3-7 享楽者
長文なので分割してアップしてあります。
枝番のあるものは一つの文章です。
サブタイトルは便宜上付与しました。
「あの時は無我夢中で」
「謙遜することはない。おれが美しいものを求めて放浪している間、あれほどの衝撃を与えてくれたものはそうはない」
アルを見つめるギーツの表情は真摯だ。リアの中で一つの言葉が急速に浮上した。
「そうか! あなた、『享楽者』なのね。ある意味、魔族らしいわ」
違和感を解消するキーを見つけたリアの声は高かった。
「? 享楽者って?」
「アルは知らないか…。仕方がないわね。魔族の中でも珍しい部類の性質を持つ人間だもの」
リアはアルに語って聞かせた。享楽者とは、一定の土地に居つく魔族の習性から外れた存在であり、流浪を旨とすること。音楽や美術、その他興味を抱く対象に耽溺し、異常なまでの関心が流浪という行為を生むこと。その性情のために凶悪性は持たないながら、関心事以外の全てを投げ打ち、あげく友人知人はおろか家族さえも忘れ去る悪癖を有すること。よって、人の結びつきを壊す者として魔族の中でも忌み嫌われる存在であることだった。
好意的とは言い難い説明を、ギーツは静かな笑みとともに聞いていた。
「…そう呼ばれることもある。おまえさんがそう呼んで納得できるならそれでもいい。ただ、おれに言わせれば、世の中の仕組みなんていう、くだらないものにかまけている他の連中の方がよっぽど享楽的だがね」
「それはあなたの見解でしょ? 他の人はそうは考えないわ」
「ま、普通はな」
ギーツは軽い苦笑で応じた。