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14.江美利

*前回のお話*

別世界に続く洞窟があることを突き止めたタンポポ団は、さっそくそこへ出かけてみるが、残念ながら花咲乱れる地底だった。

 美奈子、浩は元之の家に集まっていた。実際のところ、和久探しは行き詰まってしまっている。

「どうする? 校長先生も博物館の館長も、これ以上何も聞き出せないし」美奈子は溜め息まじりに言った。

「わたしも、図書館で関連のありそうな本はあらかた読んでしまいました。これといって、何も情報はないですねえ」元之もつられて溜め息をつく。

「おれは、二ノ山をもうすぐ掘り尽くすから、次は一ノ山を当たってみるとするよ」そんな浩の右手の平を見ると、マメだらけだった。無理もない。毎日、シャベルでコツコツと山を掘っているのだから。

「ここいらでひとつ、骨休みといきませんか。案外、思いがけないところからヒントが得られるかもしれませんしね」そう元之が提案した。

「そうね、あんまり根を詰めるのもよくないし」

「おれも、ちょっと休むとするかな。そうだ、久しぶりに大里さんのところにでも行ってみるか」浩の言う大里とは、2丁目に住む発明家で、美奈子達は「博士」と呼んでいた。一方で、町の人達は「ネジの緩んだアインシュタイン」だの「出来損ないのエジソン」などと揶揄していた。もっとも、本人はまったく意に介していなかったが。

「それはいいですね。もしかしたら、何か役に立つ発明をしているかもしれませんですからね。美奈ちゃん、あなたはどうします?」

「あたしもほかにすることがないし、一緒に行くわ」


 そのとき、そばで独り遊びをしていた元之の妹江美利が、

「おにいたん、あたちもいく」と言い出した。彼女は今年で2歳になるのだが、不思議な能力を持っていた。

 ときどき姿が見えなくなって、しかも賢者のようにふるまうのだ。

「それはかまいませんが、途中でおんぶとか行っても、わたしは知りませんよ。それに、外は寒いですからね、十分に厚着をしていってください」元之は予め言い置く。

「平気だもん。江美利、1人でちゃんと歩いて行けるもん」

 それぞれ、脱いだコートやオーバーをはおると、江美利の着替えを手伝ってやり、外に出た。

 まだ正月が明けたばかりなので、どこの家でも門松が出しっ放しになっている。

「和久がいなくなって、もう半年が経つのね」美奈子は感慨深そうにつぶやいた。

「弱虫かと思っていたが、最後は勇気を出しやがったな、あいつ」浩もどこか寂しげな表情を見せる。

 30分足らず歩き、やっと発明家の家へと着く。強情なところがある江美利は、結局、一言の文句も言わずについてきた。

 浩がチャイムを鳴らす。「博士ー、いますかあ?」

 すると奧から、パタパタと書けてくる音が聞こえてきた。

「やあ、君たちか。入ってくれよ。すごいものが完成したんだ」弾んだ声でそう招き入れる。

 もっとも、美奈子達はあまり期待はしていなかった。何せ、博士の発明ときたら、どこか抜けているからだった。

 あるときは他人の夢を見られるテレビを造ったまではよかったが、それが画面から飛び出してきて町の人々を驚かせたし、またあるときは超倍率の望遠鏡+微生物まで観察できる装置を発明したが、倍率が中途半端で、せっかく見つけた地球によく似た星の住人を見ることができなかった。

「どんな物を作ったんですか?」美奈子が聞いた。

「まあ、見てもらえればわかるさ」と博士。


 部屋の中は相変わらずごちゃごちゃと散らかっていた。至る所に工具類が置きっ放しになっていて、つい最近まで発明に取り組んでいたことがうかがえる。

「じゃーん! これがわたしの発明品だ」博士がそう言って披露したのは、人1人がやっと通れるくらいのループに、複雑な機械類がやたらたくさんついたしろものだった。

「これ、なんなの?」今度は浩が尋ねる。

「このループにだな、手を通して物を掴むだろ」不思議なことに、ループの反対側では博士の手が消えていた。博士は、テーブルに置いてあったリンゴをつかみ取り、手を引き抜く。すると、リンゴは忽然と消えた。

「な、すごいだろ?」博士は得意満々な顔をした

「これは驚きました。いったい、どういう仕組みなんですか」

「ズバリ言おう。こいつはタイムマシンなんだ。過去からリンゴを取り出して、こうして現在に持ってきたってわけさ。だから、もうテーブルの上にリンゴはないんだ」

「すごい、すごい、すごい!」美奈子は飛び上がって喜んだ。「これなら和久を連れ戻せるじゃないの」

「おお、博士もたまにはいい物を作るなあ」浩も褒める。


「博士、この装置をお借りできないでしょうか。過去に置き去りにされた友人を取り戻したいのです」元之が頼んだ。

「ああ、いいとも。台車に乗せれば、どこへでも持っていけしな。で、その彼はどれくらい過去に行ったんだい?」

「1億年前よ」美奈子が答えた。

「なんだって! 今、1億年と行ったかい? 1日じゃなく?」博士は目を白黒させている。

「そうなんだ、1億年前に行っちまったんだ。何か問題でもあるの?」

「無茶を言ってもらっちゃ困るよ。この装置はせいぜい1週間前までしか行けないんだ。これだけでも電力を食うんだぞ。改良して1ヶ月になんかしてごらん。町中の電気が全部止まってしまう。ましてや1億年なんていったら、1.21ジゴワットのさらに百万倍の電力が必要だろう。水爆100個分のエネルギーを1点に集中させなきゃ無理だ」


「なんだ、期待して損した」美奈子はがくっと肩を落とした。

「やっぱ博士の発明だけあるぜ。がっかりだよ。帰ろ、帰ろ」

「おいおい、ちょっとそれはひどいんじゃないかい。1週間前まで戻れるんだぞ。少しは尊敬してくれよ」しょんぼり顔の博士。

「いやあ、大したものですよ。何しろタイムマシンを発明したんですからね」元之が慰めの言葉を口にした。「ただ、我々の目的とちょいとばかり向きが違いましてね」

 博士は少し元気を取り戻した。

「まあね。このわたしにかかれば、これくらい朝飯前なのさ」

 結局、またしても成果が得られなかった美奈子達3人は、江美利を連れて帰ることにした。

 部屋の中の色々な発明品や庭に置いてあるガラクタを、江美利は物珍しげにキョロキョロと見ている。その様子を、美奈子はつい緑に重ねてしまうのだった。緑も、ちょうどこんなふうだったけなあ……。


 家に帰る途中でのことである。突如として江美利が消えてしまった。

「ありゃあ、またですか。ここ1年近くは消えることなどなかったんですが」元之は困り果てたように洩らす。

「とにかく探そう。どこか近くにいるはずだ。迷子にでもなられちゃ大変だからな」

 3人は江美利の名前を叫びながら、辺りを探し回った。前回のように、ぬかるんだ地面じゃないので、足跡を見つけることもできない。

「弱りましたね。途中で元の江美利に戻ってしまったら、それこそ迷子ですよ」妹を溺愛する元之は心配でたまらなかった。

「手分けして探しましょ。あたしはあっち、元くんはこっち、浩はそっちを探してちょうだい」

 全員が別々の方向を探し始めた。幸い、クルマ通りが少ない道なので、轢かれる心配はなかった。それだけがもっけの幸いである。


 浩は電柱の陰や家の軒下で抱きしめる作戦に出たが、いずれも空振りに終わった。目に見えない者をどうやって探したらいいのか、見当もつかない。

 そのとき、誰かが浩のオーバーの裾を引っ張る者がいた。思わず振り返るが、辺りには誰もいない。

「浩、わしじゃ、わし」江美利の声だった。

「江美利!」浩は江美利を抱き上げた。

「ちょうどいい、ここは人が誰も見当たらぬ。いいか、浩。よく聞くのじゃ。

わしは魔法使いなのじゃ。だが、この幼い体ではあまり活躍もできん。そこでじゃ。お前さんにわしの代わりを務めて欲しい。どうじゃ?」

「なんだって?! 江美利が魔法使いだったのか」

「どうじゃ、引き受けてくれぬか?」

「いいぞ。次はおれの番だってわかってたからな。その代わり、お前はしばらく魔法使いでいてくれないか。5人集まれば集合魔法が使えるんだ。あと1人見つければいい」

「残念だが、それはできぬ。魔法使いは5人しかいてはならんのじゃ。例えそれが過去にいようともな」

「そうか……それは残念だな。よし、わかった。おれを魔法使いにしてくれ」

「よし、決まりじゃな。メリレス! この者の本当の名前を思い出させたまえ」江美利は呪文を唱えた。「さあ、このわしの名を忘れさせるんじゃ」

「おれの真実の名前はリラディスか。よし、いくぞ。リラディス! 江美利の本当の名前を忘れさせてくれ」

 たちまち江美利は姿を現し、元通りに戻った。

「あ、ひろちおにいたん。あたち、1人で歩けるっていったでちょ」浩は江美利を下ろしてやった。


「おーい、美奈子っ、元之っ、江美利が見つかったぞーっ」浩はどこかその辺にいるであろう2人に呼びかけた。

 美奈子も元之も浩のばかでかい声を聞きつけ、集まってきた。

「どこへ行ってたんですか、江美利。迷子になったらどうするつもりです」元之が穏やかに注意する。

「実はな、4人目の魔法使いは江美利だったんだ」と浩。「今はおれだけどな」

「まあっ、これで魔法使いは4人になったわね。あんた、江美利ちゃんの魔法を取り上げてないでしょうね」少し責めるように美奈子が行った。

「いや、それがな、魔法使いは5人しかいちゃいけねえって言うもんでよ」

「でも、前に悪い魔法使いがいたじゃないの。あれはどうなの?」

「そういう奴もたまにはいるんだろ。とにかく、魔法協会の掟らしい。従うしかないじゃねえか」

「そうですね、浩くんの言う通りです。となると、すでに過去にいる和久くんは頭数に入らないので、わたし達3人でどうにかするしかないですね」

「和久ったら、向こうに行く前に誰かを魔法使いにしておけばよかったのに」美奈子はじれったそうに足をならした。

「それを言うなら、お前だって急いで金の扉に飛び込む勢いだったぞ」浩が反論した。

「あれは……あれは、和久が先に行くと思ったから――」そう言ってうつむく。「そうね、誰のせいでもないわね。あたしか悪かったわ」


 翌日の放課後も、美奈子と元之は図書館で文献を調べていた。ほかにすることがなかったからである。

 一方、浩はいつものようにシャベルを持って二ノ山を掘り返していた。汗びっしょりになりながら。

 そのとき、ふいに思いだした。自分が魔法使いであることに。

「なんだ、魔法を使えば住むことだったんじゃねえか」そう独り言を言うと、こう唱えた。「リラディス! この三つ子山にシャルルーは眠っているか」

 すると、頭の中でハッキリこう聞こえてきた。「いない」と。

「なんだよ、今までのおれの苦労はなんだったんだ。っていうか、初めから美奈子か元之に頼めば済んだことじゃねえかよ。まったく、骨折り損のくたびれもうけとはこのことだぜ」

 念のため、近くにある炭酸池でも試してみたが、やはりいないのだった。

「ちきしょー、シャルルーよ、どこへ行っちまったんだよ!」 

*次回のお話*

15.悲しみと不安

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