出窓の外から
静かにシリーズ化しました。(笑)
2作目です。
今回は彼の目線から書きました。
まだリハビリ中です・・・。
いつからだろうか。
いつもの待ち合わせ場所の向かい側にある、小さな喫茶店に目を向けるようになったのは。
いかにも女性が選んだと思わせる可愛らしい外装の店舗、出窓の内側を飾るレースのカーテン。
待ち合わせの時間潰しに入ってみようかと思ったこともあるにはあるが。
ちらっと見える店の中には、女性客ばかりで。
たぶん、俺が行ったら浮くな・・・。
でも、どうしても目で追ってしまう。
今日もあの人は穏やかな笑顔で、ゆっくりとコーヒーを入れている。
「湊兄ぃ!」
俺を呼ぶ高いソプラノの声が往来に響く。
元気なことは大いに結構だが、そんな大きな声で個人情報を晒すのはやめてほしい。
ほら、買い物帰りのおばさんがじろじろこっち見てるじゃないか。
息子の俺でもうんざりする程の仲良しぶりを見せる両親。
俺・湊介を筆頭に、俺より2歳下の弟・春吾、5歳下の妹・紗奈、10歳下の妹・鈴奈 を設け、
子供が皆成人しても・・・いや、したからこそ一層いちゃいちゃぶりを周囲に見せつけている。
今、息せき切って目前まで走ってきたのは大学4年生の鈴奈。
鈴奈が選んだ大学とアパートに俺が住む町が一番近いということで、お目付け役を親に押し付けら・・・申し付かっているのだ。
末娘が可愛いのはわかるが、いちゃいちゃの時間の三分の一位は鈴奈に向けてやれ、と両親に声を大にして言いたい。
「ごめんねぇ、待った?
大学の中で待っててくれればいいのに~。カフェもあるんだよ」
「大丈夫だから、走ってこなくていいよ。お前よくこけるし・・・。
毎回大学の中じゃ、恥ずかしいからここでいい。ほら行くぞ」
歩き始めながら、もう一度だけ喫茶店に目を向ける。
すると、向こうもこっちを見ていた気がして、咄嗟に鈴奈へと顔を逸らした。
外からずっと店内見てたなんて、ストーカーだと思われたら痛すぎるぞ、俺。
あの待ち合わせの日から、あの人がこっちを見ている気がしてならない。
不快に思ったのだろうか。まぁ、毎回ここで妹とはいえ女待ちしている男なんて、怪しいことこの上ないよな。
けれど俺が店を見ると、あの人は客を相手に談笑していたりする。
気のせいか、と思っても、また次の待ち合わせでも視線を感じたりもする。
紫陽花が水滴を花に飾り付ける梅雨の時期も、日差しが強く暑い夏の日も、道に落ち葉で黄色い絨毯ができる秋の夕暮れの日にも、視線が一瞬だけ絡んだような奇妙な感覚。
いっそ、声をかけてみようか。いや、客として行ったほうがいいのか。
一人住まいのアパートの部屋で、両腕を組みつつ唸る。
いや、俺はなんでこんなにあの喫茶店が気になってるんだ。
違う、な。あの人が気になるんだ。
あの人の笑顔を見ただけだ。声なんて、一度も聞いたこともない。
けど、目で追ってしまうのは。
「あの人を好き、だからじゃないのか。」
気付いてしまえば、簡単なことだった。
心に、すとん、とはまった言葉。
声を、かけてみよう。
「あの、すいません」
それから、あの人が外に出てきたのを見たのは寒い雪の日だった。
緊張から声が震えてもいただろうし、たぶんメチャクチャ怪しい奴だと思われそうだけど。
彼女は俺のしどろもどろな言葉にも、驚きながらも優しく笑いかけてくれた。
とてもきれいな笑顔に、彼女のことをもっと知りたい、と胸が鼓動を早めた。
その後。
彼女は鈴奈と俺が付き合っていると思っていたらしく、誤解を即座に解き、
ゆっくり知り合っていきたい、と言ってくれた。
そして、私も実は気になっていました、と。
顔を赤くして、小さめの声で打ち明けてくれたんだ。
そんな俺達だから、付き合い始めるのに、そんなに時間はかからなかった。
ゆっくり、一緒に歩いて行こう、と告白のやり直しはしたけどね。
カランカラン。
ドアが開くと鳴る、軽く心地がいい鐘の音。
「いらっしゃいませ、外は暑かったでしょう。涼んでいってくださいな」
落ち着いた声音で、にっこりと微笑む彼女。
「こんにちは。そうねぇ、もうすっかり梅雨もあけちゃったみたいねぇ。あ、いつものいただけるかしら。アイスコーヒーで」
談笑しながらカウンター席に腰掛けるのは、もう散々通いつめてくれている古株の常連客。
いつものコーヒーとケーキのセットを注文し、ふと出窓の外を眺めた常連客は目を見開く。
出窓の外には、毎回見ていたあの彼の姿。
そわそわと何かが来るのを待っているようだ。
「彼、どうしたの?」
「ああ、あれは・・・」
と彼女が言いかけたところで、空色に雲のイラストがペイントされたバスが店の前に停まった。
少しするとバスは去っていき、カラン、とまた鐘の音がすると同時に。
「ママただいまぁ!あ、おばさんこんにちは!」
「こんにちは、いらっしゃい」
見覚えのある近所の幼稚園の制服姿で、元気な声で挨拶をする女の子の後ろから、にこにこと微笑みながら入ってくる彼。
「ふふっ・・・今日から午後までの登園になったから心配だったみたいですよ」
面白がっていう彼女は、はい、とケーキの皿とアイスコーヒーを差出した。
その間に、彼に連れられて小さな子は店舗から家の方に入っていった。
冷たいアイスコーヒーを一口飲み、出窓をまたしみじみと眺めて。
「・・・出窓シアターはまだ続いてたのねぇ。これからも、まだ楽しめそうだわ」
常連客の不思議な発言に、彼女は首を捻ったのだった。
はじめましての方も、こんにちはの方も。
お読みいただきありがとうございます。
前作で彼女がメイン目線だったので、今回は彼目線ということで。
前作では感想等もいただいて、私、うれしくて滂沱の勢いです。
しかしなんでか彼はへたれというか・・・ストーカー気質というか、長男なのに
こんなキャラになってしまいました・・・。
彼女はこんな男に惚れるかどうか、はこの際問題外。(笑)
皆様のお暇潰しになどなれたら幸いです。
ご指摘、ご感想お待ち申し上げております。
最後にもう一度。
読んで頂いて、ありがとうございました。