2 家族
秋子の父、鬼頭辰也は大手出版社の記者だった。政治家や芸能人のスキャンダルを週刊誌に書き立てるのが仕事だった。取材を始めるとひと月近く家に帰ってこないこともあった。
秋子は幼い頃からお父さんというものはそんなものだと思っていたので寂しいと思ったことはなかった。
小学生の頃、父が久しぶりに帰ってきて秋子が母に
「お父さん帰ってきたよ。今寝てるよ。」と言うと
「あのね。お父さんは家に帰ってくるのが当たり前なのよ。うちのお父さんはちょっと変わってるの。」と言った。
だが、志津子は夫が家に帰ってこないのは仕事のためだけでないことを知っていた。
「あの人には女がいる。」それは妻の直感だった。
ある日、水商売風の若い女が訪ねてきた。
「あのう、辰也さん全然帰ってこないんです。こちらにに来てますか?」
志津子は平然として「来てませんよ。おおかた『3号さん』のところへでも行っているんでしょ。」
女は当惑した顔で帰って行った。秋子はあとで母に
「あの女のひと、どういう人?」と聞くと母は珍しく険しい顔をして返事をしてくれなかった。
秋子は自分の容姿が父親に似たところが全くないので、思春期の頃は自分は本当にお父さんの子なんだろうか・・・と悩んだこともあった。だが成長するにつれて秋子は自分の中に父に似た部分を発見していった。
辰也は読書好きで書斎には文学全集など小説本がいっぱいあった。秋子は中学生になるとそれらを読み耽った。背が高いのも指が長いのも父親似だった。
一方、志津子は現実家で小説は読まない人だった。
両親に離婚話が持ち上がった時、秋子は母に訊いた。
「お母さんたち夫婦喧嘩もしたことないのにどうして別れるの?」
母は悲しそうな顔で
「夫婦げんかできる内はまだいいのよ。」
秋子が高校1年生のとき両親は離婚した。




