介らしい。
「お前はどうなんだよ?
オレの教育係とかやったり、能力のことに興味持ってたりはしてるけど、能力者の未来には興味無いっていうか、オレを止める以外は極力関わらないようにしてたっていうかさ…
そんなお前が3つのグループ渡り歩いて、関わってる。」
「今でも興味はないよ。
ていうかよく分からない。
将来って何?
想像もできない
本当に有るかどうかわからない
そんなもののために頑張るより、今やりたいこと、したい生活をする方が私には大切に思える。
だから、頭よくならないんだろうけどさ…。
雄介と一緒にいたり
能力の研究したり
麗衣香さんに能力教えたり
ここも楽しいしけど…
あっちの学校で能力者だってこと忘れて皆とふざけたり
ドラマとかアニメとか好きな歌手の話したり
叶うかどうかもわからない未来を想像したり
毎日、宿題だ~、テストだ~、ってみんなで文句言ったり
どっちも好き。
おにぃみたいには決められない。
まあ、お父さんは能学に行くなって言われるんだけどさ…」
「じゃあ、お前は親孝行すれば?
いくら母親がここの創設メンバーでも、兄妹そろって能力者の問題に関わんなきゃいけない決まりはないし、兄妹どっちも言うこと聞かねぇって親父さん可愛そうだからさ…。
それに、オレから離れればお前は危険能力者じゃない。
あと………お前がする、向こうの学校の話、けっこう嫌いじゃない。」
雄介がちょっぴり恥ずかしそうにする。
やっぱり、雄介って優しい。
バカだけど…
窓を開けているせいか鳥の鳴き声がよく聞こえる
こんなゆっくりと毎日を過ごせたらな…
能力を隠して生きていくことに不自由さを感じたことはこの十数年間無い。
でも、麗衣香さんの言ってることもわかる。
確かにいつか能力者の存在は明かされるかもしれない。
黙り込んで隠そうとしている人ばかりじゃない
ここの卒業生だって、能力者の存在を知ってもらいたいと思っている組織や、自分たちの世界にしたいと思ってる組織に入った人はたくさんいる。
そういう人がいる限り、いつか能力者の存在は知られる。
その時どうすればいいか考えてたら、能力者をただ怖い存在として捉える人たちの手によって私たちの居場所は無くなる。
大切な人を殺される可能性もある。
それもなんとなくわかってる。
でも、未来って何?
私は夢で何人も死んでしまうのを見てきた。現実にその命が消える瞬間を何もせずに見てきた。
そして、世界では私が夢で見てきた人たちの人数の何十倍・何百倍もの人が死んでる。
いつ、誰が、明日必ず生きてるって言った?
有るかどうかもわからない未来を考える。
それが今の私にはよく分からなかった。
「なあ?」
いきなり雄介が雰囲気を変える。
「何?」
「もし、麗衣香が言うように能力者の存在が知られて、どうにかしなきゃいけない日が来たら、オレの能力をコントロールしてくれるか?」
言ってる意味がわからない。
「オレは自分に無力の能力を使う。お前はそれをコントロールして、オレが自分の能力で死ねるようにして欲しい。」
私は驚いた。
いつの間にこんな大人っぽい顔をするようになったのだろう。
でも、考えることは雑というか…
最低というか…
「さっきも言ったろ?オレが大人しくしてることで、他の奴らが未来を見られるんなら…って
大人しく、が『死ね』とか『消えろ』ってことなら、オレはそうしたい。」
「ホント、ばか!
確かに今、全世界の能力者記録に無力の能力者はあんたしかいない。
でも、この先もその能力を持った人が誕生しないっていう保証はどこにもない。」
私が珍しく真剣に怒鳴ったからか、雄介は黙ってしまった。
「雄介が死ねば、次に無力の能力を持って生まれてきた人も死ななきゃいけないと思っちゃうかも知れない。
そんなの絶対にダメ!
絶対に許さないんだから…」
私はこの時決めた。
雄介を守ると…
現在
「梓さん、着きましたよ。」
目を開けるとそこには生徒会室が広がっていた。
そして、先生たちや生徒会のメンバー、fiveと裏の主要メンバーの驚いた顔が次々に目に飛び込む。
「なんで…」
そう漏らしたのはおにぃだった。
「なんでじゃないよ!
ちゃんと説明して。
雄介に何が有ったの?
今、何が起きてるの?」