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あの日、空は紫色だった  作者: アナ
12/30

~過去~新たなグループ

麗衣香さんはあれから1ヶ月も経たないで、コントロール度Bのテストに受かった。

でも、元の生活や学校に戻りたいとは言わなかった。

私はその理由を聞くことはできなかったし、聞いてる時間も無く、能学の中は変わっていた。

少しずつ、麗衣香さんの意見に賛同する子たちが現れたのだ。

麗衣香さんの意見。

それは、能力や暴力ではなく言葉で意見をぶつけるべきだということ。それから、能力者が一般社会で“能力者と名乗って”生きることを目指している『表』と、社会で能力者と名乗らなずひっそりと暮らしたい、又は今の社会を能力者優位の社会にしたい、能力者だけの社会を作りたいという『裏』の意見の前に、まずは正確に能力のことを理解してもらう必要があるというものだった。

どちらかのグループにも属していなかった子たちの多くや、『表』に属していた十数名がこの意見に賛同した。

まあ、遊んでもらってるからという理由の子も多いような気がするけど…。

能力の勉強に関しては下の学年に混ざって勉強していた麗衣香さんはよく、幼い子たちの面倒を見ていたのだ。

なんであれ、『表』と『裏』の中間グループはちゃんとグループとして形になっていた。

私は3つのグループに関わることになってしまっていた。


そんなある日、麗衣香さんの部屋を訪ねると麗衣香さんのベッドには知らない男の子が眠っていた。

誰?

私の驚いた顔を気にも止めず、麗衣香さんはアイスココアを作っていた。

「きのうね、麗衣香お姉ちゃんと拾ってきたんだ。」

麗衣香さんではなく、隣の部屋の奈子が答えてくれた。

奈子まだ小学1年生ながら、この学園での成績は優秀で、私がいないときに麗衣香さんがいろいろ頼っていた存在だ。

もともとはグループに属していなかったが、いつの間にかこのグループに入ったらしい。

「拾ってきた…って…。

能力者じゃなかったら、誘拐なんだけど。」

「でもさ、ほっそい、暗ーい路地で倒れてからさ。

かわいそうじゃん?」

かわいそう…って…

「あ~ちゃん先輩安心して!大丈夫だよ、空間移動の能力者だから。」

奈子が麗衣香さんが入れたココアを満面の笑みを浮かべて飲みながら、答えた。

奈子は能力検知能力を持っている。

奈子が一緒にいたなら、まあ、大丈夫だろうけど…


「にしても、なかなか起きないなぁ。

保健の先生は眠ってるだけだから大丈夫だって言ってたのに…」

麗衣香さんが男の子の頭を撫でる。

「あっ」

麗衣香さんの声に私と奈子も反応して男の子の方を見る。

目を覚ました男の子は目の前にいた、麗衣香さんを驚いて見つめる。

「おはよう。」

微笑む麗衣香さん。

と、男の子は急にベッドの上で立ち上がると、体が歪みながら消え始めた。

目を丸くしたまま立ち尽くす麗衣香さん。

奈子が麗衣香さんを後ろに引っ張り、尻餅をついた麗衣香さんの前に守るように立つ。

同時に私は男の子を引っ張って床に落とし、仰向けに倒れた男の子の体に乗って手足を抑えた。

暴れる。

私は抑えながら、男の子を顔をしっかりと見た。

「暴走させたら、空間から戻れなくなるよ。」

男の子は暴れるのをやめた。

私も力を緩め、男の子の体から降りた。

「君、能力コントロールできるんだね。誰から教わったの?」

目を反らされる。

「でもね、慌てて使っちゃダメだよ。

自分で今のはまずかったってわかるよね?」

空間移動の能力は移動する瞬間に、歪んだりせず、ただ消えるだけ。

つまり、今回の状態は暴走しかけていたのだ。

あのまま使えば、移動中に暴走し、移動空間から出れなくなる可能性がある。

男の子はち小さくうなずいた。


一瞬の出来事に麗衣香さんはまだ目を丸くしていた。

奈子は警戒体制を解き、麗衣香さんに「大丈夫?」と声を掛けたいた。

まだ驚いた顔で「うん。」と答え、ゆっくり立ち上がる麗衣香さん。


やっぱりこの人はまだ何も知らない。

能力が暴走しかけてるかどうかも

その対応方法も

それでも、信頼している子がいる。

慕っている子がいる。

奈子がそうだ。

奈子は純血

つまりは家族全員能力者という家系に生まれ、能力者として生まれてきたことを誇りに思っている。

両親も立派な研究者。

奈子自身、能力者以外は嫌っているし、能力者として生きることに対して、自分だけの信念を小1にして持っている。

そういう子だ。

だからこそ奈子は今まで『表』と『裏』のどちらにも属していなかったし、どちらにも顔を出す私とは仲良くはしてくれていたけど、慕っているように感じたことはない。

そんな奈子が麗衣香さんを慕っている。

それだけの力がこの人にはある。


「とりあえず、君、名前は?」

麗衣香さんがベットに座るよう男の子を促しながら、聞いた。

「かいと…野上快斗です。」

「快斗くんね。これからよろしくね!」

いつも通りの転校生なら、これで終わりだ。

でも、今回はそういうわけにはいかない。

コントロールしやすい能力や、能力者自身も能力を持っていることに気づかないような能力は、誰かに教えられなくても使うことができることがある。

でも、空間移動の能力ではあり得ない。

この子は誰かに教えてもらっているはずなのだ。

「誰に教えてもらったの?」

「…リーダー…」

「どこの?」

「…ムエン…」

ムエン?

私は聞いたことがない。

でも、快斗の雰囲気的にいい組織では無さそうなのはわかる。

もう少し、詳しく話を聞かなきゃ

そう思った時、扉をノックする音が聞こえた。

麗衣香さんが開ける。

「こんにちは」

優しい笑みを浮かべた早川先生がそこには立っていた。

ちょっと間違えるとおネエ系になりそうな二枚目の顔立ち。美形のこの顔で優しく笑うので女子からは常に人気だ。

「転校生君を迎えに来ました。」

私は慌てて廊下に出て、麗衣香さんを部屋に戻し、扉を閉めた。

転校生の名前、前にいた組織の名前、能力を発動させようとしたことを先生に話した。

「わかりました。

では、あとは我々に任せてください。中の心配そうな顔をしていた二人にもそう伝えてくださいね。」

「でも、私も何か…

せめて、どういう状況なのかは知っておきたいです。」

能力で悪巧みを考えている組織とかだと、快斗を取り返しに来る可能性がある。

空間移動の能力者がいると、移動はもちろん楽になるし、潜入とかだって容易くできてしまうからだ。

「君は生徒で、生徒会のメンバーでもない。

君が関わらなくても、私たちでちゃんと対応するので安心してください。」

「でも!」

「それよりも、雄介のところに行った方がいいですよ。

ここ最近、君が麗衣香君の世話ばかりしていて顔を出さないからリーダーの機嫌が悪い、と裏の子たちがよく話していますからね。」

そう言うと早川先生は私をかわし、再び扉を開けた。

「野上快斗君。入学手続きをするので来てもらえますか?」

快斗は大人しく従った。

私は早川先生と快斗の後ろ姿を見送った後で、麗衣香さんと奈子に早川先生だから心配ないことを伝え、そのまま中にも入らず、扉を閉めた。

「立ち聞きとか最低。」

私が睨み付けた廊下の曲がり角から雄介が現れる。

「別にやりたくてやったわけじゃねえよ!

早川がいたから…」

雄介は早川先生を苦手にしている。

助けられた恩を素直に受け止められる純粋な年齢ではないし、あの話し方が好きではないと本人は話していた。

「そもそもなんでこんなところに?」

「それは転校生が気になったからで。」

雄介は目線を反らした。

「あっそ。じゃあ、私は行くね。

最近、麗衣香さんに教えてばっかりで、いつも帰り遅いから、たまには早く帰りたいし。」

私は雄介に背を向けた。

「待てよ。」

そう聞こえた直後、雄介の呼吸をすぐ後ろで感じ、背中が温かくなった。

ゆっくりと私を包み込む腕。

「俺のこと、嫌いになったのか?」

はぁ?

こいつは何を言ってるんだ?

そう思いながら、私は全く抵抗する気が無かった。

「俺が、お前が面倒見てる転校生いじめるから…」

こんな雄介の姿をみんなに見せたら、怖がる人はもう少し減る気がする。

「やっぱり雄介ってバカだよね。

私と雄介の能力は2つで1つ。どちらかの能力が消えるまで、私たちはずっと一緒。」

私は雄介の腕を握りしめた。

「じゃあ、俺たち自身は?

能力じゃなくてお前自身はどう思ってるんだよ…?」

雄介の口調は真剣だった。

体が触れあってるからか、よりそれがわかった。

「それも一緒だよ。

私たちはずっと一緒。

そうでしょ?」

「あぁ。」


私はしばらく、このぬくもりを忘れることが出来なかった。

落ち着ける場所。

それを1番大切にしなければいけないということを、この頃からなんとなく感じ始めていた。



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