9 満開の桜の下で今宵2人は
その夜の渋谷のホールでのコンサートの演奏曲はマーラーの交響曲第4番だった。森高秋子と三田村正彦は爽やかな気持ちで会場を後にした。
「素晴らしい演奏だったわ。」
「あの第3楽章は祈りの音楽だね。涙が出たよ。」
すぐに帰宅する気にはなれなかったので2人はしばらく歩いた。
代々木公園は桜が満開だった。2人はとあるベンチに腰を下ろした。
秋子はそのことをいつ告白しようかとずっと思い悩んでいた。それを告白した時、正彦がどんな顔をするか心配だった。その瞬間の正彦の表情に秋子は自分の人生を掛けた。
「私、ちょっと話があるの。」
「なんだい。何でも話してくれよ。僕たちもう母のことでも何でも隠すことなんか何もないんだ。」
「あたし、・・・あたし妊娠してるの。浩太朗さんの子を身ごもっているの。」
「本当かい!素晴らしいじゃないか!僕たちでその子育てよう。」
「いいの?」
「当り前じゃないか。僕の方にも告白したいことあるんだ。秋子さん、僕と結婚してくさい。」
「まあ!喜んでお受けしますわ。」
「僕たちうまくやっていけそうだね。子供は多い方がいいね。僕も頑張るよ。」
「あたし、一人っ子だと思っていたけど、実は弟がいたの。浮気者の父がよその女に子供を産ませていたの。」
「じゃあその人僕にとっても弟になるわけだね。それから、どうしても分からないことがあるんだ。あの『幽幻文芸』という雑誌だけどね。発行が幽幻舎となっているけど、そんな出版社はどこにもないんだ。住所が四谷になっているから実際に四谷に行って調べたんだ。でも、そもそもあの住所が架空の住所なんだよ。」
「それではまるで『四谷怪談』じゃないの。」




