4◆まさかの嫉妬
イチローが我が家に来て三ヶ月。
イチローは俺に懐くようになり、それに比例して、小春の俺への態度は、ますますキツくなっていった。
「ただい…「おかえりー!」
玄関を開けた瞬間、リビングのドアを後ろ手に閉め、小春がイチローを阻みながら一番に抱き着く。
「ワンッ、ワンッ」と、イチローがドアを開けろと要求しているが、小春はなかなか抱き着いたまま離れない。
「海音、おかえりのチューは?」
「あ、う、うん…」
チュッと唇にキスをすると、満足気にしているのだが、リビングに入ってイチローを抱き上げ撫でたとたんに不機嫌になる。
「私には、そんな表情しないくせに…」
なにやらブツブツ文句を言って拗ねた態度でこちらを見る。
(どんだけだよ…)
相手は犬だぞ?しかも、オスの。
「ちょっと海音!さっきからイチローばっかり構って!私のこと、放ったらかしじゃないの!?」
尻尾をフリフリしながら、俺の顔をペロペロ熱心に舐めるイチローに嫉妬する嫁。
「イチロー、こら離れなさいよ!海音は、私のものなんだからねっ!」「ガルルッ」
「何よ!?ペットのくせに!…ぃたっ、噛みやがったコイツー!」
こうして、…―――俺をめぐってイチローと嫁が闘うという謎の日常が、我が家に追加されたのだった。