王都エンリル
遂に王都に到着
アウリンダ落城の夜。
アウグスト率いるニンリル王国の飛竜騎兵団は、交代で敵哨戒任務を実施していたが、疲弊して街道を南進する敗残兵を見送っただけで、夜陰に乗じて反撃を試みる敵は居なかった。
陸兵達は城内組と野営組に分かれ、それぞれ歓喜に沸き勝利の美酒に酔いしれた。
「戦友へ。」
後者の組に属した待機中のアウグストは、共に戦った飛竜乗り達を前に多くを語らず、しめやかに銀杯を掲げ失った戦友にささやかな宴を捧げた。
飛竜乗り達は攻城戦の活躍を称賛され労われたが、特にその称賛を一身に受けたアウグストは、それを嫌って早々に待機を切り上げ、哨戒任務に就いていた。
東の稜線から昇る朝日がアウグストと愛機を金色に染め上げ、極北の冷気が漏れる息を白くした。
アウグストがニンリルに来て、戦の無い初めての空だったが、眼下に見える大きく損傷したアウリンダの城壁と、凄惨を極めた戦場の跡が、未だ戦地に居る事を自覚させた。
程無くして、王命を携えた連絡員を務める飛竜乗りと接触した。
「アウグスト殿下。」
その者はアウリンダ上空で黒い騎体を見るや、遠巻きから白い息を吐きながら、大声でアウグストの名を叫んでいた。
ニンリル軍の制服に左胸に白い鳥の羽を刺した、溌剌とした若い王室付きの連絡員だった。
「どうした、こんな朝早く。」
訝しみ眉を顰め相手の声音に合わせて、アウグストもそれに呼応する。
朝日が昇って間もない事を鑑みるに、夜中から騎体を飛ばして来たのだろう。
「鞍上からの無礼を御許し下さい殿下。
本国から御使者の方が参っております。
至急王都に御戻り下さい。
・・・それと。」
連絡員はアウグストの左翼に騎体を寄せると恭しく頭を垂れ、手短に用件を伝えながら肩から下げた革製の鞄から、アウグスト宛の書簡を探し出す。
「何だ。」
突然の帰還命令の内容に思考を巡らせながら、稍言い難そうな態度を見せる連絡員をアウグストが促す。
「カウプフェン卿とグリュヌ卿にも王都への帰還命令が・・・。」
重ね重ねの無礼に稍緊張した面持ちで、連絡員は鞄からウィリスとレムリクール宛の書簡を取り出して見せた。
「了解した。
両名には私から伝えよう。」
言うやアウグストと連絡員は互いの騎体の左翼を下げ、左腕を伸ばして書簡の受け渡しを行った。
「確かに受け取った。」
「助かります、それでは。」
言うや連絡員は、らしからぬ小気味好い手綱捌きで、陸兵の将軍が籠るアウリンダ城へ飛び去った。
書簡は蝶結びした織紐で円筒状に丸められ、蝶結びの中央は蝋で封されその上から王家の家紋が押印されていた。
アウグストもまた直ちに騎首を巡らせると、この時機に一人なら未だしも三人も前線を離れる事を、聊か不服に思いながら城の東側の野営地に飛んだ。
愛機は両腕を大きく広げ翼膜に孕んだ風を受け、超低空から低速で野営地に差し掛かる。
不意に左翼の天幕から出て来た陸兵が、突然視界に入った黒い騎体に驚き、尻餅をつきながら右拳を振り上げ、『低空擦り抜けは他でやれ。』とでも言っているのだろうか、アウグストは笑みを零し振り返り様に『すまない。』と左手を挙げて応えた。
飛竜騎兵団に割り当てられた天幕群に着くと愛機は、上体を起こし翼膜に孕んだ大気を包み込む様に両腕を前に出し、一陣の風を起こし埃を上げて撓やかに着地した。
着地後愛機は低く腰を落とし頭を垂れると、アウグストは愛機と我が身の腰部を繋ぐ安全帯に手を伸ばし、着脱が容易な差込式留金具を人差し指と親指で圧を掛けて手際良く外した。
徐に指先から肘下までを覆う手甲を外し鞍の前面に仮置くと、兜の顎帯を解いて圧迫されていた肩まで伸びた艶めく黒髪を振り乱した。
その兜を鞍前面に配された持手に掛けると、仮置いた手甲を持ち鐙から足を外して左翼から飛び降りた。
天幕群には昨夜の酒宴の残骸が辺りに散乱し、燻ぶった焚火の跡から煙が立ち上り、それを囲む様に飛竜乗りの数名が、丸太を置いただけの背凭れに身を預けて眠っていた。
野営時の何時もの風景を尻目に、全身に身に着けた武具の重さを感じながら、制服の腕部を靡かせ颯爽とアウグストは歩を進めるが、目当ての二人は見当たらなかった。
アウグストは辺りを見回し天幕と天幕の間を除くと、そこにウィリスを見つけた。
後ろ姿ではあるが、その体格の良さと金の刺繍が施された制服は、彼で間違いなかった。
アウグストが声を掛けようとした次の瞬間、ウィリスは樽を半分に割っただけの簡易の水桶に、腰を曲げ両手を付き息を吸って、勢いよく冷水に頭を突っ込むと、頭を揺すって洗顔と洗髪を同時に行った。
顔を上げると息を吐いて獣の様に水気を振り払って、稍間が有って冷気を感じ肩を竦めた。
「歴戦の戦士は、洗髪も豪快だな。」
未だ水桶に手を付いたままで、共用の水桶を我が物顔で使うウィリスに、呆れながらも微笑を浮かべアウグストが声を掛ける。
「お、御早うございます、殿下。」
突然の背後からの声に驚き咄嗟に振り返るとそこには、左手に手甲を持ち稍左足重心の立ち居姿のアウグストが視界に入った。
典型的なアトランティス人の黒髪に蒼い瞳のアウグストは、王族に相応しい風格と凛とした容貌が印象的な男だった。
ウィリスは典型的なニンリル人の茶髪に青い瞳、歴戦の戦士に相応しい面構えが印象的な男で、今は濡れそぼった肩まで伸びた髪と顔をそのままに、ウィリスは恭しく頭を垂れながらも、今はその蒼い瞳が突き刺さるのを感じていた。
「すまないが、王命が下った。
直ちにレムを連れて私の天幕に来てくれ。」
王命とも有って時間的猶予は一刻も無かった。
髪の毛先から滴り落ちる水滴を尻目に、アウグストはウィリスを促した。
「お、王命。・・・ですか。」
事実上の戦争終結から一日しか経過していないこの時機での王命と聞いて、我が耳を疑いウィリスは怪訝な面持ちで動揺を隠せなかった。
通常であれば奪った城の守備堅めが基本であり、これ以上の進軍は無いと聞かされていれば尚の事であった。
またニンリルの飛竜騎兵団は、全権をアウグストに委任されている為、王命で部隊が動かされるのは異例であった。
「そうだ。」
「仰せのままに。」
一連の伝達は速やかに行動に移され、ウィリスは水桶に掛けた布を手にすると、駆け足でレムリクールを探しに行き、アウグストは自分に割り当てられた天幕に颯爽と歩を進めた。
ウィリスがレムリクールを連れて、アウグストの天幕に来るまでに然程時間は掛からなかった。
天幕は一般の陸兵と同じ風雨が凌げる程度のもので、同じく置いてある寝具と木製の机と椅子も申し訳無さ程度の粗末なものだった。
如何に王族と言えども前線での野営ともなれば、致し方無い殺風景なものだったが、アウグストは気にしていなかった。
ウィリスとレムリクールの両名はアウグストの天幕に入ると恭しく頭を垂れ、王家の家紋が押印された書簡を手渡され、内容を知らされていなかった二人は、書簡の封印を解いてその内容に驚嘆した。
「何ですって。」
驚愕しウィリスの目は見開かれ、王命と言えども陛下の心中を察し難いとばかりの様子を呈す。
「声が大きいですよウィリス。」
書簡の内容に驚きはしたが、むしろウィリスの驚愕振りに驚き、レムリクールは逆に平静を保って眉を顰め、戦地で大々的に情報が漏れるのを未然に防いだ。
「見ての通りだ。我々には一刻の猶予もない。」
両名の反応はさて置きながら、アウグストは早々の出発を促す。
「この時機に我々三人が前線を離れては・・・。」
「私もそれを懸念しているが、仮に敵が反抗作戦を展開するにも、暫く準備に時間が掛かる筈だ。
今から出れば恐らく昼過ぎには着くだろう。
陛下を拝した後、遅くとも明日の昼頃には帰って来れる筈だ。」
「その間を凌げれば良いのですね。」
飽くまでも過程の話だったが、アウグストはウィリスの一抹の不安を払拭し、レムリクールがそれならばと同意を示した。
「ウィリス、誰か一人代理の者を頼む。」
「仰せのままに。」
「私は食料を調達して参ります。では後ほど。」
出発に際して飛竜乗り達を率いる代理を据えない訳にはいかず、その選任をアウグストはウィリスに一任し、ウィリスはレムリクールと共に恭しく頭を垂れ天幕を後にした。
代理の選任を一任されたウィリスは、既に目星を付けており足早に歩を進めた。
現在飛竜騎兵団内で四騎の撃墜を記録し、発言力があり責任感も申し分無いデオの天幕にウィリスは向かう。
叩き起こされ選任されたデオは、寝ぼけ眼で『勘弁してくれよ、敵が来たらどーすんだよ。』と言いつつも快く引き受け、ウィリスは任務を終えて乗騎の許へ歩を進めた。
ウィリスがデオに土産を頼まれたのは、言うまでも無かった。
レムリクールは昼食を兼ねたパンと焼いた肉、水で満たされた獣の胃袋に獣皮を張った水筒を、それぞれ三人分用意し革袋に詰めると乗騎の許へ急いだ。
臨時の駐騎場では既に左翼に両足を投げ出し、半身で騎乗し地図を確認するアウグストの姿があった。
レムリクールは用意した食料をアウグストとウィリスに手渡し、各々が鞍の後部に結わえると出発の準備が整った。
「参ろう。」
手綱を持って拍車を掛けると、愛機はその体格に反して敏捷に跳躍し、同時に前傾し大きく広げた両腕の翼膜に孕んだ大気を叩き、一陣の風を巻き起こし埃を上げて離陸した。
騎体の影が羽搏きを増すほどに大地を疾駆し、高度を上げる程にその影は薄く小さくなった。
一定高度に達すると三騎は、王都のある北北西に進路をとり、既に朝日は稜線の上に登っていた。
三騎は地上の建物の輪郭が判る程度まで一気に高度を上げると、速度を落としレムリクールが調達した朝食に有り付き、腹を満たし暫し余韻に浸っていた。
「しかし三人も召喚する程の理由って、何でしょうね。」
腹が満たされ、地上では出発を優先したため、あまり触れなかったその疑問をレムリクールが口にする。
「私は兎も角、君等までが召喚を受けるとなると理由が見当たらない。」
手にした水筒の木栓を刺し、口端に付いた水滴を手甲で拭いつつ、王都に来ている使者の齎す内容如何では、との一抹の不安をアウグストは抱えていたが、今はそれを口にする時では無かった。
「戦果に対する報奨か何かですかね。」
思えばあと一騎で十騎撃墜を記録するまでに、戦果を伸ばしていたウィリスは、歴戦の戦士にしては珍しく声を弾ませ稍口許を綻ばせた。
「・・・だと良いのだがな。
それを確認しに行くのだ、何れ分かる。
さあ、急ごう。」
腹ごしらえも終わり、そ三人の疑問を確かめるべくウィリスとレムリクールを促すと、アウグストは愛機に拍車を掛けた。
日が傾き掛けた頃、アトランティス王国からニンリル王国に掛けて、大きく横たわる“漆黒の森”の深部上空に差し掛かった頃、何処までも続いた遥か地平線の先に、それは漸く三人の目に映った。
イシュタル大陸北部に面した“ネグロクカ海”である。
ネグロクカ海は冬季になると、一面を分厚い氷に覆われる極北の海である。
その水平線が一望出来るとニンリル王国の最大の都市にして、王都“エンリル”は直ぐそこであった。
三人は逸る心を抑えつつ、前傾姿勢で風の抵抗を最小限に抑え、騎体の高度を徐々に下げて速度に転換していく。
この景色を見るのは、叙任を受けて間もないレムリクールは二週間振りであったが、アウグストとウィリスは実に二年半振りの事で有った。
勝利を手にしての帰還とも相俟って、それぞれの思いは一入であった。
暫くして王都エンリルが、森の向こうにその輪郭を見せた。
王都は北のネグロクカ海と南の漆黒の森の間に在って、城の基本構造はアウリンダに類似しているが、城塞都市として発展し規模は大きく、なだらかな丘陵に築かれた城は高い城壁に囲まれ、円柱状の尖塔を配し、三重の天守塔もまた尖塔を備えていた。
そしてその城壁の周りに住人達の家々が立ち並び、その家々の外周を円形状の城壁が囲っていた。
アウグストは王都の外周城壁の上空に達すると、右腕を伸ばし掌を後ろに向けて、後続のウィリスとレムリクールに減速を促した。
「遂に来ましたな、殿下。」
減速の合図を機にウィリスがアウグストの右翼に騎体を寄せ、二年半振りの帰還に瞳を輝かせ、朝食を終えてからずっと無言のまま、風の音だけを聞いて飛んでいただけに、ウィリスは稍大きな声音でアウグストにその瞳を向けた。
「漸く陛下に拝謁が叶うな。」
眼下に広がる煉瓦造りの街並み、王城を基点に六方向に延びる石畳が敷かれた通り、そしてその通りを行き交う人々を望みながら、戦地とは懸け離れて王都の平和が保たれ活気付いている事を実感し、アウグストは微笑みを浮かべ声の主に視線を向けた。
「ここからは私が先導致しましょう。」
前回の帰還から間もないレムリクールが、少し得意げな表情でアウグストの左翼を擦り抜け先行した。
三騎の影が緩やかに街並みを進み、真直ぐ王城を目指した。
三人は城の東側の天守塔と城壁の間にある広い中庭に降下すると、衛兵によって城壁に面した石造りの駐騎場に誘導され、安全帯を外し兜を脱だ。
乗騎を降りると衛兵や園丁達が恭しく頭を下げ、それぞれが帰還を歓迎するのを、右手を上げ会釈程度に返し、天守塔の南に面した正面扉を目指す。
三人は天守塔に面した、円柱状の列柱がアーチ状の屋根を支え、正方形に切出された石畳の歩廊を、鉄靴を鳴らして颯爽と歩を進めた。
正面扉には甲冑を身に着けニンリルの制服を纏い、槍と盾を持ち胸を張って直立する衛兵が二人居り、三人を見るや突然の帰還に驚いて恭しく頭を垂れ、長旅の労を労う言葉を掛けつつ重厚な造りの二枚扉を開き中に招き入れた。
開かれた扉の内側は真直ぐ玉座の間に伸びる一本の赤い絨毯が敷かれ、手摺付きの階段を上がった先に玉座の間があった。
その手前には天上の高い広間があり、広間は貴族や商人等が王との拝謁を待つ場所で、また貴族や商人の情報交換の場所でもあった。
この日も例に漏れず、男女十数名の豪奢な衣装を身に纏った貴族と商人が談笑し、情報交換に花を咲かせていたが、正面扉から入って来たアウグストの一行を一瞥すると驚嘆し、遠目に頭を下げる者や口を隠して耳打ちする者等が一同の視界に入る。
場違いな雰囲気を醸す空間であったが、平時の王城とはこう言うものであった。
「御待ちしておりました殿下。
要人控室で御使者の方が御待ちです。
御案内致しますので、後に付いて来て下さい。」
城内に入って間もなく、不意に声を掛けられ声の主に視線を向けると、そこには貴族や商人より稍見劣りする服装の、十代の小姓が恭しく頭を垂れ右手を胸に当て立っていた。
「あ、御二方はここでお待ちを。」
顔を見合わせ指示に従う三人に、少年がウィリスとレムリクールに待つ様に言葉を付け加えた。
少年に連れられ階段下の左側通路を通り、アウグストは城内西面の要人控室に案内された。
「アウグスト殿下を御連れしました。」
要人控室の前に着くと、小姓が扉を軽く二回叩きそれを開いた。
扉を開けると部屋の正面に窓があり、王城に相応しい調度品の数々並べられ、アウグストはその部屋の中央に懐かしい顔を見つけた。
「御久し振りです殿下。」
四年振りに再会した懐かしい顔の者は、右手を胸に当て恭しく頭を垂れると、アウグストと同じ蒼い瞳を真直ぐに向けた。
「ブラド、使者とは君だったのか。」
懐かしさと再会の喜びが一気に押し寄せ、あまり感情を表に出さないアウグストにしては珍しく、声を弾ませる。
その者はアウグスト同様の甲冑と制服を纏う事を許された、聖飛竜騎士のブラディスラウス・フォン・ドラクレアだった。
聖飛竜騎士はアトランティス国内外に於いて、法と秩序の執行人の観点からあらゆる武器に精通し、諜報、暗殺、謀略等を手掛ける、非公式の飛竜騎士で単独任務が主である。
半年前に大規模な密輸組織を壊滅させたのは彼一人によるものであった。
歳は十八でアウグストと同じく長い黒髪に蒼い瞳を持ち、任務の特異性に耐えうる精悍な面構えの男で、総髪を項で纏めていた。
「陛下の準備が整い次第、また御呼びに参ります。」
「すまない。」
アウグストを部屋に案内した小姓が声を掛け扉を閉めた。
「息災の様だな。」
「はい、殿下も御変わりなく。」
「遂にその制服を手に入れたのだな。」
「殿下の勇名には及びませんが。」
互いに四年前の面影を残しつつ、少年から大人に成長した雄姿を共に称え合った。
ブラディスラウスはリール城塞攻防戦時の孤児で、十歳から共に戦闘術を学び、誰もが成れる訳では無い聖飛竜騎士の訓練を受け、大人達に神童と言わしめ、成るべくして成った聖飛竜騎士であった。
「それで君が来た理由は。」
アウグストはブラディスラウスに腰掛ける様促しつつ、自らも机を挟んで配された長椅子に深く腰かけた。
「はい、その件ですが、二日前にカロリスが盟邦シュルティスに攻め入りました。」
「何っ。この時機にか。」
ブラディスラウスは淡々と本題の情報を伝えた。
度々両国が大規模な戦闘を行っているのは聞いていたが、この地域一帯は間も無く戦には不向きな冬季を迎える為、時機を逸している事と軍事的均衡が崩れた事に、アウグストは怪訝に眉を顰めた。
カロリス王国は大陸南部の列強国で、小国を次々と併呑し既に大陸の五分の一を版図に治め、大陸の富を欲しいままにしていた。
盟邦シュルティス王国はアトランティス南部で国境を境にする大国で、古くからの同盟国であり、カロリス王国とは度々国境紛争を行っていた。
「・・・それで。」
「シュルティス王の要請により、既に王陛下の命で諸侯に出陣の要請が発せられ、我軍の飛竜騎兵団がシュルティスに向かっております。」
「そうであったか。」
アウグストはブラディスラウスに更なる情報を促し、父王の対応と健在振りに安堵した。
気掛かりなのは諸侯の対応であった。
如何に大国シュルティスと言えど、軍事的均衡が崩れた今、座視していては何れその火の粉が降り掛かる事を、どれほど諸侯が理解しているかだった。
「ニンリル王には私から既に。」
「すまない。それで父は何と。」
「殿下に一任すると。」
アウグストは立ち上がり、西面の窓の外を眺めながら、暫し右手で顎を支え思考を巡らせた。
ニンリルに来て四年が経つが、未だこの国の飛竜騎兵団を育て上げたと、自負出来るものでは無かった。
だが父王がブラディスラウスを遣わしこの情報を齎した事は、それを望んでいる事に他ならないとの結論に達した。
「・・・解った故郷に帰ろう。」
この国の飛竜騎兵団との別れは断腸の思いであったが、情勢がそれを許さなかった。
「御友人の方には私から話しましょう。」
「すまないブラド。」
ウィリスとレムリクールが王都に呼ばれたのは、ブラディスラウスの根回しに因るものであり、アウグストが一介の兵を戦友と呼ぶ事を知っていた。
そしてブラディスラウスは、窓に映るアウグストの瞳に浮かぶものを察した。
気が付くと文章書くより、ウィキで小物データ漁りに時間取られてます。