プロローグ〜旅立ちの朝〜
「コウちゃんへ
コウちゃんをいろんなことに巻き込んじゃってごめんなさい。
でもって、これからしばらくいなくなることも許して下さい。
コウちゃんが私のことを好きだって言ってくれたこと、私の大事な記憶です。
最初はちょっと重いかもとか思ったけど、誰かにすっごく愛されるって、やっぱりいいことだね。
コウちゃんと過ごせて良かったよ
もし私の帰りを待っていてくると言うのなら嬉しいけど、待てなくてもいいです。その時は幸せになって下さい。 梓」
「好きならさ、待っていて下さいって言うべきなんじゃねぇーの?」
おにぃが封筒の中に入ったままの手紙の文字を読みながらそうつぶやく。
「普通さ、妹のラブレター勝手に読む兄がいる?」
私は長く伸ばした、最近茶色に染めたばかりの髪を、鏡を見て1つに束ねながらおにぃに聞き返した。
「ほら、ラブレターって認めた!てことはさ、好きだってことだろ?だったら待っててもらえよ。」
「………そんなことできないよ…。」
一瞬でここ最近起きた出来事が頭を巡る。
「散々巻き込んで嫌な思いさせたのに、待っててなんて言えない。あとは浩一に選んでもらう。もしものときは、幸せになってくれればそれでいい。」
私は本当に心からそう思っていた。
迷いなんてなかった。
「本当に行くのか?」
おにぃが私の周りに積まれた荷物の山を見て、つぶやくように聞いてきた。
「行くよ!
もう少し強い人間になるか、何かやり遂げたら帰ってくるから」
私は兄に笑って見せた。
玄関を開けて、風をたくさん吸い込む。
今日は青空!快晴!
旅立ちにはいい天気かも…
もしあの時、空が今日みたいな色だったら、何か変わってたのかな…
違う未来になってたのかな…
そんなバカげたことを思いながら荷物を持ち、見送る父と兄に一回だけ手を振って、歩き出した。
ばいばい