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あの日、空は紫色だった  作者: アナ
10/30

~過去~暴走

私は夏希先輩と一緒に第3寮の16号室の扉の前までやって来た。


なんか緊張するー


夏希先輩の後ろに隠れるように後ろに下がった私に、先輩が微笑む。

扉をノックする。

「はい!」

高めだけど、かわいいと言うよりは綺麗な女性というイメージ。

「夏希です」

先輩が名乗ってすぐ扉が開く。

「会長さん、こんにちは」

にこやかに私たちは迎えられた。

と、その人は夏希先輩の後ろに半分隠れていた私に目を向けて、ちょっと困った顔をする。

「この子が昨日話した子です」

「あー、私の教育係さん。梓ちゃんだっけ?よろしくお願いします」

私より明らかに身長が高いその人は、わざわざ目線を合わせた上で、頭を下げてきた。

私は慌てて夏希先輩に隠れるのを止め、頭を下げる。

「じゃあ、後は2人で!」

は?

夏希先輩はあっさりと去ってしまった。

困り果てる私。

「入って。」

私は促されるままに部屋の中に入り、丸テーブルを囲むように並べられた3つの椅子のうちの1つに座る。

「あんまり飲み物無いんだけど、紅茶とココアならあるよ。どっちがいい?」

「コ…コアで…」

“ココア”すら上手く発音できないとか、どれだけ緊張してるんだ、私


大きく深呼吸をする。


そんな私を構うことなく、転校生さんはココアを作りはじめた。

ポットにお水を入れる音

ポットの線をコンセントに差し込む音

小さな音が室内によく響く。


「あーそういえば、まだ名乗ってなかったね。私は雨宮麗衣香です。よろしくね。」

「あ…雨宮さん…」

私は取り敢えず呼んでみた。

「んーそっちじゃなんか仲良くなれなそうだから、下の名前で呼んでくれる?梓ちゃん。」

「じゃあ…麗衣香さん…」

私が恥ずかしそうにそう呼ぶと、麗衣香さんも恥ずかしそうな顔になった。


ココアの甘い香りが部屋の中に溢れる。

湯気が香りとともに漏れ出すティーカップが目の前に置かれる。


麗衣香さんも椅子に座る。

一口ココアを飲んだのを見て、私も飲んでみる。

美味しい!

「それで、今日は何を教えてくれるの?」

私は急な質問に思わず、ココアを吹き出しそうになった。

あっ…

考えてなかった…

てか、急に言われても…

「もし良かったら能力のコントロールのやり方を教えてほしいんだけど…」

麗衣香さんが困ったような笑顔を浮かべる。

「えっ?」

麗衣香さんがそんなことを言う理由はなんとなくわかる。

危険能力、いやその他の能力だって、持ってたら考える人は考える。

自分の能力のせいで誰かを傷つけてしまったら…

そう思った人が次に何するか。

なるべく早く能力をコントロールできるようになりたい。

私ならそう思う。

いや、そう思ってくれない人の方が、正直困る…

能力で人を傷つけても構わない

そんな考えじゃ困るのだ。

でも…

「すいません。今日は少しなら教えられますけど、いっぱいは教えられないんです。」

「なんで?帰らなきゃいけないから?」

麗衣香さんの目は必死だった。

「いや、そうじゃなくて…

急にコントロールしようとしても良くないっていうか…」

ちゃんと説明したいのに上手く言葉が出てこない。

「短い期間でコントロールする方法は有ります。でもそれは…その…能力を自分の中に押さえ込むっていう言い方が多分正しくて…

ちゃんとコントロールできるようになるためには時間がかかるんです。」

「そうなんだ…」

肩を落とす麗衣香さん。

なんて言えばいいのかわからない

こんな状態なら、第一段階も教えるべきじゃないかも…

「そっか……わかった!」

笑顔を見せる

その笑顔が作ったものだっていうのはわかる。でも、さっきまで落ち込んでた人の笑顔じゃない。

「その“少し”ってのを教えてもらえる?」

「あっ、はあ…」

私は困ってココアを飲みながら目線を反らす。

どうすればいいんだろう?

やっぱり、雄介しか教えたことないっていうのが問題だと思う。

おにぃに任せれば良かったとまた後悔。

麗衣香さんは笑顔で私の返答を待っている。

あー、もういい!

やっちゃおう!

「わかりました。

じゃあ、自分の中にある能力を感じて下さい。」

「はあ?」

この反応は当然だと思う。

最初はこんなこと言われても意味わかんない。

能力は使用していない状態でも自分の体の中というか、心の中というか、意識の中というか、で感じることができる。


麗衣香さんは目を閉じ、胸に手を当てた。


無音のまま時が流れる。


と、

「あっ」という声のあとに麗衣香さんが目を開ける。


赤い…


私は手を前にかざした。

「どうしよう!あーどうすれば、どうしよ、どうしよ、どうしよ」

さっきまで綺麗なお姉さんだった麗衣香さんが幼子のように震えている。

麗衣香さんを抱きしめる私。

「大丈夫。大丈夫ですよ。目を開けてください。」

なるべく優しい声を出す。

「でも!あーどうしよう」

麗衣香さんは目を強くつぶって、私の声も届いていない。

「大丈夫。ほら目を開けて。

いいから、目を開けて!」

大声を出した瞬間、麗衣香さんが目を開ける。

まだその目は赤い…

私は抱き締めたまま目だけを反らす。

それでも体に鈍い痛みが走る。

「今、何が見えますか?」

「…私の…部屋…

でも、なんか歪んで見える…

だめだ… 」

「それは、私の能力のせいです。」

「え?」

「ヴッ…」

体に激痛が走る。

麗衣香さんが驚いて私を見たのだ。

「……あなたに…見えてるものは…っ…間違いじゃない。だから…暴走なんか…してない。

“私は能力と仲良くやっていく”って強く思ってください。

ううん…口に出して言ってください…」

だめだ…

能力が切れそう…

「私は能力と仲良くする」

麗衣香さんの震える声が体を伝ってはっきりと聞こえた。


と、同時に暴走が止まったのがわかった。


良かった…


床に倒れ込む私。

目を開けた麗衣香さんが慌てて私を抱き起こす。

薄れ行く意識…

私は背負われてベッドに運ばれた。

何度も

何度も

麗衣香さんの私を心配する声と謝る声が聞こえた…




しばらく夢を見ていたような気もするし、そうじゃないような気もする。

目を開けると見慣れない天井が広がっていた。

「大丈夫か?梓」

おにぃの声。ベットサイドには、麗衣香さんの隣におにぃと夏希先輩、保健室の先生がいた。

「先生まで…どうして?」

上体を起こそうとするが、重い。

さっきまでのは夢でなかったことを自分の体が実感しているが、同時にこの程度ではないことも実感していた。おそらく保健の先生が能力を使って、多少、私の体力を回復させたのだろう…

「体、どう?」

保健の先生の心配そうな顔。

その後ろの麗衣香さんが目に飛び込む。

私は目を反らした。

「大丈夫です。」

「ごめんなさい。」

麗衣香さんの目からは涙が流れていた。

「なんで謝るんでするか?」

「だって私…

“暴走なんかしてない”って言ってくれたけど、本当は暴走してたんだよね?」

今はただ自分のしてしまったことが辛くて泣いているだけな様子。泣いていても、もう、暴走することはない。

そう、私は確信した。

「そうですね。さっきのは間違えなく暴走してました。暴走してなかったら、ちゃんと止められたはずだし、そもそも、赤い目の能力は相手の体に痛みを与えるような効果は有りません。」

そうだよね、と麗衣香さん。

「ただ、暴走させたのは私です。」

驚いている目。

「最初に暴走させないで自分の中で能力を感じることができたら、それでいいと思っていました。

でも、感じられず、暴走しそうになった場合はそのまま暴走させようと思ってました。」

おにぃが何度も口を挟もうとしていたが、私は早口で話続け、その隙を与えなかった。

「麗衣香さんの持っている能力はとても強い能力です。それを一度も暴走させないでコントロールの方法を身に付けるのは、難しいんです。でも、ただ暴走させたって意味なんいんで、暴走しているとき周りがどんな風に見えるのかを知ってもらいたかったので、目を開けるように言いました。

だから…謝らないで下さい…。

おにぃも麗衣香さんを怒んないで…」

うつむく私を黙って見つめるおにぃ

私たちを交互に見ては、申し訳なさそうな顔の麗衣香さん

その様子をどうすればいいかと、先生と先輩

おにぃが麗衣香さんを怒りたい気持ちも、勝手で危ないことをした私に一言言いたい気持ちもわかってる。

それでもおにぃは

「帰る準備して待ってる」

そう言って部屋を出ていってくれた。

それを追いかける夏希先輩と優しく微笑んで去る保健の先生。


2人になって静まり返る空気

麗衣香さんはなんとか話をしようとしている様子だが、言葉が見つからないみたい…

私はベットから立ち上がり、残っていたココアを飲み干し、「ごちそうさまでした。今日のことは気にしないで下さい」と立ち去ろうとした。

この空気感に耐えられそうにもなかった。

扉に手をかけようとする

「あのね、空間が歪んで見えたのも暴走してたから?」

何とか話を見つけたらしい

「あれは、私の防御能力に暴走した能力がぶつかってて歪んで見えたんです。」

「防御能力?」

防御能力(バリア能力)。

いろいろ種類は有るが、私のは能力攻撃限定で、その攻撃から守るための能力。

この能力を私は麗衣香さんの能力が暴走した瞬間に私と麗衣香さんを包み、且つ、他の物への被害が最小限に抑えられるギリギリの広さに張り巡らせたのだ。

そして、暴走した赤い目の能力がバリアにぶつかることで空間が歪んで見えたのだ。

「なるほどね…」

麗衣香さんそう言いながらもまだ次の話題を考えている様子だった。

「ごめんなさい、今日はもう帰ります。また、明日来ます。」

扉の前で頭を下げる。

「今日は本当にごめんなさい。明日、待ってるね。」

なんとか優しい笑顔を作る麗衣香さん。

私は静かに16号室をあとにした。



出て気づいた。

外はもうすっかり静けさ漂う夜

薄い雲が月と星たち覆っていたが、さすがに月の光は覆いきれないらしい

滲んだ光が窓枠どおりに床を照らす

私はその上を歩いた



1寮

ここは先生たちが主に使用している寮。

22号室。黒田先生の部屋。

黒田先生はこの学園の卒業生で、大学に進み、教員免許を取ってここに戻ってきた人だ。

保健の先生と黒田先生、あともう1人、この3人だけが先生たちの中では能力者だ。

黒田先生は空間移動の能力を持っており、私たち兄妹はよく学園から家への移動を先生にお願いしている。

「もっと話さなくて良かったのか?」

黒田先生はおにぃから事情を聞いたらしい

「あと、何を話せばいいんですか?それに…疲れました…」

「自分でやったことだろうが」

と冷たいおにぃ

おにぃを睨む私

「ケンカしなさんな」

と笑っている先生


その後、私たちは先生に家まで送られた。

扉を開けると、怒った顔の父が立っていたが、私の疲れきった姿を見て、一瞬で心配そうな顔になる。だが、私は何も言わずに自分の部屋に行った。話す気力なんて残っていなかったし、おにぃが上手く説明するだろう…

パジャマにだけ着替えて布団に潜り込む。

重い身体から一気に力が抜けていくのがわかった。


“「ここは…」

能力学園の地下。

「ミャーオ」

毛並みの整った黒猫が私の足にすり寄る。

「どうしたの?アル」

私はアルの頭を撫でる。

アルは能力者ならぬ、能力猫。友達の飼い猫だったが、その友達がわけあっていなくなってからは、この地下室に住み着いている。とういより、ある部屋を守っている。

能力訓練室。

ここは常に鍵がかけられており、生徒会室の鍵庫に保管されている。ただ鍵を持ってきたところで開かない。それはアルのせいだ。アルは鍵の能力を持っており、この部屋の扉を常に閉めた常態にしてしまう。

アルと仲のいい人しか開けてくれないのだ。

まあ、そもそも人なんか来ないけど…

地下にある他の部屋も含めて昔は授業で使っていたらしいが、長いこと使用されておらず、ついでに幽霊が出るなどの噂も有り、他の生徒は近寄らないのだ。


にしても、なんでこんな夢…

続きでも有るのだろうか?”

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