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13.別世界へ続く洞窟

*前回までのお話*

町中にキノコが生えだした。しかも、マツタケそっくりのワライタケだった。美奈子と元之は消しまくるが、翌朝になるとまた生えてくる。元凶があると考え、ようやく見つけて無事に解決する。

 元之が登校してみると、もう美奈子が来ていて、窓辺から外を見るとはなしに眺めていた。

「おはようございます、美奈ちゃん。どうしたんですか、ぼーっとして。何か考え事ですか?」

「赤ちゃんがで来たの」振り向きもせず、心ここにあらずと言った様子で答える。元之はギョッとして、思わず1歩後ずさった。

 勘違いに気がついた美奈子は、振り向くとニッコリ笑って、

「違うの、おかあさんに赤ちゃんができたのよ」と言った。

「なんだ、そうだったんですか。それはおめでとうございます。それにしては浮かない顔をしていましたね」

「赤ちゃんがで来たのはいいけど、きっと顔を見るたびに緑のことを思い出すだろうなぁって考えてたの」

「そうですか。無理もありません、あんなに可愛がっていたんですからね」と元之。「ですが、忘れなくてはなりませんよ。彼はもともと1億年前の子なんですからね。この時代にいてはならないのです。町が歪んだときのことを覚えているでしょう? これは世界のことわりごとなのですよ」

「わかってるんだけど……」美奈子はうつむいた。

「厳しいようですが、緑君のことはあきらめるしかありません」元之は真顔でそう諭すのだった。


「そうね。それしかないものね。それより、和久をなんとしても連れ戻さなくては」

「あなた、前に校長先生から聞いたと言っていましたね。魔法使いが5人集まれば、強力な魔法で和久君を呼び出せると」

「ええ、集合魔法のことね。でも、今ここには2人しかいないわ。第一、5人のうち1人の和久がいないんですもの、それは無理だわ」

「それはどうでしょうか。そもそも、タンポポ団のうち3人が魔法使いになったのは、果たして偶然でしょうか? わたしはそうは思いません。この町に潜む魔法使い達が、思惑はそれぞれだとしても、わたし達を魔法使いにしようとしているように考えられるのです」

「じゃあ、次は浩の番?」美奈子は聞いた。

「そう、近いうちにきっと」

 そこへ、噂の本人がやって来た。

「おっす。なんの話をしてたんだ?」

「美奈ちゃんのうちに赤ちゃんができたんですよ」

「へえー、そりゃあめでたいじゃねえか。いつ生まれるの?」

「ちょうど春だって」美奈子は、微笑みを取り戻した。

「ふうーん。男なら春男、女だったら春子だな。それで決まりだ」浩は勝手に名付け親になっている。美奈子は笑いながら手を振った。

「そんな安直な名前にするわけがないでしょ。こういう大事なことは、じっくり考えなきゃ」

 チャイムが鳴ったので、それぞれ自分の席へと着いた。


 放課後、3人は揃って帰り道を歩いていた。

「わたしはずっと考えていたのですが」唐突に元之が話し出した。「やはり、星降り湖の森に住む『魔女』は怪しいですよ。あのおばあさんこそ、魔法使いだと思いますね」

「でも、自分では違うって言ってたじゃないの」美奈子は反論した。

「そりゃあ、お前。魔法使いは身分を隠しておかなきゃならねえだろ。自分が魔法使いだ、なんてばらすわけがない」どうやら、浩も魔女が魔法使いだと疑っているようだ。

「第一、変ではありませんか。ふつうの人間が、なぜ金の扉を管理しているのですか。おばあさんは、先祖代々受け継いできたと言っていましたが、どうも腑に落ちません」

「こりゃあ、もう1度調べてみるしかないな」浩は言った。

「で、おばあさんが魔法使いだってことになったら、どうするの? 浩を魔法使いにしてください、って頼むわけ?」と美奈子。

「その通りですよ。その際、すぐにおばあさんの本当の名前を消してしまうのではなく、しばらく魔法使いのままでいてもらうのです。ほら、これで4人揃いました。あと1人魔法使いを探すだけで、和久君を取り戻せるではありませんか」

「あったまいいっ。それだぜ、最高の解決策は。よし、ランドセルを置いたら、美奈子んちの前に集合な。これでおれも魔法使いかぁ」浩は拳を作って、ガッツ・ポーズをした。


 3人が集まると、さっそくカエデ大通りに沿って歩き出した。およそ15で見晴らしの塔に到着し、さらに5分ほどすると星降り湖の森へ向かう脇道へと出た。そこから10分も行くと、通称・魔女の家へと着くのだ。

 冬の夕方は日が暮れるのが早い。森に入ると、すっかり暗くなっていた。1人で来るなんて考えもできない。しかし、おばあさんは独り暮らしなのだった。そんなへんぴなところに住んでいること自体、誰もが不審に思うのだった。「魔女」と呼ばれても当然である。

 家に着くと、浩がノックをした。すぐに、「お入りなさい。鍵は掛けていないから」と返事が返ってきた。

 3人がぞろぞろと入っていくと、クッキーを焼くいい匂いが漂っていた。

「いらっしゃい。今日辺り、誰かお客さんが来るような気がしていたの」とおばあさんは優しく笑いかける。美奈子達は互いに顔を見合わせ、やっぱり! と心の中でつぶやいた。

「じき、クッキーが焼けるから、テーブルについて待っていてちょうだい」

 おばあさんがいなくなると、美奈子は、

「どうやって聞き出すの? 絶対に本当のことは言わないと思うな」

「まかせてください」元之は口の中でもごもごと呪文を唱えた。「シュルラクス! おばあさんは本当のことしか言わない」

「なるほど、その手があったか」浩は膝を叩いて感心した。


 やがて、トレーを持っておばあさんがやって来た。大きな皿には焼きたてのおいしそうなクッキー、それに人数分のミルクティが載っていた。

「もうこの時期、寒くなってきたでしょ。暖かいお茶でも召し上がれ」そう言って、それぞれのテーブルにカップを置いてくれた。

 自分もテーブルに着くと、まずは一口ミルクティをすすり、碗皿に戻す。

「例のあの子は見つかったのかしら?」おばあさんが尋ねる。

「いいえ。方法をさがしているんですけど、いまのところまだ」美奈子は答えた。

「今日はその手がかりを探しに来たのです」元之が口火を切った。「単刀直入にうかがいます。あなたは魔法使いですか?」

 おばあさんは目を丸くして、しばらく何も言わなかった。

「おばあさんが魔法使いなんでしょ?」今度こそ、と美奈子が質問を重ねた。

 おばあさんはふうっと息をついた。さっきの元之の魔法のおかげで、もう本当のことしか言えないはずだった。全員、固唾を飲んで応えを待つ。

「わたしが魔法使いねえ……」おばあさんがやっと口を開いた。だが、その回答は期待したものではなかった。「残念ながら違いますよ。ですが、わたしの祖母がそうでした。このわたしに魔法使いになるようにと勧めてくれたのですが、とてもじゃありませんがそんな大変な責任を負えないと思い、断ったのです。結局、どこかの誰かを魔法使いにしたようですが」

 3人ともがっかりして肩を落とした。


 帰り道、誰もが黙ったままだった。これでまた、1からやり直しなのだ。

 翌日、学校が終わると、浩はまた三つ子山を掘りに出かけ、美奈子は博物館へと足を運んだ。元之は図書館で、すでに読んだ魔法に関する書籍にもう1度目を通している最中だった。

 美奈子が館長に会うと、

「おお、美奈子君、ちょうど連絡しようと思っていたところなんじゃ」とホクホクした顔で出迎えてくれた。

「何かわかったんですか?」

「うむ、このラブタームーラには別世界に通じる洞窟があるらしい。おそらく、それが1億年の昔に通じる道だと、わしは思う」

「まあっ! それはどこにあるんです?」美奈子は手を叩いて喜んだ。

 ところが館長はここでしおれた表情になる。

「それが、どこかまではわからんのじゃよ。何しろ古い文献でな。肝心な部分が虫食いでひどくてなあ」

 喜んだ分、がっかりした度合いも大きかった。でも、一応、元之には報せておこう、そう思い博物館の裏の林へ行き、「ピュアリス! 元君にあたしの声を届けて」と呪文を唱えた。


 ちょうど、「魔法の呪文のコツ」という本を読み返していた元之の頭の中に、美奈子の声がはっきりと聞こえてきた。

「元君、聞こえる? あたし、美奈子よ。今、館長に聞いたんだけど、町のどこかに別世界へ通じる洞窟があるんだって。そちらの方を当たってもらえる?」

「ほう、魔法はこんな使い方もできるのですね。了解しましたよ、美奈ちゃん。ラブタームーラの歴史を調べてみますね」元之はさっそく、端末を使ってラブタームーラの歴史に関する書物を何冊も積み上げた。

 ほとんどはここ最近――と言っても、百年前ほどのものだったが――1冊、いかにも古めかしい本を見つけた。どうやら、千年前に書かれたものらしい。

 読み進めていくと、1人の魔法使いがある山のてっぺんに、洞窟を発見したという。念のため、中に入って調べてみると、花の咲き乱れる世界が広がっていた。しかし、なぜか彼はこの洞窟を岩で封印してしまい、誰も入れないようにしてしまったとのことだった。

 その山の名前は三角山である、とはっきり書いてあった。

「ピラミッドでしたか!」


 日曜日、元之、美奈子、浩はさっそく、三角山――通称・ピラミッド――を登った。標高600メートルの低い山だがかなりの急坂で、みんなふうふう言いながら歩いていく。

 やっと頂上に着くと、人の背丈よりもまだ高い岩がでんと置かれているのを見つけた。というより、以前から知ってはいたが、まさかここが秘密の洞窟の入り口だとは考えもしなかった。

「シュルラクス! この岩をどけたまえ」岩はまるで、自動ドアのようにスルスルと横にずれた。中を覗くと、真っ暗な穴がポッカリ空いていた。

 どうやら、螺旋を描きながら下へ下へと続いているようである。

「みんな、ライトは持ってきましたね? では降りていってみましょう」元之が先頭に立ち、どんどん歩いていく。

「いつか登った灯台みたいだぜ」浩がライトをあちこち照らしながら言う。

 どれくらい下りただろうか。もしかしたら、地上よりも深く潜っていたかも知れない。

 ふいに道が途切れ、またしても大きな岩が立ちふさがっていた。

「どうやら、この向こうが別世界のようですね。これも魔法使いが塞いだのでしょう」

「ピュアリス! この岩を消してちょうだい」美奈子がそう唱えると、突如として黄色い光が溢れ出てきた。

「タンポポ畑だわ!」美奈子は思わず中へ飛び込んでいった。

 あとから入ってきた元之は、しゃがんで1本を摘んでみた。

「いいえ、違いますね。これはキンポウゲですよ。しかも、花びらはどうやら純金でできているようですね」

「純金だって?! 浩が元之を押し退けるように入ってきた。「すげえや。これだけあれば大金持ちだぞっ」

「いえ、1本たりとも持っていかないでおきましょう。この場所が人々に知れたら、それこそ醜い争いごとになるに違いありません。先代の魔法使いも、それを怖れて封印したのに違いありませんよ。わたし達もそっとしておきましょう」

「そうだな、わかったよ、そうしよう」浩は名残惜しそうに溜め息をついた。


 いずれにせよ、ここは1億年前の世界ではなかった。ピラミッドの最下層に過ぎないのだ。

 みんなが外に出ると、元之が呪文で再び岩を出現させ、ついでに頂上の岩も元の位置に戻した。

「がっかりだわ。今度こそ、すべてうまくいくと思ったのに」美奈子は疲れ切ったようにうなだれた。

「あきらめてはいけません。きっと、他にも方法があるはずです」元之はそう言って慰めたが、自分でもこの先どうしたいいのか、わからずにいた。

*次回のお話*

14.江美利

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